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教科『異世界』の時間だよ! ~武器と魔法とスキルを学んで、仲間と共に異世界を歩き、モンスターを倒し強くなれ!~  作者: 藍染クロム
Ep4.蟻の神兵

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-2.現地入り

 湿った落ち葉と土の匂い。風に空を覆う枝葉が揺れている。葉っぱの天井から、かすかに青白い光の空が見えている。俺の前には、見慣れた彼女の淡い髪。


「ぼーっとしないでね」


「まさか、ミナモさんにそんなことを言われる日が来るとはね」


「あ?」



 盆樹海。ここは、元は大地がすり鉢状に窪んでいる、樹海の中にあるへこんだ地形の森だった。そこに、ある日突然、言い知れない不可思議な暗い穴が現れた。異変はそれだけで終わらず、そこから、人ほどの高さの、あるいは軽い車のような大きさのアリが、穴の中から湧き出すようになった。


 付近のギルドの観測班がこれを見つけ、すぐに冒険者を集めて調査が行われたが、分かったのは、そのアリが人類に敵対的であり、なおかつ生半可な戦力では相手にならないということ。本件はすぐに勇者協会に引き継がれ、今もなお、湧き続けるアリの対処に勇者たちは追われている。


「強い人が来て、さっさと終わらせたらいいのに」


「強い人は暇じゃないんだろ」


 俺たちは何でもない森の中を歩いている。ざわめく木々の下、暗い地面の上を、彼女の背中を追ってただ歩いていく。人気もなく、ただ静かな、人の手入れの入っていない森の中。今のところ何のモンスターとも出会っていない。不気味なほど静かな森だった。


 今回の作戦には、勇者見習いであるミナモさんも呼ばれている。勇者は、自身の裁量で冒険者の助っ人などを呼ぶことができ、俺がそれに選ばれて俺もここに来ているわけだ。


「と言うか、呼ばれたのはお前だけか?」


「私だけって?」


「いや、モモモとかキララさんとか。今回の任務には呼ばれてないのか?」


 彼女は「あぁ……」と呟く。


「今回“適してた”のは、私だけだからね」


「適してた?」


 俺が聞くと、彼女は答えてくれる。


「そう。モモちゃんは強いけど、モモちゃんの戦い方が奇襲や待ち伏せが主だから、今回みたいな強制戦闘には向かない。キララの魔法は強いけど、消耗すると反動が怖いから今回みたいな長時間の持久戦には向かない。ヒカリちゃんは強いけど、射程が短くて単発の火力が低めだから今回の相手には向かない。ワカバの大砲は使えるし欲しいけど、今回の相手には少し火力不足」


 名前すら上がらないヨウゲツさん。


「お前は?」


「持久力〇。火力〇。判断力〇。相手との相性〇。別に、私がこの中で特別強いって訳じゃないけど、戦力が低い見習いの中で、今回の作戦への適性が高い私が招集に引っかかった。それだけ」


「判断力〇? お前、判断ミスで謹慎させられてたんじゃないのか?」


「正しいことをしても、勇者の規定に引っかかれば処分は受ける。私は必要な判断をして必要な処分を受けただけ。上もそう評価したんじゃないの? 知らないけど。まぁ、かっとなって目の前の人を殴ったりするアオイくんとは違うんだね」


 はいはいそうですねー。と、しばらく歩いていると、森の先に人影を見つける。そこに立っていたのは、白や銀を基調とした、全身鎧と大きな剣を持ったお姉さん……どこかで見たことがあるな。


「あ! キョウゲツくん! ミナモちゃん! こっちですよー!」


 溌溂とした元気な声、俺よりひと回り年上の勇者の先輩。思い出した、シルベヤマで俺が魔王軍の子に襲われてた時に助けに来てくれた、


「ミズノ先輩! お久しぶりです!」


「あれ、キョウゲツくーん、私のこと覚えててくれたんだー! 嬉しいー!」


 ミズノ先輩も俺のことを覚えててくれたらしい、彼女は手を振って俺たちを迎えてくれる。


「授業で見なかったから“あれ?”って思ってたけど、ちゃんと元気にしてるみたいだねー、良かったー」


 ミズノ先輩は俺の方に気軽に触れてくる。ちょっと距離が近くてドギマギするな……。


「授業ですか?」


「うん! わたしはね、後輩の子に“スキル石”の使い方の授業をしてたんだよ!」


 そう言えばヒカリちゃんが“溜め切り”を使うようになっていた。ミナモさんも使えるようだったし、普通なら、みんなこの人から習うようになっていたのだろう。


「先輩、お疲れ様です」


 と、ミナモさんは対照的に冷めた態度でミズノ先輩に接している。


「ミナモちゃんも久しぶりー! 元気だったー?」


「えぇまぁ。おかげ様で。今日の調子はどうですか?」


「今日? わたしはもちろん、元気いっぱいだよ!」


「……いえ。先に敵とか見てますか?」


「あぁ、そっち? そうだよね、わたしのこととかどうでもいいよね! 今のところわたしは対象は見てないよ! ここは“網”の一番外側だからね!」


 “網”。おそらく、勇者協会の方で展開している、例のアリの分布を囲い逃がさないための警戒網だろう。


「私たちは、“網”の中で各個撃破して回ってる“討伐隊”が漏らしたアリが、ここまでやってきた時の予備選力! 一匹二匹なら頑張って相手するけど、相手の本隊がこっちにやってきた場合は報告だけ済ませて撤退するよ!」


「俺たちは、ここで何かが来るまで待ってればいいってことですよね」


「まぁそうなるね!」


「“討伐隊”はどうですか? 敵の巣穴まで叩けそうですか?」


「難しいねー。一応、今回は地上に出てくるアリを潰して、数が減ったら巣穴の調査に行こうって話だったけど、倒しても倒しても巣穴から新たなアリが出てくるんだ。もしかしたら、もっと上の勇者を呼ぶべき案件かもしれないね」


 勇者協会でも思ったより手こずっているらしい。人類側の最高戦力である“七星”が来ればまぁ一発で終わるのだろうが、“七星”はよほど人類を脅かす危機に瀕しないと動かせない。“七星”の強さを形作っているのは、国家規模で集められている膨大なエネルギーであるからだ。


 それは使えば減ってしまう。使い時を見誤ってばかすか使っていれば、本当に有事の際に使うべき力が残らない。そういう理由で、“七星”の出動は極めて慎重に発せられる。それこそ、大魔王の討伐だったり。


「ま、そっちは私たちの仕事じゃないからあっちに任せよう! そんなことより、いつ敵や連絡が来るか分からないから、二人ともいつでも動けるように構えていてね!」

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