2-8 真天先輩とショッピング
――真天先輩と一緒に買い物。
いや別にデートではない、はずだ。ただの買い物、ショッピング。
本当に? 俺はともかく、彼女はもうデートのつもりなのでは?
なんてことを延々と考えているうちに、家具&インテリア用品大手の「アトリ」に到着する。大通りに面した、ここらではトップクラスの大型店舗だ。
「唯人くんは、よくこちらに?」
「高校入学前に親父と来たきりです。だから一年ちょっとぶりかな。今うちにある家具や食器は、だいたいここで買ってもらったんですよね」
「そうでしたか。実はわたしは来たことがなくて」
庶民向けの店だからな。お嬢様の真天先輩にはそうそう縁がないだろう。
「初めてのお店、ちょっとドキドキです。リード、よろしくお願いしますね」
「そんな、リードだなんて」
俺だって久しぶりなんだからそんなスムーズには案内できないのに……なんて言ってる場合じゃないか。頼ってくれてるんだからしっかりしなきゃ。
店の中に入り、買い物カゴを手に取る。まずはオイルポットだが……。
「わー、こんな風なんですね。歩いてるだけで楽しそう♪」
アトリが初めての真天先輩は、通路に並ぶ何でもないような品物の数々に目をキラキラさせていた。ライトノベルでよくあるよなこういうお嬢様ムーブ。
適当に歩いているうちに、オイルポットを見つけた。いろいろ種類があったが、まあどれでもいいだろう。
「よし、第一のターゲットは確保と」
「唯人くん、油を濾過するシートも買わないと」
「あっ、そうか。えーと、隣のこれかな」
濾過シートも買い物カゴへ入れたところで、真天先輩が追加で言う。
「油を固める凝固剤も必要ですけど、このお店にはなさそうですね」
「スーパーで売ってると思いますけど、まあ買うのは今日でなくてもいいんじゃないですかね」
油関連は今度こそ終わりだな。他に必要なのは……?
「大根おろしがあったらいいなって思うんですけど、どうでしょう?」
「うちにはなかったですね。買いましょう」
「フードプロセッサーがあったら便利そうです。スープを作ったりする時に」
「おお、いいですね。買いましょう」
「そうだ、蒸し器! 中華料理や和食で使いたいと思うんです」
「フライパンだけじゃやりづらいですよね。買いましょう」
「たまには緑茶を飲みたくならないですか? 急須はありましたっけ」
「いや、それもなかったですね。買いましょう」
なんだかどんどん増えてくな。でも真天先輩が欲しがってるものだし、実際あれば料理が劇的にはかどるだろう。そして美味いものが食えるのだ。
「あ、ごめんなさい。お値段のこと考えないであれもこれも欲しがって……」
「お金ならたっぷりありますから。実は例の小説コンテストの賞金、先日振り込まれて」
「わあ、おめでとうございます! 唯人くんが入賞したのは確か……」
「賞金十万円です。一番上の大賞なら百万円だったんですけどね」
しかし十万円でも高校生には過ぎた大金だ。両親もたいしたものだと褒めてくれて、今後のためによく考えて使えとアドバイスをくれた。
人生初の、小説を書いてもらったお金。それを……真天先輩との共同生活?のために使う。今さらながらとんでもないことをしているなと思う。
「唯人くんはえらいです。その歳でもうお金を稼いでるんですから。次は小説が無事に出版されれば、印税っていうのが入るんですよね」
「はい。その一冊きりにならないよう頑張らないと」
「唯人くんなら次の作品もきっと大丈夫ですよ。早く読んでみたいんですが」
「公開はもうちょっと待ってください。全部書き溜めたらって決めてますんで」
まったく書き溜めず、毎日執筆してはさっさと公開する猛者も少なくないが、何かトラブルがあればたちまち更新が途切れてしまうリスクがある。俺はそんな危ない橋を渡る自信はなかったので、安全策を採っている。
「……真天先輩になら、特別に読ませてもいいかなとは思うんですけど」
「まあ! 誰よりも先に読めてしまうんですか?」
「ろくに推敲もしてない状態ですけどね。それでもよかったら」
「いえ、やっぱりやめておきます。そこはちゃんと一読者として、けじめをつけませんと。正式に公開されたら、唯人くんのファンの皆さんと同じタイミングで読ませてもらいます」
「わかりました。楽しみにしててください」
しっかりしている人だな真天先輩は。ますます信頼してしまう。
「あれれ~? 真天、何やってんの?」
ふいに、そんな声が届いた。
正面からひとりの女子が歩み寄ってくる。この人は確か……。
「秋口さん? こんなところで奇遇ですね」
「それはこっちの台詞よ~。どうして我和くんと一緒なの?」
秋口……名前はいま初めて知ったが、思い出した。学園特別表彰の時にいた人だ。
つまり生徒会役員。それも真天先輩とはかなり親しそうな。
「あの時は自己紹介してなかったよね。三年の生徒会副会長、秋口明子。よろぴく♪」
「ど、どうも……」
秋口先輩の目は、たちまち狐みたいにニヤけた。
「それで真天、これはいったいどーいうことなのかしらん?」




