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呪人・廻《カースマン・カイ》  作者: さばみそ
第六章
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THUNDERSTRUCK

「さっそく術が飛んで来ましたねえ」

「タケちゃんわりと余裕? 俺、けっこうビビってんだけど」

そんな弱気なことを言いつつも、術反射カウンターマジック四重クアドラプルで術を跳ね返し、それでも反せない術はタケトが術で捻切った。

「ニンゲンメ…」

「グボッ…グボボ…」

「力、貸します」

階下では妖怪たちが協力し、術を合体させて放とうと試みている。炎と、石礫と、粘液の混合弾。他にも単発で術を飛ばそうとしているモノが複数。

「下!」

「大丈夫よ~」

階下からの一斉攻撃で床一面が吹き飛び様々な術が二人に襲いかかる。が、それらの術も同様に反し、足場が無くなるも新たな呪符の力で二人はその場に浮遊する。

「浮遊系は打ち止めな」

「あらら」

その言葉の意味を理解したのか、敵の一際強力な術が辺りに広がる。空間が歪み、闇が支配した。

「常闇へ堕ちろ!」

「我が力からは逃れられぬ…」

方向感覚が狂う闇の結界と重力操作の能力。その合作に一度掛かってしまえば永遠に闇を堕ちる阿鼻地獄。しかしそれはあくまでも掛かってしまえば、の話。

付与破邪アンチイービル&聖属性付与七重ホーリーセプタ

葬爪散華そうそうさんげ改め、布都御魂剣ふつのみたまのつるぎ!」

タケトの呪われた腕が聖なる力を宿し、禍々しい姿はそのままに暖かな力を纏って暗黒空間ごと妖怪術師を一閃に斬り伏せた。

「さっすが~」

「サトルさんのおかげですよ。ところで下の妖怪、ここより手強そうですが」

「お?下のが強い地獄システム?在庫ヤバいよ?」

「まさか。単にここは酔っ払いが多かっただけでは?」

「どっちにしろカツカツじゃんよ。念仏でも唱えとくか?」

「念仏よりも術をお願いします。最期まで足掻きましょう」

「いいね~俺の最期は美女に囲まれて服上死ってキメてんで~」

「なら、なにがなんでも生きて帰りますよ!」

「おうともよ!」

そんな会話をしながらゆっくりと二階に降り立つ二人を、妖怪たちは攻撃せず睨み続けている。飛び道具は反射され、強力な結界も砕かれ、接近戦も力自慢たちが瞬殺。迂闊に手を出せずにいるのだ。だが彼らも決して諦めているわけではない。


ヒュッ!


着地の瞬間を狙い、骨の侍が水面斬りを繰り出す。それをタケトが左足で踏み砕く。と、侍の頭蓋骨から耳のある蛇が、腰からは蛇と化した帯が飛び出て襲う。その間にもサトルの死角から一際大きな野犴が牙を剥く。

「ヤバっ!?」

タケトが呟く。野犴の背後の床の穴から鼠の妖怪の群が飛び出て来ており、サトルは死角の死角で気付いておらず、タケトも眼前の蛇二体の対処に動いており一手遅れることは確定。サトルの危機が…

無問題モーマンタイ!」

その声で冷静さを取り戻したタケトは、自分とサトルを薄い光が纏っていることに気付く。

「これは」

余裕の棒立ちのサトルを見てタケトも攻撃を止めて、しかし一応は構えて動かない。

不動の二人に噛み付く蛇も狐も牙が刺さらずに滑って顎を自滅の強打。帯は首を締めようとするも腕が邪魔をして滑り抜けて自身を片結び。鼠の群はサトルの体でつるりと四方八方に飛び散る。

滑性付与エンチャントスリップ。さ、反撃反撃~」

「エンチャンターマジヤベェ…」

とは言うものの、時間制限有りの回数制限有り。持ち手がバレれば対応もされやすい。長引くほどこちらが不利だ。もちろんどんな種類があって、何回使えて、どんな順番で出してくるか、で対応策は無数に増える。だが、タケトも在庫を把握していない現状では先が読めない。それに本当の強者は付与無関係に潰してくるものだ。現状はその問題は無さそうではあるが

「あら、わちきのことも殺してしまうのでありんすか?せっかくいい男に出逢えたというのに、かなしいわぁ」

「え?マジ?超絶美女なんすけど!?」

美しい妖怪に心奪われるサトル。斬激耐性強めの軟体系妖怪に囲まれつつあったタケトはそれを横目で見て呆れかけたが

「いや~マジ残念」

とサトルは女が背中に潜ませていた大量の子蜘蛛ごと呪符の炎で焼き払う。タケトも

「負けてらんないな」

と呪力を集中し、一回転して妖怪たちを凪払う。

「さて… サトルさん、電気の付与って出来ます?」

「もち!手札全掛けでいくぜ?」

「お願いします!」

電圧付与エンチャントボルト十重デカプル

タケトの体が白く輝きバチバチと大きな音を放っており、強力な電気を帯びているのが一目でわかる。

(すごい… これだけ強力な電気なら一掃出来る。雷神にでもなった気分だ。技名はさしずめ…)

変成へんじょう建御雷神タケミカヅチ!破軍天雷!!」

雷神と化したタケトが雷光一閃、敵を殲滅せんと駆けようと構える。


ドオオオオオオオオオオオ!!!


