幸運の魔法
「っしゃあ!まくれまくれまくれえ!!」
ここは東京にある競馬場の一つ。タケトとナユタはある人物に呼ばれてここに来ていた。平日ではあるが、馬たちに人生を賭ける猛者たちが今日も荒れ狂っている。
「失礼だろ。普通に馬好き、レース好きもいるわ」
「いや、目の前の俺たちを呼んだ人の熱量が」
「それは否定できない」
「よしよしよしってくんな!てめえは出てくんじゃね… だあああああ!!!」
目の前で叫んでいるのが今回タケトたちを呼び寄せた人物。同盟幹部の一人『毒竜』毒島・アヴェル・タカフミである。タケトたちが到着したにも関わらずレースに夢中。そして、どうやら馬券は外したようだ。自身の爛れた肌が目立たぬように帽子を深く被り、襟を立ててコートを羽織っているのだが、その風貌は言動も伴って逆に悪目立ちしそうである。それはともかく、先程の熱の入りようからまともに話せる状態かも怪しいと思われた。
「くそがっ!なんでここで出てくんだよ。さっきこいやさっきよ!ったく使えねぇ… んあ?んだよ来てたのか」
やっとこちらに気づいてくれたようだ。会話は可能なようで安心する。
「悪ぃな、こんなとこに呼び出してよ」
「お久しぶりです」
「ほんとだよ。というか、こっちに気づかずに、はまだしもさ、彼女をほっぽって馬に夢中はどうなんだい?」
彼女、と言ったナユタの視線の先には、周囲の人間の注目を集めまくっている妖艶な美女が一人。こちらも同盟幹部が一人『独善女王』不動院アマツだった。
「彼女が会わせたい人、ですか?」
「いや、アイツは…」
と、タカフミが話そうとするとアマツが気づいてこちらにやってくる。その歩みの一歩一歩が蠱惑的で、おそらくは長く女に触れていないだろう男たちから虜にしていく。
「お主が白タケトか」
こちらを品定めするようなその視線に、さすがのタケトも戸惑いを隠せずに生唾を飲む。
「ふふ… なかなかに見処があるではないか。我の付き人にしてやってもよいぞ?」
「「はい!悦んで!!」」
聞かれてもいない周囲の男たちが叫ぶ。
「黙りな」
一瞥もくれずに一喝するアマツ。それに歓喜する男たち。「これが独善女王の力…」とタケトは恐ろしくなる。
「こいつは勝手に着いてきただけだ。テメェに会ってみたかったんだとよ」
「そう我を邪険にするな。共闘する者同士、お目通しはしておかねばならぬは当然だろう?」
「たしかに。私もお会いしたかったよ。火纏一刀流師範 刀禰谷十三郎ナユタだ」
女性同士とはいえ、この溢れる誘惑の呪力に微動だにしないのはさすがの一言。剣の、そして鍛冶の厳しい修行の賜物なのだろう。
「で、本題なんだが… 何処行きやがった?」
タカフミが周囲を見回す。
「お、いたいた。おい!クソジジイ!!」
「ほっほっほ。口が悪いぞ。ワシがクソジジイならキサマはクソガキじゃ」
髪の毛は無く、歯もところどころが抜け落ちている皺とシミだらけの老人。親子か爺孫の関係と言われても納得しそうな風貌である。
「ったく、どこ行ってやがった」
「換金」
「はあ!?」
「ほっほっほ。3連単。37万勝ちじゃい」
「っざけやがって!」
と言い合っている姿は本当に身内のようだ。だが少し違うらしい。
「このムカつくジジイは…」
「今はモグラと名乗っておる」
「だそうだ」
腐れ縁というやつらしい。賭け事好きな者同士。よく見る姿だという認識から、ふとしたきっかけで会話になり意気投合。合わないところの方が多いはずなのに、気がつけば一緒に飲んだくれている。
「それはどうでもいいんだよ。ほらジジイ、さっさとやってやれ」
「急かすのぅ。どれどれ…」
モグラと名乗った老人はタケトを見る。覗き込み、警察の身体検査のように体を触る。
「え?えっと…?」
「このジジイははぐれだ。術は幸運の調整っつー胡散臭いもんだ」
「胡散臭いとはなんじゃ。キサマも助けられたクチだろうに」
