第三話、びっくり城(じょう) ーII
「ワカナー。そういや最近、アルメリアとかは何してんの?」
「アルメリアなら何か食ってるぞ」
ほかに何か言われることはないのかあいつは。いつも食ってばかりいるのか? まぁ、あの超パワーの維持のために、燃料補給にいそしむのは分かる。乳もでけぇし。俺が迷宮街に滞在していた時も、持ち前の超パワーで集落の困りごとをいろいろ解決していた。
「ねーちゃんなら引きこもってる。カズハにーちゃんは頑張ってるけど、馬鹿だからミスが多いな」
ろくな報告がない。
「アルメリアは、まだ迷宮街に居んの?」
「あぁ。ただ、そろそろ世界を見て回りたい、とか言ってたから、その内街を出るんじゃないか? “お宝レーダー”とかよく分からないものを持ってるって言ってたし、俺もあいつに付いて行って、一緒に宝探しでもするつもりだよ」
いいなぁ、そっちも楽しそうだなぁ。
俺たちが森の中を歩いていると、その森の切れ目から、不自然に森の上に突き出ている構造物を見つける。下の石垣から、これまた不自然にライトアップされていて、夜の森の上に白い外壁のどでかいお城が際立って見えている。
「……おい、あれか? なんだあれ」
「ちまたでうわさの、アトラクション」
そこに聳え立つは、立ち入るものを無闇に驚かせる、名を“びっくり城”。
俺たちが、その麓まで辿り着くと、城の下部は石垣で積み上げられていて、少し高いところに入口のような木の扉があり、斜めに立てられかけた木の板が、地面からその入り口まで長く伸びている。
「あそこから入んのか?」
ワカナはその高いところの入り口を指さしている。
「じゃない?」
「何しに行くんだ?」
「中の調査。人が居なくなっていたり、危険な仕掛けが出てきたりしないか」
にゃあ……と、背中の袋がもぞもぞとうごめき出す。彼女が起きたらしい。
「ごしゅじんさま……? あえ、ここは……?」
振り向けば、猫の頭が袋から出て、寝ぼけた様子で周りを見渡している。
「おはよー、ヒメトラ。今日は楽しい場所に連れて来たよー」
襖を開けると、ばーいんと人形の頭が飛び出てきた。ぐわんぐわんと、取り付けられた下の箱からばねが伸び、それがたわんで揺れている。
「ふにゃぁああああああああああ!!!」
ヒメトラは人間の形態になって、ネコのように飛び上がり四肢を着いて畳の上を走り回っている。
「なななななんですかごしゅじんさまこれは!!!」
彼女は俺の背中に隠れ、俺の肩に手を付いて向こうのバネ人形を窺っている。
「ここはねー、びっくり城っていう場所でねー、歩いているとこういう風に、びっくりする仕掛けが色々見られるんだよー。面白いでしょー」
「ヒメトラは面白くないです!!!」
「俺は、驚いてるヒメトラを見てて面白いよー」
「ヒメトラは面白くないです!!! これはペット虐待に当たりますよ!! 近所中に言い触らしてやります!!!」
「やめようねー」
どこで覚えてきたその効果的な脅し文句。ヒメトラは、ぽんと、その形態を小さな猫に変える。俺の服や体に爪を立てて、いてて、足元から俺の体をよじ登り肩のあたりまで登ってくる。そうか、ヒメトラはこういうの苦手か。子供なら喜ぶと思ったんだけど、逆効果だったかな。
「誰が、何のために置いてんだ? これは」
と、ワカナはこういうのに耐性があるらしい、さっきから平然としていて、その頭の付いたバネ人形に近寄り、興味深くそれを見つめている。
「ここの人じゃない?」
「ここの人って誰だよ」
「食べられちゃいますよ!!」
「口無いだろ、この人形」
ワカナがその頭を掴んで引っ張り、離すと、バネの付いた頭はぐわんぐわんと揺れている。
「なにもな「テテーーーン!!!「ふにゃぁああああああ!!!」」」
人形の頭が割れて、そこから効果音とともに旗が飛び出した。そばで叫ばれて耳がいてぇ、ヒメトラは人間の体に変化して、あぐらをかいて肩車のように俺の肩から上にしがみついている。重いし前が見えねぇ。
「ぜぜぜ絶対にヒメトラから手を離さないでくださいよ!!」
「うん。両手とも繋ぐのはやめようか。歩きにくいからね」
見た目には、ヒメトラの方がお姉さん、外から見たら、ヒメトラの方が俺の手を引っ張っているように見えるのだろうか。俺はでかい娘の手を握り、歩いていく。
「ずいぶん仲良さげだなお前ら」
先を歩くワカナは苦笑し、あるいは幼子を見守るような目で、繋がれた俺たちの手を見ている。
「なんだ、羨ましいか? お前も手を握ってて欲しいか?」
「あぁ、ぜひ頼むよ。ただ、びっくりした時は全力で握っちゃうかもな」
俺の手なくなるよそれ。
城の中はどうも異空間が広がっているようで、入り口から入ると、小さな、襖で区切られた畳の部屋、襖を開けるとまた同じ部屋がある。ひたすら直進しても向こう側の壁には辿り着かなかった。たまに、上へと続く木製の急な階段や、さっきのような驚く仕掛けが置いてある。
「どこ目指しゃいいんだ? これ。開けても開けても同じ部屋だしよ」
「とりあえず上じゃない? 一番下から入ったんだし。こういう城は、一番上に一番偉い人の部屋があるんだよ」
「ふーん。じゃあ、そこに今回の“お宝”があんのか?」
「どうだろうね。あるといいねー」
再び襖を開けると、部屋を丸々占拠して、畳の上にでかめの水桶が置いてある。水の上には蓮の葉のような水草が浮かんでおり、中には小魚が泳いでいるようだった。
「もう何があっても驚かねーな」
「ヒメトラ、おさかなさん食べちゃダメだよー」
「こんなちっちゃいのはわたし食べません」
俺たちは部屋の中央に置かれた水桶を回り、向かいの襖がある所まで歩いた。
「結局何にもねーのな、その水桶は」
「身構えてる時には来ないんじゃない?」
「これは安全な水桶ですね!」
てしてしと、ヒメトラが足で水桶の外側を小突いていると、水面の中央からちょうちんあんこうみたいな恐ろしい形相のバカでかい魚が頭を出した。
「ふにゃぁあああああ!!!!」
ヒメトラはその場でひっくり返っている。