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7.「退廃音楽」



俺はそれから毎日のようにシンの屋敷に入り浸り、東阿や海外のレコードやCDを聞き漁る生活を続けた。


あまりにも入り浸りすぎて、佐藤は俺の学校にまで黒塗りの立派な車で迎えに来ようかと提案してくれたが、あの車とスーツの佐藤はうちの公立校の校門とはあまりに不釣り合いで、それに乗り込んでいく自分の姿を想像するとあまりにも滑稽だったので丁重にお断りした。



シンのコレクションは想像以上にものすごく、全部しっかり聴こうと思ったら数ヶ月ではきかない量だったので、まずはシンのお気に入りから順に聞いていった。


気に入って2度目を聴くものもあったが、シンは部屋にあるピアノでそれに合わせたりもした。



「習ってたのはクラシックだったんだけどね、なんとなく聴きながら弾いてるうちに覚えちゃったんだ。ルカヌスのマッケンジーもピアノ弾いたりしてるしね。コウはなにか楽器やらない?」



このシンの提案にはかなり心が揺らいだ。

正直この言葉では言い表せない歌、音楽を自分でやってみたい気持ちはあった。


どの楽器がどの音なのかも正しく理解できているとは言い難いが、こういう音がシンのピアノに合わせて出せたら、歌えたらどんなにか気持ちいいだろう。



ただもしそんなことをしているのがバレたら父親がなんて言うだろうか、楽器も小遣いじゃ手が出ないだろうし、もしシンに借りたところでどこに置く?



一瞬で色々頭を巡ったが、



「何も決まってないならコウはギターがいいと思うな、声もいいし歌もコウが歌うのがいいと思うな、どうかな?」



こちらの悩みなど意に介さず楽しそうに決めてくるシンの誘いを断るなんてことは一瞬で俺の脳裏から消え去った。




「よし、バンド組もうか!あとはベースとドラムと、、、ギターももう1人いるともっといいよね!メンバー探さないと!」



シンの問いかけは実質決定と同意だったようで、シンはもうメンバーを探す方に考えが向かっているようだった。



あとでシンに聞いたところによると、今でこそ退廃音楽と呼ばれているものの、数十年前はルカヌスをはじめとした海外のバンド音楽、それに触発されて生まれた日本の音楽も普通に許容され、街やテレビにも溢れていたらしい。



それを東阿国が戦争、敗戦を経て鎖国に近い対外政策を取り、そういった海外からの書物や音楽を悪いものとして一掃した際に退廃音楽と名付けられ禁止されたようだ。



純粋に俺はこんな素晴らしいものを国の都合で禁止した偉い人たち、知りながらそれに承服している大人たちに憤りを感じた。



今でこそ「退廃音楽」だが、本来はこう呼ばれているらしい。今でこそ誰もその呼び名では呼ばないが、ロックンロールと。



「コウちゃん、僕たちでメンバーを集めて、バンドを組んでさ、、「ロックンロール」を取り戻そうよ。」




シンはイタズラっぽく笑った。好ましい邪気のないこの笑顔が俺も好きになっていた。




しかしこの10年以上後からさらに先に至るまで、俺の人生はこの笑顔に翻弄されていくのだとは夢にも思っていなかった。




俺は長い回想から冷めてため息をついたのだった。

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