閑話 師匠との日々6
そろそろ次に進みたい。閑話って何なんだよ。意味わかってんのか?
ああ、満たしたい、満たされたい。
全てはあの日、貴方と出会ったその瞬間から始まった。
貴方は私の全てとなり、私はただ、焦がれるように貴方を求め続けている。
今でも瞼の裏に焼きついている。
あの光――貴方の光。
それは優しく、壊れかけていた私を包み込み、逃げ場のない絶望から救い上げた。
全身を満たすその温もりは、快楽にも似た甘さで私を侵し、砕けそうになる心を無理やり繋ぎ止める。
……今でも、その感覚が離れない。
例え貴方が私の側から去ろうとも。
私には、貴方が遺してくれたものがある。
仲間と、世界。
かつて貴方が私を希望で満たしてくれたように。
今度は私が、この世界の全てを貴方の希望で満たしたい。
満ちることのない欲望。
飢え続けるこの強欲を、ただひたすらに貴方で埋め尽くしたい。
それだけが私の望み。
それだけが私の願い。
私は、どうしようもなく貴方を愛しているのだから。
全ては、永遠なる人類の繁栄のために。
◇
洞窟に足を踏み入れた瞬間、湿った空気がまとわりついた。
岩壁から滴る水音が、妙に遠くまで響く。
コスモス、俺、師匠の順で進んでいると、不意にコスモスが足を止め、何かを思い出したかのようにゆっくり振り返った。
「いいか。どうやらここは音が反響して奥まで届きやすい構造になってるみたいだ。これから話す時は静かに話すように」
声は抑えているのに、不思議とよく通る。
「あと、俺の後ろをピッタリついてきてくれ。例えばこれみたいに」
そう言って足元を指差す。
目を凝らすと、暗闇の中にピンと張られた細い蔓のようなものが見えた。
一見ただの自然物に見えるが、不自然に張り詰めている。
「おそらくこれに足を引っ掛けると鈴か何かが鳴って、俺たちの存在がバレる仕組みだろう。足跡から察するにかなりの数がいる。奇襲が望ましいから気をつけてくれ」
淡々とした説明だが、その内容は重い。
「あと……これだ。このランプを一人ずつ持っておけ」
差し出されたのは、ベルト付きの筒状ランプだった。冷たい金属が手に馴染む。
(こんなのがあるなら最初から……)
思わずそんな考えが浮かぶ。
「灯りを使ったらそれこそバレないんですか?」
なるべく声を抑えて聞くが――
「大きい、大きい。もっと声を小さく」
即座に返される注意。
「質問に答えると、竜に限らずクリーチャーは暗闇でも見える。でも僕みたいに訓練してるやつを除いて、人間は暗闇を見通せない」
コスモスはそう言いながら、こちらを一瞥する。
「相手にバレたとしても、お前らが見えないんじゃ話にならないだろ」
合理的な判断だ。
「あ、そのベルトは頭に付ける用だからな」
言われた通り装着すると、視界にぼんやりと光が広がった。
ジメジメとした空気の中、慎重に進み続ける。
やがて洞窟が開けた。
そこにいた。
まるで門番のように、巨大な体を丸めて鎮座するドラゴン。
《ボルシャック・ヒート・ドラゴン》。
今まで見てきた野良のクリーチャーとは明らかに違う。
全身の筋肉は無駄なく鍛え上げられ、それを覆う鱗には無数の傷。
だがそれは弱りの証ではない。
生き延びてきた歴戦の証だ。
そして何より――漂うマナ。
静かでありながら荒々しい。押し潰されそうな密度。
(……もしかして、俺と互角くらいか?)
