トモダチ
「よっ!」
「ほんとに唐突だよな。今度は何のサプライズだ」
幼なじみのマヤと親友の一人であるヒデの一家の帰省。前回は内緒で生んでた息子というサプライズで父カナタを卒倒させた。今回は何をしでかす気か、いやしでかしたのか、自分はともかくカナタの心臓が耐えられるのか、という心配でため息しか出ない。
「残念ながら普通に帰宅よ。ヒデの仕事が無事に終わったからね」
「いや、十分にサプライズだろ。え?遷宮終わったの?連絡くれよ。時間取れれば見たかったのに」
「わりぃな。まぁ教えてたとしても見れたかはわかんなかったけどな。俺程度は中にも入れてねえし」
「そっか~」
父の神社改修の仕事に着いて行き、修行の一環としてバイトで雇ってもらい、同時に向こうの大学で建築の勉強もしていたヒデ。その仕事にはタケトも興味がありいつか現場を見学したいと思っていただけに本気で残念がっていた。
「ん?帰宅?大学は?」
話しながら家に入ると、カナタが今度は何だと激しい動悸で倒れかけ、ムギちゃんは彼らの息子のユキくんに興味津々で、連絡を受けたチヨは笑顔でお茶を入れる。女子同士で積もる話もあるだろうに、こういうところがすごくしっかりしていて、タケトは申し訳なくすらある。
「一応休学届けは出してきた。復学するかは未定」
「いや、未定て。もったいなくね?」
「元々は仕事のついでに勉強できるし、資格もいろいろ取れそうだしって感じだったからな。資格はあったにこしたことはねーんだけど、やっぱり実力は場数をこなさねーと身に付かねーって実感したし」
「基本が身に付いているからこその理論だな。剣術にも通じるところがある。まぁ実力だけあっても段位がなければ何もさせてもらえないこともあるが」
「ま、大学出てねーと無理ってわけでもねーし、そこは平和になってからしっかり考えるわ」
「ふーん… え?平和って?夫婦不仲?」
「「違~う!」」
「なるほどね。そんなことが…」
「詳細は知らねーよ? でもわざわざ仲間内で『依頼主が怪しい』なんてなかなか言うことねーからさ。親父も気にしてたくらいだし」
「そっちもなんか動き、あったんでしょ?」
「え?なんで知ってんの!?」
「図星か…」
「そうなのか?教えてもらってないが?」
マヤの不意の一言に口を滑らせ、呆れるマヤと怒りと悲しみのチヨ。そして青ざめる男子一同。
「飫弄を見ればわかるわよ。意志疎通が前よりできるようになった気がするのよね~私もついに術師の力が目覚めちゃった?」
「飫弄がお前の扱い方が上手くなっただけだ」
「ひっど!」
相変わらずの幼なじみ同士の絡みに苦笑い。式神飫弄もキキッと笑う。だが、大事な話の途中だ。うやむやにされてはよろしくないとチヨが会話の途切れた一瞬にすっと入る。
「それで、動きとは?」
「ん。今協会が関わってる… 『一連の事件』ってされてる事件らがあってさ。なかなかに厄介なんだ。失敗しても何らかの結界の生成が進行する設定だったようでさ、今はその結界の中身の調査が始まってる」
「なにそれ!?やるだけ無駄ってこと?」
「仕事が成功しても悪い方に進むっつーのは、ちょっとキツい… ん?結界の調査?まだ発動してないのにか?」
いいとこに気がついたねとニヤリとするタケトに真面目にやれとチヨが肘で突っ込みを入れた。いいとこに入りグゥと呻くタケト。仕方なくカナタが代わりに続ける。
「マヤは相変わらずだが… ヒデ君がしっかりしてて私は嬉しいよ。うんうん。さて、現会長の先見の明は本当に素晴らしくてね。全ては想定内。むしろ『可能性の一つ』から『確定事項』になったことでやるべきことがよりはっきりした、といった感じだね。そっち方面に長けた術師で調査団を結成したんだ。さらに言うなら、タケト君のところに事態を好転させる情報が集まるだろうと言う予言までされていたよ」
