complain ⇔ praise
落札して満面の笑みのトリスタンと、終盤は余裕の表情を崩さなかったタケト。組長でなくとも、二人が実は結託していて、タケトのために尾を落札し、その見返りとして裏のあれこれを… と想像するのも当然のことである。しかしながら、現時点では二人にそんな繋がりは全く無く、トリスタンは単純な興味と自己満足のための行動だ。そしてタケトはそれを予想していた。彼はきっと落札するだろう。そして絶対に世に混乱をもたらすような使い方はしないだろう。なんなら一通り愛でたら条件次第では譲ってくれるのでは?そんな願いにも似た予想だった。そしてその予想の前半は正解だった。それ故の安堵と称賛の拍手。
だが、まだ何も終わったわけではない。むしろここからが始まり。無事に家に帰るまでがオークションであり、クルーズ船の旅。とはいえ、まだまだ緊張する時間ではない。この後は落札者への祝賀会を兼ねた船上パーティーが行われる。しかし、落札者への商品の受け渡しは下船の時。それまでは安心だ。トリスタンの身柄は。
「オークションではさ、さっき見た通り実物が壇上に出てくるわけでね。敵の連中はそこを狙って奪おう、なんて考えてるんじゃないかと少し心配だったんだけど、さすがにそこまで愚かではなかったね」
「愚か、というと?」
タケトの言うように、再び厳重に保管された商品たち。引き渡しの際には船上と陸とで更に厳重になるだろうと予想される。ならばここで奪い去るのが得策のはずでは?とチヨは疑問を投げ掛けた。
「わかっているだけでも大きな壁が三つある。一つは守護者のマリアさん。二つ目は、こういう場所でも問答無用に落とし前をつけさせるヤーさんたち。三つ目は俺。この三つを船上でやり過ごして逃げ失せる、なんてことが果たして可能なのか?ってさ」
「自画自賛か」
チヨがふふっと笑う。だがタケトは至って真面目であり、チヨもそれを十分に理解している。故の、タケトの優しい解説の始まりだ。
「感じられた呪力、がそのまま本当の実力とは思わないけどさ。それでもこの三大勢力をどうにか出来るとは思えない。奥の手を持っていてなんとか対処出来たとしても、今はまだ陸は遥か遠くの海の上。陸までの逃走経路の確保は難しいでしょ」
「組長さんたちは関係なくないか?」
「自分たちが正攻法で入手できなかった物をさ、横から掠め取るなんてこと彼らが許すとでも?」
「たしかに。ちなみに空を飛んで、もしくは海中を逃げられる術は?」
「そっちは更に難しいね。逃げてる間にそれぞれ上へ連絡。三大勢力の全力が至るところで待ち構えるだろう。海上の移動はともかく、無事に上陸、可能かい?」
「ははっ。無事に上陸、だけなら可能かも。そのあとはわからんがな」
「そういうこと。もちろん海上を移動する能力持ちがこちらにもいるかもだし、強力な結界を張られて船から出られない可能性もある。考えれば考えるほど今は行動を起こす時じゃあない」
わかった上での会話。オークションが終わり、皆が会場から徐々に退室している中で席に座ったままでの雑談。今回は声の大きさも、唇の動きから内容を読まれることも気にせず、むしろ聞いているか?と言わんばかりの振る舞い。肝心のオークションに姿も見せなかった術師たち。もちろん、実は純粋に船旅を楽しんでいるだけ、という可能性もまだ僅かに残っている。たが
(だったら最初にわざわざ存在アピールしないだろ)
という話だ。マリアは非術師。そういう存在がいることは知らない、しかし、どんなモノが相手でも預かり物は守護するのが彼女の仕事。如何なる時でも何が相手でも万全だ。組長たちも相手が何であろうが対応は変えない。人間が相手でも、仮に化物が相手でも、だ。示しは必ずつけねばならない。そしてタケトも世界のために、協会のために、そして自分のためにも今回の敵は絶対に逃してはならない。そう強く思っていた。
「ならば、今夜も全力で楽しまないとだな!」
「あ、やっぱりそうなる? てか、ほんとによく食べる人だったんだね。俺ちょっと胃もたれ気味…」
昨夜のオープニングパーティーに続き、今夜はオークションの落札者を祝うためのパーティーが行われる。御祝いという名目だが、誰でも参加可能の立食パーティー。つまりは昨日とほぼ同じ。だが、話題が増えた分だけ昨日よりも乗客同士の絡みは増えるだろうし、何よりもメニューのほとんどが前日から入れ替わる。
「あらかじめチェックしておいてよかったよ。昨日しか食べられないものは、ちゃんと昨日食べたからな。あとは後悔の無いようにただ食らうのみ!」
とタケトとは対称に気合い十分なチヨ。タケトはただただ、念のために持ってきていた胃薬に感謝しつつ、パーティー開始までの時間を全力で回復に専念するのであった。
「か~っはっは~ まったくしてやられたぜ。このクソガキにはよ!」
そのパーティーが始まって直ぐ、タケトは組長に絡まれる。イライラから酒を飲み、手下たちに愚痴っているうちにいつの間にか称賛の言葉が出てきて、気がつけばパーティー開始時刻。今度はやけ食いだと来てみればタケトがそこにいて…
な流れでこんな感じ。
「俺は何もしてないですよ」
「よく言うぜ。ガキ同士結託して、この俺をおちょくりやがって」
いいから飲め、と言わんばかりに一升瓶を片手で持って注ぎ足してくる。タケトはいつもの習性で、それを断ることもせずグラスに残った酒を飲み干して注がれ待ちをしてしまう。体育会系のあるあるだ。
「だから誤解です。トリスタン氏とは今日初めて会ったばかり。まあそれでも、この人は空気も読まずに自分の興味本位でやらかしてくれそうとは思っていましたけど。というか… 」
タケトはため息をついて、同じテーブルを囲んだ人々を見回した。右隣には組長と若頭が。左隣はチヨだが、更に隣はヤスたちが。正面にはトリスタンが。と、皆が同じテーブルを囲んでいた。もちろん周りのテーブルには組員たち。このだいぶイカれた状況に、タケトは再びため息をついた。
「なんで皆でここにいるの…」
「oh… そんなこと言わないで皆で楽しみまショーよ!好きこそ者共上々なれよ!」
「そうですよ。この人なんて社長のくせにボッチなんですよ? 哀れんで構ってあげてくださいませ」
「オオゥ…」
トリスタンと秘書が漫才のようなやり取り。
「せっかく繋がりかかった縁です。とりあえずは繋いでみるのも一興かと」
「互いに利益の無い縁ならば自然と切れるでしょうし。そこまで気にせずともよいのでは?」
ヤスたちも辛辣な御意見。
「かーっは~っ!若えのにけっこう強かだねぇ。日本の将来も案外そこまでクソじゃあねえかもな」
「逆にこちらが食われぬように気をつけねば、ですね。肝に銘じます」
とこちらも殺伐とした会話。タケトとチヨは自分たちが場違いな感覚になって萎縮しそうになるが
「「いや、お前らも大概だからな」」
と一斉に突っ込みをいただいてしまった。
その後も予想外に話は弾む。世代も国籍も職種も越えた、表舞台では決して見られぬ行えぬぶっちゃけトークが繰り広げられる。少し後の世界を動かし名を残す人物たちの遠慮無しの語らい。この場に居合わせ少しでも会話に聞き耳をたてられた人々は、後にそのことを幸運に思った。
そして、パーティーも終盤。
事件は起こる




