熊埜御堂ミコトの長い一日・後編
慌てて帰ろうとするミコトをマサナリが引き留めて、空間移動の術で瞬時に戻る。そんな一部始終を見て、やはり未熟と苦笑いする師夫たち。
「まったく。いつまで経ってもアホのままか」
「ふふ。しかし協会幹部としての仕事はしっかりとなされておられるようで」
淡島が何かの切れ端をすっと手渡した。それを見てノリヒトは驚き、そして大笑いした。
「はっはっは!たしかにな。馬鹿息子がここまで成長していたとは嬉しい誤算だ」
弟子たちはもちろん何があったのかと気になって詰め寄る。キヨノもその一人だ。だがノリヒトは話さない。強制的にここで話しを終わらせた。
「事が終われば全て話してやろう。それまで楽しみに待て。そして、その日までもう話題に出すな」
と。その顔が普段とは異なるあまりにも優しい表情で、しかも強い意志を持ったものだったので、皆それ以上追及することなくそれを受け入れた。二人の信頼の賜物である。
さて、そんなこんなでミコトは協会本部へと向かう。マサナリは自分があまり近づくと良くないだろうと少し離れた場所へと転移させてくれおり、そこで二人は別れていた。
「さてと、どーなってっかな~」
近くまで走り、そして入口近くで歩みを遅くする。空気を伺いつつ近寄ると、それに気付いた警備の後輩たちが慌ててやって来た。
「ちょ!ミコトさん、どこ行ってたんですか!?」
「もう皆さん揃ってますよ? てかヒジリさんとかかなり…」
「私がどうかしたか?」
後輩たちが声もなく縮みあがる。ミコトも苦笑いだ。
「では行こうか。言いたいことは山ほどあるが、それは他の者も同じだからなぁ」
「は、はは…」
もはや観念したとばかりに肩を竦めてヒジリの後ろをとぼとぼ歩く。その姿に後輩たちは自業自得とはいえ同情の念を禁じ得ない。
「ああ、それと」
ヒジリが立ち止まって後輩たちを優しい目で見つめて呟く。
「くれぐれも、部屋の中に聞き耳をたてるとか無粋な真似はしないように、な?」
「「はいい!!」」
「お待たせ~」
ミコトが何事もなかったかのように皆に挨拶をする。そんなミコトの頭にヒジリは手刀を乗せた。
「領収書の件は不問じゃないですよ?」
とシラベも追い打ちする。
「うへぇ」
そんなやり取りに一同は笑っていたが、コウシロウがさっそく本題に入ろうと場を仕切る。
「全員揃ったな。各々情報は入っていたとは思うが、改めて先ずは全てを共有しよう」
一同が頷く。が、久しぶりに絡むのを楽しみにしていたのだろう、ナユタが椅子の上で胡座をかきつつ腕を組み、呆れたようにミコトをいじる。
「それにしても、最初に聞いた時はついにやらかしてくれたかと心が踊ったのだがね。いや残念」
「うっせ。つーか、どっちかってったらコウシロウの方だろが。俺が咄嗟に合わせたからよかったもののよ」
「ふん。キサマを粛清するのにいい機会だったのだがな。合わせたというのなら、まぁ及第点だ」
「っらそーに。ま、そうしてペラペラ喋ってられんだから、全部排除出来たってことでいいんだな?」
ミコトがタケトを見る。そしてタケトはちょっと困ったような顔をする。
「ええと、正確には全部ではありません。全部を、となるとこの建物が全壊レベルで暴れることになりますので。とりあえずはこの会長室、その両隣、ここから玄関までの通路、は間違いなく。その後に新たに設置された形跡もありません」
「タケト君のその目の力は素晴らしいね。是非とも量産したい術だ。機会があれば解析を…」
「皇さん、そういうのはまた別の機会に」
「ふむ、すまん。では、それ以外の場所は未だに盗まれ続けているのだね?」
タケトが大きく頷いた。
そう。この呪術師協会本部は盗聴されている。タケトがそれに気付いたのは最近のこと。先日の事件で自分たちが監視、盗聴されていることを知り、また彼の老人とは別にそういうことを行っているモノ達がいることを知った。故に盗聴器、そしてそれに纏わる術の有無を左目の力を用いて探索した。それも誰にも気付かれぬよう個人的にこっそりと、だ。
タケトは愕然とした。何しろこの建物、まんべんなく盗聴盗視の術が設置されており、それを隠す術も掛けられていたのだから。
