第四話 心奪うもの
地下牢は悲しいほどに暗く、悲しいほどに寒かった。
雨漏りは遠慮を知らずに垂れているし、そこらには虫がうじゃうじゃいる。
見た目は魔王だが、心の中はただのしがない会社員、水島圭太なので虫にも驚きながら姫の元へと向かう。
姫は俺を見るなり、まるでゴミを見るような目で睨みつけてくる。例えゲームだとしても、綺麗な人から嫌な目で見られるのは心にくるものがある。
「どうだ、ここの居心地は?」
とりあえず魔王の感じで話しかけてみる。
「居心地など私には関係ありません」
「どういうことだ」
「私はミドレの姫、ミスカンドラです。私の絶望はミアレの絶望。なので居心地なので気が変わってはならないのです」
何で素敵な人なんだ。見た目は儚く脆そうな子なのに、心は誰よりも強い。
魔王である俺は、本当は(そんな戯れ、いつまで吐いていられるかな)などと言った方がいいのかもしれないが、見惚れてしまってそんな言葉は出てこなかった。
何も言わずに地下牢を去る。
戻るとアージェンタムが料理を用意していた。
「魔王様、どちらへ行かれていたのですか?」
「あー、そこらを散歩していた」
「魔王様はデストピアの顔なんです。そのため命を狙われる定めにあります。念のためこの王室でじっとしていてください」
勝手に出歩くことも禁止されている。何かつまらないなと思った。
「それからこちら、今日の夕食です」
俺はそれが食べ物であることを理解するまで少しかかった。
何を隠そう、常識とは逸脱したような食べ物だったからだ。
まだ動いている生き物や、もう何かも分からず、ただ異臭を放っている物。お腹は空いていたが、なかなか食べようという気にはならなかった。
しかし、アージェンタムはせっかく作った料理を食べて欲しそうにこちらを見つめている。
魔王という立場ではあるが、どうしてもその眼差しに耐えられず、目の前の料理を一口食べた。
それはいい意味で期待を裏切ってきた。
おいしい、とてもおいしい。これは俺が魔王だから美味しく感じるのだろうか。それとも水島圭太に戻っても美味しく感じるのだろうか。
味はサーロインステーキに近いかもしれない。始め遠慮気味だった喉はすぐに食べ物を通すようになり、魔王姿に似合わぬ笑顔が溢れた。
美しい姫に使える部下、それにおいしい料理。間違えてラスボスを選んでしまったが、この選択も悪くなかったかもしれない。




