第14話 第一小隊
配属試験が終わった俺は、案内役の兵士に連れられて本部庁舎へ向かった。
駐屯地は広く、一つの村ほどの大きさがある。
整然とした建物が並び、空気は張り詰めていた。
本部庁舎の奥――大隊長室の前で、案内役が足を止める。
「案内はここまでだ。中で大隊長がお待ちだ」
ノックすると、すぐに低い声が返ってきた。
「入れ」
扉を開けると、壮年の男が席に座っていた。
鋭い眼光がこちらを射抜く。
「タイチだな。
私はイグナリア駐屯地大隊長、ボルグだ」
ボルグは書類をめくりながら続けた。
「試験の結果は聞いている。
上等兵を打ち負かしたそうだな。
……お前なら、あの隊でも生き残れるかもしれん」
意味深な言葉だった。
そして――
「お前の配属先は――第一小隊だ」
その言葉が、重く胸に落ちた。
「第一小隊は危険な任務が多い。
戦死者も多い。……覚悟しておけ」
「はい……」
そのとき、扉がノックされる。
大柄な男が入ってきた。
「大隊長、お呼びでしょうか」
「そいつがお前の小隊の新入りだ。面倒を見てやれ」
「承知しました」
大柄な男は俺を一瞥し、短く言った。
「新入り、ついて来い」
名乗りもせず歩き出す。
だが背中だけで分かる――
この男は、死線を越えてきた強者だ。
「……あなたは?」
「隊長のデイビットだ」
それだけ言い、デイビットは本部庁舎を出ていく。
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本部庁舎の裏手へ回ると、そこには軍の建物とは思えないほど大きな屋敷があった。
古びた豪邸。
石造りの外壁は欠け、窓枠の木は色褪せている。
「ここが第一小隊の兵舎だ。
元は将軍の屋敷だったらしい」
デイビットが扉を押し開ける。
広い玄関、長い廊下。
だが床には薄く埃が積もり、壁のランプは半分が壊れている。
豪邸の名残があるのに、どこか放置されている空気。
廊下には部屋が並んでいるが、名前札がついているのは四つだけ。
デイビットが名前札のない扉を指す。
「ここが、お前の部屋だ」
扉を開けると、簡素なベッドと机、ロッカーだけの個室。
広いのに、どこか寒い。
「荷物を置いたら会議室に来い。仲間に紹介する」
そう言い残し、デイビットは去っていった。
空き部屋が多い理由が、なんとなく分かる気がした。
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荷物を置き、廊下を進む。
別館の奥、階段を下りた先に重厚な扉があった。
――会議室。
胸がざわつく。
深呼吸してノックする。
「入れ」
扉を開けると、広い部屋が広がっていた。
豪邸の一室をそのまま転用したような空間。
中央には大きなテーブル。
壁際には本棚やソファ。
だが薄暗く、静かすぎる。
その中に――四人の姿があった。
デイビットが俺を見る。
「紹介する。今日からこの班に入るタイチだ」
まず目に入ったのは、壁にもたれて短剣を弄ぶ男。
鋭い視線が刺さる。
「……また新人かよ。
どうせすぐあの世行きだろ」
「ジーク。無駄口を叩くな」
デイビットが一喝するが、ジークは肩をすくめただけだった。
次に、槍の手入れをしていた女性。
長い金髪を束ね、無駄のない動きで刃を磨いている。
「そこで槍を手入れしているのがカレンだ」
カレンは手を止め、静かに俺を見る。
「……よろしく。
足手纏いにならないことを祈るわ」
最後に、薬草を仕分けていた女性が歩いてきた。
柔らかい雰囲気をまとった女性だ。
「私はアリス。この班のヒーラーよ!
よろしくね、タイチくん。怪我したら言ってね!」
唯一の笑顔だった。
少しだけ緊張が和らぐ。
だが――
ジークの刺すような視線。
カレンの無言の圧。
デイビットの厳しい眼光。
この部屋の空気は、常にピリピリしていた。
デイビットが俺の前に立つ。
「第一小隊は常に最前線だ。
死と隣り合わせの任務ばかりだ」
その言葉の重さに、胸がきゅっと締まる。
デイビットは続けた。
「……それと堅苦しいのは無しだ。敬語は使うな。
ここでは実力だけが物を言う」
緊張が少しだけ解けた。
だが同時に、背筋が伸びる。
こうして俺は――
第一小隊の一員になった。




