引きこもり姫に芽生えた
自分の扱いで周りを困らせていることは伊吹姫自身よく分かっていた。また、その事で一番悩んでいたのは他でもなく伊吹姫だった
務めを果たせなかった価値のない物
誰もそんな事を思っていないし言った事もない。しかし伊吹姫は被害妄想に囚われていた。周りの皆んなはとても優しい。けどその優しさが伊吹姫を更に苦しめる。また、子供達と楽しそうに過ごしているのを見て自分が惨めに感じる時がある。楽しそうな子供の声が皇居内に響くと耳を塞ぎたくなるような気分に襲われていた。彼女はそんな自分が大嫌いだった
故に彼女は引きこもった。侍女もつけないで必要最低限した顔を出さない
引きこもりは人から構ってもらいたい事から始まる事もある。しかし伊吹姫はその逆で誰からも手を差し伸べて欲しくなかった
『気持ちの整理がつきません。それまで辞退させていただきます』
彼女が引きこもる際に方々に送った言葉
完全に周りから距離を取りたがっていた
その言葉に皇居の人達は本人が望んでいないこと、毒にも薬にもならないことから彼女の好きなように放置した
そんな彼女も今上天皇から命じられれば従うほかない
(もう嫌だ帰りたい。ここが家だけど・・・・・・)
コミュ症で引きこもりな伊吹姫は下手をすると一蘭より緊張しているのではないかと思えるくらい顔色が悪かった
そして
「失礼します」
!
「ハイ」
(声! もっと大きな声出さなきゃ!)
開始早々彼女はテンパってしまった
「あっどうぞお座り下さい」
(あっ!)
言って早々伊吹姫は気がついた。いつも1人で過ごしている彼女の和室には彼女1人分の敷物しかない。これではどこに座ればいいか分からない
(うぅ、早速失敗しました)
「ではここに失礼しますね」
(あれ?)
自分は失態を犯したはずなのになぜか場の流れが止まらなかった
しかし
「「・・・・・・」」
そこからは全く進展しないでいた
一蘭は目上の人より先に口を開くのは良くないだろうと相手の言葉を待っていた
一方の伊吹姫は
(えっと何か話すことは・・・・・・うぅ)
パニックを起こしていた
「あっ今日はいい天気ですね」
沈黙した場に追い詰められた彼女はやってはいけないだろう話題で会話の始め方をしてしまった
「あっでも少し乾燥しているかも? 一蘭様はどう思いますか?」
いきなり名前呼びをしたがこれには訳がある。今回の面会の前に”一蘭君が来る”と名前の方しか伝えられていなかったからである。また理由はもう一つある。皇室は”万世一系”の考え方から他の世帯と区別する姓や苗字を必要としない。これが原因となって苗字で呼ぶことに慣れていなかった。引きこもって皇居より外に出てこなかった彼女の弊害が出てしまった
「そうですね太鼓の音も聞こえてきそうかと」
(あれ?)
伊吹姫は再び違和感を覚えた。「天気はどうですか?」という返答に困ること間違いない質問に間を置くとこなく対応してくれた
「太鼓の音、確かに今の天気にぴったりな言葉ですね」
(え? 今私笑ってる?)
彼女は引きこもっている間ずっと読書をしている。読書では様々な単語を知ることができる。太鼓の音が鳴るほど晴天という教養溢れる言葉が返ってきたことになんだか嬉しくなって自然と笑みが溢れた
「あっそうだ私は伊吹姫です。一蘭様はどこの宮号ですか?
“宮号”
宮号は皇族の男子が独立をして生計を立てた場合に、天皇から贈られる称号
伊吹姫は一蘭のことを一般人だとは思っていない
「私は皇族ではありません。かなり昔に臣籍降下した中本家の者です。中本一蘭といいます」
「ふぇ?・・・・・・あっえっと名前呼びしてごめんなさい。ずっとそうだと思っていて、じゃあ中本様ですね。わかりました」
(中本・・・・・・中本!?)
