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9 日曜日の朝っぱらから働いていられるかコノヤロー!!

 朝。

 僕はあのままソファの上で熟睡していたらしい。昨日と同じジャージ姿だ。

 うっすらと目を開けて意識を途切れさせたり繋げたりしていると、ぽんぽんと肩を叩かれた。ぱちりと目を開けると、眼鏡をかけていない孝之兄さんだった。

「つばさ、オイ」

「うー……ん?」

「桂木さんて人から電話」


 桂木さん? そんな人友達にいないよ……。大体今日は日曜日だし、昨日は色々疲れたんだからもう少し寝かせて……。

『つばさーッッッ!! いつまで寝ていますのよーッッ!!』


 いきなり子機の奥から大音量の金切り声が聞こえた。







「……ぅぅ」

 まだ耳が痛い。まりあさんめ……。

 桂木さん、とはどうやらまりあさんの名字だったらしい。……どうやって僕の家の電話番号を入手したんだろう……。教えてないのに。

 そんな僕は今キンキンと痛い耳を押さえながらメイド喫茶に向かっている途中だ。誠に不本意だが、昨日あんな強がりを言って働くことになってしまったんだから、致し方ない。


「まりあさぁん、来ましたよぉ」

 店に着き、僕はトライアングルみたいな音を響かせて中に入った。

「おっそいですわ! 今何時だと思っていまして?!」

 案の定、まりあさんはぷりぷり怒っていた。腕組みをして、僕を睨みつけている。

「すみませんでした。今日が営業日だなんて知らなかったものですから」

 棒読みで言ってやると、彼女はぷいっと店の奥へ引っ込んでしまった。

 と、黒髪が相変わらずさらっさらなひかりさんがそそっと近づいてきた。昨日と全く同じ整った無表情である。

「つばさ」

「なんですか?」

「……別に」

 声のトーンも相変わらず低い。ていうかなんでも無いなら話しかけないでくださいよ……。

 ひかりさんはじっと瞬きもせずに僕の顔を見ている。視線がちくちく痛くて、逃げ出したくなった。

「な、なんですかぁっ?」

「拓哉に会ったのか?」

「た……くや?」

 頭上に疑問符が数個浮かぶ。ひかりさんの表情があんまり真剣だったので、僕は考える。拓哉って、確か……。

「あぁ、セクハラ男ですね!」

 そうだ。

 北野拓哉。昨日いきなり僕にキスをしてきたキス魔だ。

「セクハラ男……だって?」

 突然ひかりさんの背後から明らかに女性の声ではない低い声が聞こえた。

「拓哉、気にすることは無い。いきなりキスされれば誰だって驚くに決まっているだろう? もうそろそろわかったらどうなんだ」

 ひかりさんが後ろを向いて説教じみた言葉を淡々と述べる。ひかりさんの背後にいたのは、北野拓哉だったのだ。昨日とは違い、真っ黒なTシャツにGパン、革のこげ茶色のブーツを履いていた。

「ひかり、お前は女だから俺の痛みは分からないんだろうがな、本当に痛いんだぞ! 痛がるのは当然だってのに、そいつ、大笑いしやがったっ!」

 北野拓哉は、苦虫を噛み潰したような表情で睨みつけてくる。だが、僕にだって言い分はあるのだ。

「アンタだって、突然キスされたらどんくらい驚くかぐらい分かるだろ?! ふぁ、ふぁーすときす……だったんだぞっ!」

 顔が熱い。何言ってんだよ、僕……。



「は〜い、そこまでですよ」

「キミィが奥で待ってますですっ。早く行きましょぉぅ」

 ありささんとあずきさんが僕たちの間に割って入った。北野拓哉がふうっと息をつくのを見て、僕はずかずかと店奥へと進んでいくのだった。


「ちっ……」


 背後で誰かの舌打ちが聞こえたが、無視しておいた。






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