「俺の持ってきた話のことすか?」
「それもその内の一つ、だね。本当に敵の潜伏先だとしたら、かなりの有力な情報だ」
夫婦揃って興奮気味に喜ぶ。カナタはそんな若さがうらやましいと素直に微笑む。
「では、僕らの情報も事態を好転させるものだったりするのかな?」
聞きなれない声に皆が注目する。そこには見知らぬ男性が、そしてその後ろには一回りほど若い女性が立っていた。
「あ!小河社長!?」
「久しぶりだね」
以前にタケトが受けた依頼の主であり、以後ファンになったという某会社の社長。いつもは忙しくメッセージ等でのやり取りだが突然の来訪。驚くのも無理はない。
「皆、話に夢中だったからな。待たせるのも失礼だからお通しさせていただいた」
肘鉄の後から姿が見えなかったチヨが、頂いたお土産であろう袋を抱えて笑顔で皆に伝える。騒がしい中で唯一インターホンに気付いて動いていた彼女を、まったくもって頼りになるとタケトは自慢気だが、そもそもが自分の失態であることは忘れているようだ。
「とまあ、これが急激に売上アップした地域だ。役には立ちそうかな?」
「ここ、例のアパートの予定地だぜ?」
「俺が担当した依頼の現場に近いとこもある。無関係なとこは…」
「これから関係が出てくる可能性がありますね」
秘書の大島さんが眼鏡をくいっとしながら話す。
「ですね。しかしこういうアプローチの仕方もあるとは勉強になる… あ、ともかく協会に連絡してきます」
そう言ってタケトはそそくさと席を外した。
(さてと… ん?)
「ちわっす~。おお!ちょうどタケいるじゃん」
「勝手に開けんなよ」
「親しき仲にも、ですよ? お取り込み中だったらどうするんです?」
「う… 反省。こいつのことだから取り込み十分ありえるわ」
「いきなり失礼すぎんだろ!てかどうした急に」
急に開いた扉からは、これまた親友のマツ、ノブ、ヤスの三人。再び驚くタケト。
「実は先生から言われてね。タケト君に知らせた方がいい情報があるんだけど、でもさすがに通常回線だとマズイかな~と思いまして」
「俺は付き添い。マツが気になったことがあるって言ってよ」
「そーなのよ。最近うちの大学病院にさ、どー見ても一般人じゃない人が増えてさ。他の人たちは特に気にしてないってか気にもなってないみたいなんだけど。なんかあんたらみたいな感じでさ?」
「術師っぽいってこと?」
「僕の情報も同じようなものですね。この街に明らかにカタギではない人間の出入りが増えたと」
「それの出所、役所的なやつ?それとも政治の裏的なやつ?」
「それは黙秘で」
「あーっ!マヤ~!おお~それが噂の息子ちゃんか~?」
「だからそれ呼ばわりすんな!おひさ~」
話すことを話し終えてさっさと中に入ったマツがマヤたちと騒ぎ出す。付き添いのノブも呆れて謝罪しつつ後に続く。
「どこかに電話するとこでした?」
「今日は皆が同じように情報を持ち寄って来てくれててね。協会に報告を入れようとしてたとこ。追加情報マジ感謝」
「お礼はツケといてください。将来、たっぷり返してもらう予定ですから」
そう言ってヤスも居間に入る。ずいぶんと強かになった親友に、ほんの少しだけ恐怖を感じて苦笑い。
「あ、ツクモです。どうもおつかれ様です。はい。ナオズ… 会長はいらっしゃいますか?」
(ひとまずはこれで…)
「「あっはっはっはっは!!」」
居間に戻るやいなや、皆の大爆笑に三度驚く。
「って、すごい盛り上がり。俺がいない間にいったい何が?」
一斉にタケトに注目し、再び爆笑する一同。何がなんだかわからないが、とにかく自分が笑われていることだけは理解できた。
「またお前か?」
「違うわよ~ね~チヨ~?」
「だな」
「え?ちょ、マジで何?」
焦る姿がまた皆の笑いを誘う。事態は好転しつつある。そう思えるからこその一時。なのだが、いまいち納得しかねるタケトだった。