ここで更に彼女はテンパりは加速した
「あっ物とか壊さないで下さい・・・・・・あっいえやっぱりなんでもないです。けどそこの書物とかは国の物なのでやめておいた方がいいかな〜なんて」
皇居の中には世に出回らない重要な文献などが多く存在する。彼女は当然そんな本も読むことができる。彼女は特に歴史について書かれたものが大好きであった
そんな本の中に出てくる中本家のご先祖達は本当に傍若無尽に立ち回っていた
伊吹姫は自分の安息地であるこの部屋を荒らされたくないと暴れないようお願いしたが、それで口ごたえしたと反感を買うことを恐れて取り下げた
「いや、別に暴れませんよ」
(良かっ、た? それよりこの声って・・・・・・)
そこで初めて彼女は顔を上げて相手を見た
「え! 子供!? あっ! ごめんなさい大きな声を出してしまって」
「こちらこそ急にお世話になることになってすみません。それと名前呼びでも大丈夫ですよ」
「あっ多分こちらの方の都合で会うことになったと思うのでそこは気にしないでください。それに私はいつも暇なので、逆にこうしてお話しできて・・・・・・できて?」
(えー!? 私いま会話できてる!)
皇居の中の人達とでさえもまともな話ができないでいつも気まずくさせてしまう。そんな彼女が初対面の子とこんなに話せているのは奇跡に等しかった
「あっじゃあ一蘭”君”とか・・・・・・言ってみたりして。なんて冗談です、えへへへへ」
「大丈夫ですよ?」
「Jx(p;fH'jtOs|M"D+O!?」
「・・・・・・そんなに驚かなくても」
「え? なんで通じてるの?」
もはや心の声がそのまま出ていた
気を読むことに長けている一蘭からすれば、これで隠せてると思っているのかというくらいであり、手に取るように伊吹姫の心の内が分かっていた
結局その後は話の内容がなくなり、再び伊吹姫が話始めた
「ご、ご趣味は?」
当然悪手である
「あっなんかお見合いみたいになっちゃった」
さらにここで要らないことを言って墓穴をほる
「趣味は結構インドアなものが多いですね。読書とk」
「あっ私も読書好き。あっ!」
伊吹姫は自分と共通の趣味を言われたことから嬉しくなってしまい話の腰を折ってしまった
「そうなんですね。どんな本が好きなんですか?」
しかし一蘭は自然と対応して伊吹姫の話になるように仕向けてあげた。一蘭は彼女が引きこもりのコミュ症であると薄々勘づいていた。そしてこれは相手が話しやすいように相手の土俵で話題を展開するのが良いとの判断だ
「えっと歴史の物語・・・・・・かなり昔の神話も好きだし物語詩とか作り物語も好き。です」
「ごめんなさい自分は神話には暗いです。けど古典文学は割と読んでいるつもりです」
「ほんと!? 一蘭君はどんなジャンルが好き?」
「自分はあんまり恋とか分からないので面白いと思うのは滑稽な物を集めたものですね。でも有名な詩物語や作り物語は読んでます」
「そっか、私は恋愛物が好き」
昔の時代の恋愛物は義理の息子が義理の母に憧れる物が多い。ここからも伊吹姫が拗らせていることが分かる
・・・・・・・・・・・・
そこから話が発展していった
(楽しい)
いつも部屋に引きこもっていた彼女にとっては新鮮だった
(会話がこんなに上手くいったのはいつぶりかな?)
しかし楽しい時間もいつかは終わりを迎える
「失礼します。お呼びでございます」
ついに天皇から一蘭に呼び出しがきた
「ぁ」
伊吹姫は寂しそうに悲しそうに小さく声を出した
その様子には一蘭だけでなく伝言にきた従者さえも気の毒に思った
「あの・・・・・・また、またいつか来てくれますか?」
「・・・・・・」
「っ」
一蘭はこのように皇族に関わるのはできれば今回きりにしたいと思っていた。そのため返事ができなかった
それに対して彼女はさらに顔を曇らせた。今にも泣き出しそうだ
「ぶ、文通とか?」
「そちらに問題がなければ」
「うん、大丈夫」
皇室に確認も取らずに謎の自信で彼女は答えた
「ではいってきます」
「いってらっしゃい」
!
(えっ?)
ここで伊吹姫は自分に何かが芽生えた感覚がした
その正体は母性
初めて子供と楽しく話した。離れのを惜しみながら送り出した
(・・・・・・今度周りの人に子育てについて聞いてみます!)
とても無邪気な母親が誕生した
更にこれは今までできていた他の妃達との壁がなくなるキッカケにもなるのだが先の話である
これが伊吹姫と一蘭の”最初の”会談である




