柳視点
柳は目の前で寝ている一蘭を見ながら様々な事を考えていた
(超えられてしまったかの)
柳は素質の面では、一蘭が上に行ってしまったと考えた
<神智論>
神智論は、名前のとおり”智”と”認識”を重視するものである。神智論では人間は霊的認識により神を知ること、神に近づくことができるとされる
一蘭が方程式で今回のことを考えたように、柳はスピリチュアルな観点から今回のことを振り返っていた
(ワシは別に神になりたい訳でも知りたい訳でもない。おそらくそれは一蘭も同じじゃろう。しかし、今回の一蘭を古今東西の文献に当てはめると、ワシより高次元の存在になったというのは間違いあるまい)
「ワシには”智”がないからのお。はっはっはっ」
柳は初めて一蘭と話した時、その態度と物の見方から彼を仙人かと思った。故に柳は、一蘭が自身よりも高みに行けると確信していた。そして柳の考えでは、今回の件で一蘭はその権利を得た。あとは自分が技術を教えて一蘭を上に押し出すだけ、これが柳の宿命であると静かな情熱を持っていた
一方の一蘭は、今回の件で柳が自分より高次元であると仮説を立てた。空間が主な一蘭に対して、柳は時空間どちらも特異点であると考察しているからだ
図らずも、お互いがお互いをリスペクトし合っていた。この関係性は今後に良い影響をもたらし続けるが、これはまた別の話になる・・・・・・
(それにしても、まさか本当に治るとは。あの時血を飲ませる判断をしておいて本当によかったの)
結果としては、見るも無惨だった一蘭は柳の血で元の姿を取り戻した。しかし、一蘭が治るかどうかは一種の賭けであった。柳は寧ろ、悪化する、もしくは跡形もなく消えてしまう方が可能性としては高いと思っていた。なぜなら、今まで柳の血を体に取り込んで傷が治った生き物は居ないから。傷は治らないが、傷は消えた。正し、その生物ごと・・・・・・
この世ならざる者である柳の血は、この世界の生き物にとって激毒以外の何物でもない。そんな柳の血を体内に入れてしまった者は例外なく死んで消えていった・・・・・・
柳が、そんな自分の血を一蘭に飲ませようと思ったのは、一蘭に自分と近い特殊性を感じていたからである。逆に、それしか理由がなかった。やはり柳はサイコパスである。一縷の望みをかけた柳の予感は的中し、彼の体は気味の悪い音を立てて元に戻っていった・・・・・・
(側から見ると、あんなに気持ち悪かったとはの・・・・・・)
数百年生きている柳の中でも、トップクラスの衝撃映像だった
(こやつは自分の秘密を誰にも話さず墓場まで持っていくつもりじゃろうな・・・・・・となると、今回のような事を防ぐ為にこっちで対策をとる必要がある・・・・・・やはり五感を限界まで使ったのが原因かの? 今後はどこまで感覚器が使えるかを探る必要がある、か。はあ、手間のかかる弟子じゃの)
柳は一蘭の今後の修行内容を見直していた。面倒と言うわりに、柳はとても楽しそうであった




