一週間後
(すまん祖母よ、約束守れなかった)
一蘭はこの場にいないちとせに謝った
『あとは朝廷内の妃には気をつけてください。あなたは愛し方に難のある女性を惹きつけ過ぎます。依存させる前に接触を避けて下さい』
ちとせの予期不安は的中してしまった。一蘭の目の前にいる女性はどことなく不穏な気配がしている。一蘭が引き寄せたのか、それとも捕まったのか、ただ一つ言えることは
(これ不可抗力だっただろ)
一蘭はここまでの流れを思い返した
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ちとせが天皇に謁見してから一週間経った。ついに一蘭の皇居御参内の日が来た
(緊張で具合悪い)
何度も言うが一蘭の前世は庶民である。前世を思い出して3年たったが未だに上流階級の感覚に慣れていなかった
(貴族のお披露目パーティーにも参加したことないのに、天皇の場とか大丈夫なんか? 誰も礼儀作法を教えてくれなかったし)
『私は今の作法について詳しくないのです。ごめんなさい。でも向こうも子供にそこまで求めないと思いますよ。それに先祖達が謁見の場でも好き勝手やっていた事を考えれば寧ろ礼儀を褒められることさえあるかもしれません』
ちとせは一蘭の事が失態を犯すとは思っていない。下手にあれこれ言うより一蘭の判断に全てを任せると決めていた
『まあ敬語でも使っておけばいいんじゃない?』
『お兄様、そこまで心配しなくとも・・・・・・』
けやきは興味なし。かくらも謁見の大事さなど眼中になく、ただ心配する一蘭を心配していた
『はっはっは。それは教養を試すいい機会じゃな。一句詠んでこい』
柳は面白がっていた
・・・・・・・・・・・・
出発してしまえばもう覚悟を決めるしかない。気持ちを正していると無事に皇居に着いた
「中本様付いてきてください」
「はい」
(侍女さんかな? それとも側室?・・・・・・本当に中の勢力図が分からない。前世は一夫多妻制なんて見た事もないからなあ。やっぱハーレムって難しくね? 全員の角が立たないようにするとか無理ゲーだろ)
「この部屋でしばらくお待ち下さい。待っている間に会っていて欲しい方がいるとの事です」
「? 分かりました」
(おかしな日本語)
面会する予定の人から会ってあげて欲しい人がいると言われる状況に首を傾げてしまった
「失礼します」
「ハイ」
(声ちっさ!)
そしてその部屋の中にいたのがこの女性、名前は伊吹姫という
<伊吹姫>
一応上皇后に属するが妃の時に一度もお手付けがなかった女性である
今上天皇が14歳と若いことからも分かるように、先代天皇は若くしてそして急に亡くなった
伊吹姫は妊娠の適齢期の少し前である20歳で先代天皇の妃となった
当時の天皇40歳
伊吹姫20歳
当時の皇太子(今の天皇)10歳
20以上離れているが、子孫を残すことが責務である皇族ではこれは割と当たり前のことである
そして伊吹姫が妊娠の適齢期である25歳になるまで妊活を待っていた時に、先代天皇が崩御した。これが伊吹姫が一度もお手付けがなかった理由である。伊吹姫以外の妃は全員子を成していた。皇族内で彼女の扱いに困ってしまっていた
ちとせや一蘭の予想に反して、皇族内の妃同士の派閥争いは殆どない。唯一、一番最初に子を産むことだけは競争となる。2600年以上の歴史を持つ王族は、同じ皇族内で争い合うことは不毛である事をとうに分かっていた
そんな風に手を取り合って皇族を続けてきた妃達でさえも伊吹姫にどう手を差し伸べれば良いか分からないでいた。差別や区別をしているわけではない。しかし、子をなす事は責務であると生まれた時から聞かされていたことが彼女達の間に距離を生んでしまっている。どうしても気まずい雰囲気が流れてしまうからだ
そこで一蘭を利用した
子供とはいかないまでも伊吹姫と一蘭の距離を縮めて無理やり地位を確立させようとしている。また伊吹姫に子供と触れ合う機会を増やそうという狙いもある
(やべー、何がやばいか分からないけどやべー)
一蘭は彼女を見てその異常性に気がついたが、それは今までに体験したことのない言葉にできないものだった
人肌の温もりに、愛に、母性の対象に飢えた存在、しかし分を弁えて自分を抑え続けてきた存在が伊吹姫である
彼女はいわゆる女の子座りをしていて顔を下に向けていた。髪は長く、後ろ髪は地面についていて前髪は目にかかっている。そのせいで彼女がますます暗く感じられる。しかしそんな根暗な彼女からは確かに神秘的な雰囲気が放たれていた
(八岐大蛇の生贄になる寸前の櫛名田比売ってこんな感じだったんだろうな)
そんな伊吹姫と邂逅した一蘭はやはりどこかズレた感想を持っていた
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とここまで振り返って一蘭は再び
(不可抗力だろ)
心の中で叫んだ