「表向きはあの山奥のが協会本部ですよね? なのにここに、これだけの量がとなると、最初から敵にはバレていたってことですよね?」
「そう考えるのが自然だね」
「工事業者とか調べたり」
「してないし、しないよ」
タケトが何故?と身を乗り出して会長であるナオズミに迫る。が、それを穏やかに嗜める。
「せっかく気付いてない風を装っているのに、そんな行動に出たら無駄になる。それに、俺が敵の立場なら設置した直後に関わった形跡は全て消す。もしくは気付かれた瞬間に消せるようにしているだろうね」
実行者が敵本人ならまだしも、それと知らずに、または強迫されていた一般人だった場合。自分が行動に出たために失われる命があるかもしれない。そう気付かされて自分の言動の軽率さを恥じた。
「まぁ、盗聴のことは先日のことで皆が共有できてたし、こうして自由に作戦を練れる場所が出来ただけでも大進展だよね」
落ち込むタケトを慰める。盗聴盗視術の位置を把握し、それを敵に知られぬように伝達したのは大きな功績なのだ。しかし「相変わらず全てお見通し。対処も早い。まだまだかなわないな」とタケトはちょっと悔しがる。そして、いつか必ず追い付くとも思った。そしてその姿(主にナオズミ)に感動し涙するジョナサンだった。
「ええと、ここまでは皆さんなんとなく理解していた部分だよね? 本題はここから、これからどうするか?ということでいいのかな?」
このままだと横路に反れそうと感じたのか、普段は会議で喋ることのないカナタがつい口を出す。そして気をつけていたのに自らが話が反れるきっかけの一つになったコウシロウがヘコむ。
「ですね。ではさっそく確認ですが、皆さん修行はどの程度まで進んでいます?」
ナオズミが皆を見回す。それに対して皆が自信満々な目で見返す。中で不安そうな者が一人。アナが気付いて声をかける。
「タケト氏は微妙であられるか?」
「いや、自分は大丈夫です。ただ… あの二人が正直まだ不安で…」
その言葉にヒジリ、ミコト、コウシロウが苦笑いする。
「弟子を持つ師の気持ちを理解してきたようだな。私たちの苦労が身に染みるだろ」
ヒジリがタケトの頭を無造作につかんでぐりぐりとこねる。その様子を見て皆が微笑んだ。
「ま、あの二人なら問題無いだろう。未熟とはいえ自身の力への理解力は我々並みに深い。むしろ」
「だな。お前のが不安だぜ?」
「大丈夫ですよ。対話も済ませましたし。本当に問題ありません」
堂々と返すタケトに師たちも安心した。
「では、戦力は調った。ということで進めます。向こうの動きも、こちらで確認が取れるものが出る程に活発になってきました。決戦の日は近い」
「で、あの方は何て?」
「さあね」
「さあね、って。あんた繋ぎ役じゃないの?」
「俺は繋ぎの繋ぎだ。いたろ?あのちっこい姉さん。アレが側近」
「あ~ って、そんなのはどーでもいーのさ。これからどうするの?やりたいようにしていいの?後から罰とか本当に嫌だよ?」
都内某所の高級レストラン。気だるい声のボサボサ頭の青年と、神経質そうな声の美少年。いや、酒を呑んでいるのだから少年ではないのだろう。しかし、その会話からは少なくともこの場に相応しいものを感じられない。周囲の客も気になり、苛立っている者もいるようだ。
「そこは心配ないだろ。あの方の望む結果さえ成就できりゃな。だろ?」
そのテーブルにはもう一人、長髪で青白い顔の細い男。物静かでテーブルマナーはしっかりしているが、その見た目がやはり不快感を与える。
「あの方は過程に、拘りが無い。我らがどのように、を楽しもうとしている、ようにも思える」
「楽しんでもらえるなら何よりだ」
「僕は僕がおもしろければ何でもいいさ」
各々納得して酒を飲んだ。そこにギャルソンがやってくる。
「すみませんお客様、他のお客様のご迷惑になりますのでもう少…」
ギャルソンの言葉が途切れる。そのまま二度と動くことはなかった。
「んじゃさ、こいつら全員、喰ってもいいってことじゃね?」
「きれいに残さず、ならな」
二人は細身の男を見る。男はニヤァと不気味な笑顔を見せ…
「いただきまぁす」