瞬間、轟音と共に雷の柱が立つ。あまりの出来事に誰も微動だに出来ずに立ち竦んだ。弱いモノは焼け焦げ、運悪く雷を直視したモノは視力を失った。そして光が弱まった頃、やっと二人は動けるようになり、サトルの「お前?」という目にタケトは「違う」と首を振る。


「やれやれ。皆、少しは落ち着いたか?」


轟音のせいでまだ耳は正常に動いていないが、それでも聞き取ることができる程に低く、美しく、力強く、圧倒的な威圧感を持った声。それが上空から響き渡る。


「さて、状況を説明してもらおうか」


赤黒い体毛の、六本足のイタチのような… いや、むしろハクビシンだろうか。帯電した獣がゆっくりと二階中央に降りる。そして、その最中に声の主がその獣の上に立つ碧髪碧眼、そして隻眼の青年風の妖怪の物とわかった。


「み、ミズチ丸様!この人間たちが仲間を!」

「いきなり乗り込んで来て殺しまくりやがった!」

「あんたの力なら殺れる!殺ってくれ!」

「殺してくれ!」

「人間を殺せ!」

「人間は殺せ!」

「「殺せ!殺せ!殺せ!」」


妖怪たちの一斉唱和。辺りが再び殺気に包まれる。タケトは残りの力でこの群と雷獣と男を倒せるのかと頭をフル回転させる。


「少し黙れ」


男の声で時が止まったかのように静まり返る。威圧感など一切込められていない普通の呟き。それでも殺気も妖気も、呼吸音も失せる。圧倒的な力による統率。タケトたちは背筋が凍る。仮にこの男クラスのモノがまだ上にいて自分たちに敵対心を持っていたならばと。いや、少なくとも先程の妖怪の進言の通り仲間の妖怪を殺しまくったのは間違いない。敵対心が無いわけがない。


「やれやれ。名は隠しておくつもりだったのだが」


自分の名を呼んだ妖怪を見る。その妖怪は酷く震えて絶望の顔でその場に崩れる。


「呼ばれてしまっては名乗らないわけにはいかないだろう。勝手に推測され語られても困る」


雷獣から降りる。


「我は八大竜王の一尊、沙掲羅龍王しゃかつらりゅうおうが第三王女、善如龍王の子。名をミズチ丸という。この楼閣を取り仕切る者の一人だ」


取り仕切る者の一人。やはり他にもいる。いや、それどころではない。彼の言葉を鵜呑みにするなら彼は妖怪ではなく神の一人ということに…


「そう畏まる必要もない。数多に生まれた信仰による副産物。天に座する権利も無い半端者よ」


表情一つ変えずに淡々と話す。感情も考えも全く読めず、それが逆に彼への畏怖を増幅させる。


「さて、貴殿らの言葉も聞こう」


『貴殿ら』という言葉からある程度の敬意は持たれていると思われる。しかし安心は出来ない。発した言葉次第では再び先程の雷が落ちる可能性がある。何が命取りになるかわからない。細心の注意を払ってタケトは答えた。

「私共はこの先の町からの依頼で…」


「やれやれ。事の発端はこちらにあると」


タケトの話を聞いてミズチ丸が呟く。やはり感情が見えないが、呆れや怒りは若干込められているように思われる。だが、その言葉が喧嘩を仕掛けた部下たちへのものなのか、タケトたちの言い訳に対するものなのか、両者共にわからずそのまま静かに裁定を待つ。


「さて、件の巨人とは、この中にはいそうか?」


思いがけない言葉に一瞬戸惑い返答が遅れた。が、直ぐに平静を取り戻し、一番大きな鬼を見て答えを返す。

「いえ。私共が見た骨はもっと大きな人骨でした。まぁ鬼と人間の骨格や遺伝子の違いはわからないですし、もっと大きな鬼もいるかもですし…」


「やれやれ…」


言葉の意味がわからないといった様子の妖怪たちとは異なり、全てを理解した上で何やら考えているミズチ丸。傍らで伏せている雷獣はというと、静かに周囲を見回し、いつでも誰にでも攻撃出来るように目を光らせているようだ。

(全ては彼の次の言葉次第、か…)


「さて、では終わりにしようか」

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