若き力は笑顔で踊る
「乱暴な手って… まさかアレを使うとは…」
凄まじい圧力で潰されたように御堂のあった場所が陥没していた。その穴の真ん中で御堂もぺちゃんこになっている。崩れ落ちた後に潰された感じだ。その穴から少し離れた木陰にタケトは座り込み、タケトを囲むように三人が佇む。
「口封じ、しとくですか?」
「な、ナニモミテナイデスヨ。ワタシハ」
キョウスケがギョッとして片言の言い逃れを始める。タケトの『乱暴な手』を間近で見てすっかり接し方が変わってしまったので、ちょっと申し訳ない気持ちになる。
「いや、信用してるから、使ったので… 口封じなんて、しませんし… そこまで、恐がらなくても、大丈夫…」
「は、はい。いや、うん。ありがと… う?」
もはや今までどう接していたかも忘れてしまったようだ。セイヤはその様子を見てうんうんと腕を組んで頷く。
「僕も初めて見た時は腰を抜かしましたからね。比喩ではなく、ほんとにしばらく立てないくらい」
「あ、そうなんだ。そうなるよね」
「あれを見てあっけらかんとしてたのはウララくらいなもんですよ。神妖の類いならば僕ら以上に格の違いを感じて萎縮しそうなものなのに」
「マスターがすごいのはわかっていたので。敵ならともかくマスターが強いから恐いとかないですよ」
逆に不思議そうな目で二人を見るウララ。二人は「まあ… たしかに?」となんとなく納得せざるを得なかった。
「ともかく、事件は、無事に解決。被害者も、全員戻った。救急車は… あと少しかな…?」
極度の疲労でたどたどしく話すタケトの隣には、行方不明になっていた人々が横になって並んでいた。結界を破壊した際に術が解けて人の姿には戻ったものの、やはり衰弱していて目を覚まさないために救急車を呼び、到着まで寝かせているのだ。また、整地されていない地面なので、セイヤの呪符を使って簡易ベッドにしていた。
「僕の呪符をこんな風に使うなんて…」
「ごめんね… ここにさ、そのまま、寝かせるのは、さ…」
「いえ、こういう使い方もあるのかと目から鱗ってことです。硬度の調整なんて思いつきませんから。久々に勉強になりました」
「久々、なのね… まぁ、最近、ユージさんの空飛ぶ絨毯、見たばかりだからね。その応用?」
「空飛ぶ… なるほど。やはり見聞を広めることは大切ですね」
再び腕を組んで頷くセイヤ。それを見てなんとなく嬉しくなるも、まだ笑顔にはなれない。
(やっぱり使いどころが重要だな。一人だったら完全にアウトだった。報告は…)
絨毯って何だ?とか憧れだとか情報流出がどうだとか、三人が雑談に盛り上がる中でタケトは静かに考えていた。静かに、静かに。だから一足先に感じ取れた。地面から伝わる微かな振動。そして車の走行音に。
「お? ご到着のようだな」
「あとはこの辺一帯を浄化して終わりか~ 何もしてないけど、疲れたな~」
「おいしいもの食べて帰りたいですね~」
救急車が一台、四人の前に停車する。
「戦闘準備」
タケトが三人にだけ聞こえるように呟く。え?と驚くと同時にハッと理解した。
「任せる」
タケトの言葉に三人は無言の笑顔で応える。
それとタイミング同じくして、救急車から二人の男が降りてきた。
「患者はどち…」
言い終わらないうちにセイヤの呪符が男を襲い、顔の目の前で爆発する。もう一人も、それに驚いているところにキョウスケが強烈なドロップキック。
が、ダメージを受けたのはセイヤとキョウスケの方だった。呪符に対して呪力弾を、ドロップキックをガードして暗器のナイフを、それぞれカウンターで飛ばしてきたのだ。呪力弾を胸に受け、ナイフで脹脛を切られ、出血する二人。
「…大丈夫?」
「「問題無い!」」
タケトの問いに強く返し、同時に術で止血もし、相手を睨み付ける。
「おーおー いっちょまえにガンたれてきてんぜ?」
「はーっはー そりゃおめーそんくらいしかやれることもねーからなー 精一杯の抵抗っつーやつだー」
「にしても不思議だぜ。何でバレたんだ? けっこういい演技してたのによ」
