《第2章 第3話 記憶を繋ぐ桜風》
夜の学園。
静まり返った廊下を、月城朋広は一人歩いていた。
月明かりが床を照らし、窓の外では桜の枝が風に揺れている。
――昼間の出来事がまだ信じられない。
桐生ひよりが、目の前で光になって消えた。
その残光が、いまだに彼の掌の奥で淡く脈打っている。
(……あれは、夢なんかじゃない)
彼は懐から小さな封筒を取り出した。
中には、薄い花びらが一枚。
それが光を反射するたび、心臓が痛むように鳴る。
「ひより……君はどこに行ったんだ」
呟きが、夜気の中に消えていく。
その瞬間――
廊下の奥で、カーテンがふわりと揺れた。
風とともに、柔らかな声が流れ込んでくる。
『……覚えてる?あの日の約束。』
朋広は息を呑んだ。
それは確かに、ひよりの声だった。
「ひより!?」
声の方へ駆け出す。
しかしそこにあったのは、古びた教室の扉。
中から、淡い光が漏れている。
恐る恐る扉を開けると――
そこには、桜の花びらが宙に浮かんでいた。
まるで時が止まったかのように、光の粒が漂っている。
教室の中央に、一冊のノートが置かれていた。
表紙には、墨でこう記されている。
『桜魂の記録』
手を伸ばすと、ページが風にめくられた。
そこに現れたのは、過去の記憶。
――原初の「朋広」と「ひより」が並んで笑っている絵だった。
(やっぱり……俺たちは、何度も巡ってきたんだ)
ページの中から、声が響く。
『桜が散るたび、私たちは出会い、そして別れる。
でもね、朋広――“魂”だけは繋がってるんだよ。』
その声に応えるように、
彼の胸の中の光が一層強くなった。
「だったら……今度こそ、終わらせない。
桜が散っても、君を消させない。」
彼はノートを抱きしめ、窓の外を見上げた。
夜桜が、月の光を受けて白く光っている。
風が吹いた。
その風は、まるで彼を導くように校庭へと流れていった。
――記憶を繋ぐ桜風が、次の運命を開く。