「ってわけだ。胡散臭えが効果は有る。お前らもやってもらっとけ」
身に付けている物の中でも、とりわけ愛着の高い物や何らかの思いの込められた物、それを強制的にラッキーアイテムにする術らしい。たしかになんとも胡散臭い。だが、同盟の幹部、しかもギャンブラーが言うのだから効果は間違いないのだろう。
「でも、どうして俺たちに?」
「あ?ヤマトの頼みだからな。アイツにはちょっと借りがあってよ」
「どうして私も?」
「ほっほっほ。そりゃワシの好みのタイプじゃからして」
と手つきがいやらしくなったモグラの頭にナユタが鉄拳を食らわす。だが、もちろんそれだけが理由ではない。モグラはナユタを知らなかったし、名指しで呼ばれたのだから。
「…ヤマトの頼みだ。タケトの嫁の友人で戦闘面での実力不足。ってのがアイツの見立てだ」
「…ふぅん。ナメられたものだねぇ。未来の盟主さんにさ」
明らかに不機嫌になる。それは当然だ。自分より若い、さほど面識のあるわけではない者に『弱い』と言われて一方的にサポートを受けるのだから。
「単純な殴り合いなら俺のがザコだ。今回の敵ってのがアレなんだろ?」
「だろうけどさ」
呪具作成の匠、刀匠としての腕がナユタの真骨頂。その呪具が神クラスの相手にどこまで通じるか、ということなのだろう。だが、それでも不満だ。それはつまるところ今回の戦いでは、いや、これからも起こりうる『そういうモノ』を相手にした戦いでは自分の存在価値が意味をなさないことになるのだから。
「そろそろ終わったか?ふむ、なにやら深刻そうな顔をしておるが… まぁ、どうでもよいか。それよりもナユタよ、我に武具を打ってくれぬか? 以前に流れてきた小刀が素晴らしく扱い易くての。もし我個人のために打ったならばどんな物が出来るのかと年甲斐もなく興奮しての」
いつの間にか輪から外れ、周囲の人間を下僕に従えていたアマツが再び戻り、ナユタに興奮気味に声をかけた。話を聞いていたわけではないだろうに、あまりにもタイミングがよい依頼にナユタは表情か柔らかくなる。
「ははっ!もちろんだ。他では満足できなくなる逸品を生み出して差し上げるよ」
「ほっほっほ」
各々のラッキーアイテムの調整は完了し、ナユタとアマツは二人で工房へと向かう。こっちの二人ともまた違う、タイプがまったく異なりながらも意気投合する関係。少しうらやましいと思うタケトだった。
「いや、お前とヤマトもたいがいだろ。変人て意味じゃ同じだがよ」
なんとなく近くの酒場に三人で入る。というか、タカフミが大勝ちしたモグラに一杯奢れとたかったからだ。そして、ついでにお前もこいと引っ張られたわけである。
「タカフミさん、俺たちって知り合ってまだ間もないですよね? 絶対友達いないですよね?」
「うっせぇわ!俺は毒吐いてなんぼだっての」
「ほっほっほ。愛情表現拗れてるからの。これで嫁がおるんじゃから謎じゃい」
「たしかに……… へ?」
「聞き流さなかったか… おいクソジジイ」
「お?まだ秘匿事項じゃったか?」
「テメエ以外誰も知らねえよ。おいクソガキ!絶対誰にも言うなよ?絶対にだぞ!」
よもや、この男に伴侶がいるとは。いろいろあって入籍はしていないとのことだが、実はお子さんもいらっしゃるとか。
「現状の立場的に弱みは一切持たねぇ」
「ほっほっほ。この戦いが終わったら、じゃな」
「それ、ダメな方のフラグですよ」
「ま、そういうわけでよ、このジジイの術は俺のお墨付きってことだ」
タカフミがグラスに残る酒をぐいと飲み干す。照れ隠しだろう。ペースが早い。
「酔い潰れて死んだらそれこそですよ?」
「やかましいわクソガキが。つーか、テメエもヤマト以外に友達いねえんじゃねえのか?」
「失礼な!いますよ」
「……10人くらい?」
微妙な数字に反応に困るタカフミとモグラだった