油断をさせるために救急隊員に扮してきた二人の敵は素の姿に戻っており、よほど自信があるのだろう服を脱ぎ捨てると、上半身裸で日に焼けた浅黒いガッチガチの筋肉を隆起させて見せびらかしている。
「音も鳴らさないで現場にくる救急車なんてないでしょ。ボタンひとつも満足に押せないなんて、これだから脳筋は」
「あ”?」
金髪の剃り込み坊主頭がセイヤを睨む。
「それに一台しか来ねぇ時点でおかしいだろ。何台頼んだと思ってんだ。頭が足りてねぇ証拠だ」
「あ”あ”!?」
刺青スキンヘッドがキョウスケを威圧する。
「というか、あんなのに反撃されるとか、実は二人は弱いのです?」
「「「「はああああ!?」」」」
ウララの言葉に四人が怒りを露にする。そして再び睨み合い、呪力を練り、牽制し合う。
「さっさとクソガキと木偶の坊をブッ殺して、あの小娘をヤんぞ」
「無論だ。後悔してもしきれねぇまで痛めつけてやんぜぇ」
「君たち程度に、それが出来るわけないでしょ」
「新技の練習台になってもらうとするか。途中でギブアップは無しだぜ」
四人の口喧嘩にうんざりしたような顔だったウララだが、ふぅと一息ついて一歩後ろに下がって顔をあげる。と一気に満面の笑顔になって軽やかにダンスを始め歌いだす。
「二人とも、応援してあげるから、がんばりなさいよね♪」
二人の方を指差して猫なで声でウインクしてみせるウララ。呪詛師の八牟禮ウララしか知らないキョウスケは一瞬怯むが、直ぐに気を取り直す。というかウララと同じくらいの笑顔になる。
(うおお!?俺の推しの曲じゃねえかよ! バフの効果倍増だっての!!)
某アイドルソングを歌うウララ。その効果は敵の精神を汚染するものではなく、味方の呪力と身体能力を向上させるもの。アイドルに疎く曲を知らないセイヤでも高まる力に気持ちが昂る。
「残念だけど、降参は認めないからね。僕の気のすむまで遊んでもらうよ」
「はあ!?ナメんなクソガキが!!」
そう言って呪力弾を二つ出す。それを見てセイヤが呆れて下目遣いで言い放つ。
「脳筋がいっちょまえに力を隠そうとかしてんじゃないよ。さっさと10発出せ」
驚きと喜びだろうか。笑っているような顔で力一杯に歯軋りをする剃り込み金髪。だが挑発には乗らず二つの呪力弾でセイヤを襲おうとする。が
「んなっ!?」
セイヤは数十枚の呪符を自身の周りに渦巻かせた。一枚一枚に感じられる呪力も敵の呪力弾と比べて遜色無い程。
「はっ!量より質だぜ! ぶちかましてやらあ!!」
呪力弾を巧みに操り呪符を掻い潜る。
「殺った!!」
弾がセイヤの腹を貫き、金髪は目を輝かせて笑う。が、次の瞬間弾けて消えた。笑顔もセイヤの姿も。
「ギャゥ!?」
金髪が首筋を抑えながら飛び退いて転げる。
「へえ。それなりに感はいい」
セイヤが呟く。いつの間にか後ろに周り、呪符を刃物のようにして首筋に当てたのだった。金髪が首筋を抑えていた掌を見ると赤く滲んでいた。
一方、キョウスケ側ではスキンヘッドがナイフを自在に操り、まるで意志があるかのように周囲を動かしていた。
「いいのかぁ?プロレスラーよぉ。ブックも無しでまともに試合が出来んのかぁ?」
今までウララの歌で笑顔だった顔が一瞬にして怒りに満たされる。
「…言葉はよく選べよクソ坊主」
ニヤリと笑って突っ込んでくるスキンヘッド。両手の広げて身構えるキョウスケ。と、スキンヘッドが左手に握っていた砂を放ち目眩まし。そして首もとにナイフを突き立てようとする。が、その右手首をキョウスケは左手で掴む。
「取ったぁ~」
ナイフトリック。いつの間にか左手に持ち替えていたナイフでキョウスケの脇腹を刺した。かに見えたのだが…
「すげえレスラーってのはよ、強えだけじゃなくてアドリブもすげえんだぜ」
ナイフに異常な力がかかる。反射的に自分も負けじと力を加わえると、ナイフはパキッと折れた。
「ちなみに、俺はかぁなりすげえレスラーだぜ?」
右手の人差し指と中指で摘ままれたナイフの刃をヒラヒラと見せつける。
初手の攻防、それはセイヤたちの優勢から始まった




