7 セクハラ男参上
「んっ……ぶはっ」
なんだコノヤロー!!
いきなりキスなんてしてきやがって、くそっこのぉぉ! 警察呼ぶぞ警察!
……て言おうと思ったけど、全部出てこなかった。
キスした相手の視線が僕の顔面に突き刺さっていたから。
「お前、かわいいな」
「は?」
「お前、かわいいな」
いや、2回言われても困る。
相手は白いファーのついた革のジャケットを着て、下はだぼだぼのGパン。髪は黒みがかった紫っぽい色をしていて、ワックスか何かで無造作に立ててあった。歳は18,9歳ってところだろうか。
「俺の名前は北野拓哉だ」
「えっ?」
「俺の名前は北野拓哉だ」
だから、2回言うな。鬱陶しい。
「何なんですか、あんた。僕になんの用ですか」
「『僕』か……。面白い女。気に入った」
男がくくくっと喉を鳴らして笑う。感じが悪い。なんかキミィに癒された心の内がまたふつふつと湧き上がってきた。
ばきっ。
気がつくと僕は男を殴っていた。しかも、グーで。思いっきり。
「……っ」
少しビックリしたような顔で、男が尻餅をつく。幸い、周りに人は少ない。
「いっ、いきなりキスするなんて非常識だっ! ばか!」
ビシッと指差して言い放ってやる。すると男はまたくくっと笑う。殴られたというのに、何笑ってるんだ、こいつ。
「ほんと、おもしれぇ。この前のやつとは大違いだな」
この前のやつ? 意味不明なことを言う男に、大きな嫌悪を覚える。次は蹴りでも入れてやろうかと思ったが、それではさすがにこちら側が加害者になってしまいそうな気がしたのでやめておいた。
「ふざけるのも大概にしろ! 警察に突き出されてぇのかよっ?!」
気づいたら、男同然の口調で言葉を並べていた。
「はは、確かにそりゃ困る。ふざけるな、か。この前のやつにも言われた」
「誰だよ、この前のやつって」
「んー、なんだっけ? 多分お前と同じ店で働いてる……ありすだかありさだかってやつ」
「ありささんが?!」
吃驚。
ありささんも僕と同じ目にあっていたんだ。あんな清楚な人になんてことをするんだこの野獣は!
「いつまでもヘラヘラ笑ってんなよ、これでもくらえっ」
僕は足を精一杯振り上げると、地面に尻餅をついたままの男の股間に思いっきり振り下ろしてやった。
「いっ、つあぁぁ?!っ」
意味不明な叫びを上げながら、男はうずくまる。僕は一応女だからこの攻撃がどれだけ痛いのか分からないが、さっきまで威勢の良かった目の前の男が目に涙を浮かべてぶるぶる震えているのを見る限り、相当効いたんだと思う。
「おっぼえてろよっ……! このクソガキっっ」
そんな苦痛が滲んでる顔で言われても説得力無い。
男はふらふらと立ち上がると、走っていってしまった。
「ばぁか、セクハラ野郎ー!!」
僕も精いっぱいの声量で叫んでやる。ははは、これはこれでなかなか良いかも。
あれ。
男が去ってから初めて気づいた。
「なんか心臓がドキドキゆってる……?」
なんだか余計に心臓が早く脈打っている。これで心臓が疲れて寿命が減ったらどうするんだバカヤロー……。
それに、顔が熱い。熱でもあるのかな。早く帰って寝よ。
そうして、僕はやっと帰路につくことが出来た。