喉が乾く。
「よし、やるぞ」
師匠の声で空気が張り詰めた。
コスモスがポケットから薬包紙を取り出し、青みがかった黒に近い紫色の粉を振りかける。
ふわりと広がる、嫌な気配。
「マナの緩和剤だ。人には効果は少ないけど有害だから吸うなよ」
説明を聞き流しながら、俺は意識を戦いに集中させる。
――《龍覇 グレンモルト》憑依。
マナを解放し、一気に前へ。
《ボルシャック・ヒート・ドラゴン》の目前に躍り出て、注意を引きつける。
咆哮。
空気が震え、熱が集まる。
ブレスの予兆、だが。
(遅い)
マナの収束が明らかに鈍い。
緩和剤の効果だ。
異変に気づいたドラゴンが距離を取ろうとする。だが、もう遅い。
《ボルメテウス・武者・ドラゴン》を憑依させた師匠が踏み込む。
「――はあッ!」
放たれる《武者ザンゲキ剣》。
空気ごと断ち裂く一閃が、ドラゴンの体を深く抉る。
怯んだ一瞬。
(今だ)
俺は踏み込み、全力で振り抜く。
手応え。
鱗を断ち、骨を砕き、首が宙を舞った。
「いや、結構強そうだと思っていたが、これほど早く終わるとはお見それした」
コスモスが軽く笑う。
「硬いドラゴンの首を簡単に跳ね飛ばすとは。ゴリラの弟子はゴリラということか」
「褒めても何も出んぞ」
「ははは、頭の弱いアーシェ君に教えてあげよう。いまのはひにくというんだよ」
「どうしたんだ?急にアホみたいな声を出して」
「クソッ手強い!」
緊張が少しだけ緩む。
だが、それも束の間だった。
奥へ進むにつれ、違和感が強くなる。
やがて辿り着いたのは、巣のような空間。
「うわ……子供も含めると二十体ぐらいいますよ」
思わず声が漏れる。
「どういうことだ?最近住み着いたと聞いたが、これほど大量のドラゴンが短時間で集まるものなのか?」
師匠の声は低い。
「僕もクリーチャーの生態は詳しくないけど……そもそもこの森には外敵はいないはずだよね」
コスモスが静かに言う。
「別にここに住み着く必要、ないんじゃないかな」
確かに、その通りだ。
(……何かがおかしい)
最悪、村の人間すら疑う必要がある。
「まあ、ここで悩んでも仕方がないな。どうする?一旦戻るか、それともこのまま戦うか」
「いや、このまま時間が経てば気づかれて被害が出るかもしれない。戦うしかないでしょ」
即答だった。
その時。
「何者だアアアアアアアアアア!!」
轟音のような咆哮。
ボスらしき《ボルシャック・ヒート・ドラゴン》がこちらを睨みつけていた。
思わず吐き気がする量のマナは俺を押さえつけてくる。
後退りしそうになる足を根性で食い止める。
「エドワードは何をしている!!まさか死んだのか!?」
圧が違う。
だが、俺には俺の役割がある。引くわけにはいかない。
「通り道を守っていたやつなら殺したよ。邪魔だったからな」
「貴様ァァァ!!」
怒気が爆発する。
「お怒りのとこ申し訳ないけど邪魔するよ」
コスモスが液体をばら撒く。
瞬間、凄まじい悪臭が広がった。
ドラゴンたちが一斉に苦しみ、叫び出す。
「今だ!」
師匠と同時に飛び込む。
だが――
重い一撃。
振り回された鉤爪に弾き飛ばされる。
(重い……!)
「そんなに死にたいのなら葬ってやろう!我が祖竜よ!力を貸したまえ!!」
さらに溢れ出すマナ。それは洪水のように遅いかかってくる。
(……無理だ)
三人でも勝てない。
正面から戦う気なら。
「人間如きと侮っちゃいけないよ?」
コスモスがさらに別の液体をばら撒く。
「逃げるぞ!!」
全力で走る。
混ざり合う薬剤、空気中に散る毒、追いすがる咆哮。
蔓に足を取られながらも、ただ前へ。
外へ出た時、ようやく追撃がないことに気づいた。結局ドラゴンは洞窟から出てくることはなかった。
こうして任務は終了した。その後村と協会に連絡を入れて帰ることにした。
だが、あの言葉が頭から離れない。
そしてもう一つ。
安堵する村人たちの中で、一瞬だけ見えたもの。隠しきれない欲望の目。
(……気のせい、か?)
馬車に揺られながらそれを否定しようとするも、その違和感は消えなかった。
ドキドキデッキ買えませんでした。クソが。転売ヤーは死ね。って言いたい。
修行編は一旦終了!続きはトノア大会が終わってからになります。




