2-9 真天先輩と生徒会副会長
真天先輩が俺を見る。
……彼女が聞かれているのだから、俺が勝手なことを話すわけにはいかない。そもそも恥ずかしくて話せないが。
「わたしが最近後輩の男子と仲良くなったっていう噂、聞いていますか?」
「ああ……デリケートなことだろうから聞きづらかったけど。それって我和くんのことだったの?」
「そうなんです! この前の学園特別表彰がきっかけで、わたしからアプローチして」
「どうしてまた我和くんに興味を持ったの?」
「秋口さんには話したことありましたよね。わたしはWEB小説が好きだって。そして唯人くんは将来の大作家! お近づきになりたいと思うのは当然じゃないですか」
微塵も曇りのない目の真天先輩である。
「真天先輩……大作家なんてそんな」
「ほほう? お互い名前で呼び合ってるの? そんな男子は他にいないのに」
秋口先輩はますます興味深げに、頭から足の爪先まで俺を見てくる。
「あたしは小説は全然読まなくてさ。漫画は読むんだけどね。だから我和くんがどれほどすごいことをしたのか、実はピンと来てないんだけど」
「何千人もの応募者の中から、ほんの数人だけが選ばれるコンテストに入賞したんですよ。賞金だって稼いだんですから。そんな高校生、めったにいませんよ」
「へー、どのくらいか聞いても?」
「……十万円ほど」
「おおう、そりゃ確かにすごい。我和くん、お金持ちなんだ」
「そこまででは……第一、真天先輩に比べたら」
「あはは、そうよね。聖川グループのお嬢様と比べたらね」
「お金を持っているのは両親であって、わたしじゃありませんよ。お小遣いだって常識の範囲内かと思います」
秋口先輩は一呼吸置いて、俺の持っている買い物カゴを見る。
「じゃあ本題だけど、デートするにしてもなんでアトリなの? なんかいろいろ買い込むみたいじゃん。……まるで家に足りないものを揃えようとしているみたい」
うっ、何やら推理を始めそうだぞこの人。
「真天の家に必要なものじゃないよね?」
「ええ、わたしの家のためのものではありません」
「すると我和くんの家の、ということになるけど。合ってる?」
「……うん、合ってます」
なに、大丈夫だよな。
俺が親元を離れて一人暮らしをしていること。真天先輩が俺の世話をしたいと希望して我が家に通っていること。凝った料理をするにはいろいろ道具が足りないからこうして一緒に買い物に来たこと……言わなければとてもわからないはずだ。
すると秋口先輩は両のこめかみに指先を当ててグリグリした。どこかで見たポーズだ。
「ポクポクポク、チーン! 見抜いたぜぇ。我和くんと真天、これから新居で二人暮らしするんでしょ! それで真天が料理を作るための道具を買いに来た!」
「ちち、違いますよ! 二人暮らしだなんて」
なんてことだ。ちょっと合っていたじゃないか……。
「うーん、さすがに違ったか。でもそういうんじゃないと説明付かなくない?」
「……秋口さん、口は固いほうですか?」
「真天先輩、何を言い出すんです?」
「こうして見られたからには、いつまでも秘密にしてはおけないと思いまして。どうしても唯人くんがダメだとおっしゃるなら、お口にチャックしますけれど」
見れば、秋口先輩が今までで一番ニヤニヤしていた。
「今のやり取りだけで、もう只事じゃないってわかるわけだけど?」
「と、とりあえず買い物を済ませてからにさせてください……!」
「おっけー。あたしもお皿買いに来たのよね。ちゃっちゃと済ませてくる」
三人揃って買い物を済ませた。俺と真天先輩は荷物を手分けして持ち、アトリのすぐ隣の公園に移動した。
どっぷりと息を吐きながらベンチに腰を下ろす。ニコニコ笑顔で付いてきた秋口先輩に、俺は一部始終を打ち明けた……。
「ほえー、それって通い妻じゃんよ!」
「か、通い妻? 秋口先輩、なんてこと言うんですか」
「他に言い方ないでしょーが。全校男子の誰もが憧れるLカップ美少女の聖川真天が、あろうことか通い妻!」
ちょっと待て。今ものすごいアルファベットを口にしたぞ?
「むふふ、真天のバストサイズはごく限られた女子しか知らないトップシークレットだからね。あたしが言えるのはラージのLってことだけよ」
「秋口さん……」
真天先輩がジトッと秋口先輩を見る。
当たり前だ。自分のデリケートな情報をそんな軽々しく語られては怒るだろう……。
「それはいずれ、わたしの口から打ち明けるつもりでしたのに」
「うわっ、やっべ! もうそこまでのアレなの?」
「そこまでのアレ、が何を指しているかわかりませんが……今後はわたしのパーソナルデータは秘密でお願いしますね」
「いやー、ごめんごめん! あっはっは」
高らかに笑う秋口先輩。真天先輩は少し気恥ずかしそうに。
「ね? わたしの胸、あのエロゲ転生小説のヒロインほどじゃないでしょう?」
「いや、その」
「真天、エロゲてんせーってなに?」
「ふふっ、秋口さんは知らないほうがいいでしょうか」
「うん、世の中知らないほうがいいこともありますよ……」
秋口先輩はベンチから立ち上がった。
「まあとりあえず、ふたりのことはペラペラしゃべったりしないから安心して。でも、そのうちバレちゃうと思うけどねぇ。こんな白昼堂々と新婚夫婦みたいな買い物してるわけだし」
「そうですよね。その時はその時ですし、そもそも、そこまで必死に隠すことじゃないと思っていますので。自分たちから広めることではないにしても」
「親御さんにも、そのうち知られちゃうってことよ? さすがに正直には言ってないわけでしょ」
「ええ、まあ」
苦笑いする真天先輩。
考えないようにしていたことが、頭をグルグルと回る。
俺たちのこんな状況を、真天先輩は親御さんにどう打ち明けるつもりなんだろう?




