仮説(総論)
「師匠は生まれた時からその姿でしたね? 正確にはその姿でこの世に誕生した」
「ああ、そうじゃな」
柳は一蘭の質問に素直に頷いた
「いえ、まさか答えてくれるなんて」
一蘭は柳の予想外の行動に目を丸くした
「自分から言うことはないが、バレてしまったのなら気にする必要はないじゃろ。お前さんが言いふらすことはあるまい」
一蘭が転生の事は誰にも話さないと覚悟しているのに対して、柳は自分の特殊性を大して気にしていなかった。自分から言う事はないがバレても下手な嘘は吐かないと決めていた。それは彼の特殊性が発動すれば誰の目にも明らかになってしまう故である
「師匠、僕は一つの仮説を立てたのですが、検証の為に色々聴いてもいいですか?」
「それは嫌じゃ」
「えぇ」
一蘭は、師匠が生い立ちは答えてくれたのに、このお願いが断られた意味が分からなかった。しかし、どうしても仮説を検証したかったので食い下がった
「師匠は自分の事を知りたくないのですか?」
「知りたいか知りたくないかで言えば知りたい」
「では!」
「じゃが、お前さんの話、長そうじゃもん」
(その時々出てくる『じゃもん』はなんだよ! 可愛くねーよ! それに聞かない理由が思ったより薄かった)
「もういいです! 自分で考えをまとめます!」
「うむ。夜は長い、頭でっかちなお前さんらしくじっくり考えろ」
ニカァと笑っている老人の事は放置して夢(?)で出した仮の結論を見直した
今回彼が注目した事は主に次の2つ
『アインシュタイン方程式』と『特異点』
である
<アインシュタイン方程式>
物体の質量が、時空間を凹ませ、その凹みに他の物体が落ちていく。あたかも物体同士が引き合っているように見える。
アインシュタインはこの関係を10個の微分方程式で厳密に表した。
重力の正体は時空の歪みであるから、時空の曲率はその星の重力、つまりその星の法則を表している
<特異点>
例えば0で割るような式。数学では0で割る行為はタブーとなっている。このように計算できない値が生じることを特異点という
“解なし”
アインシュタイン方程式は発案者のアインシュタインも含めほとんどの科学者が敗北した。10個の式を全て解く必要があるため、変数が多すぎるからだ。10個の連立方程式すら解くのは面倒だ、更にアインシュタイン方程式の10個の式は微分方程式である。現代のスーパーコンピュータが出る前は条件付け(例えば磁気がゼロ)等して解いていた
しかし、彼は永遠の時空間で今まで彼の周りで起きた事象すべてを変数化して値を代入、アインシュタイン方程式をひたすら解いていた。彼の人智を超えた空間認識能力と記憶力で為せた技である。そして彼が導いた結論が解がない、つまりこの式は解けない特異点であるという事であった
これが何を意味するか? 世界を揺るがす大問題である。アインシュタイン方程式は時空の歪み、つまりその世界の原理原則を求める式だ。それが特異点であると、既存の物理法則が成立しない、破綻しているということだ。要するに既存の法則で特異点に入った物質が、異なる法則が適用された別物になって出てくる可能性がある。極端な例を出せば、柳や一蘭に投げた野球ボールが彼らをすり抜けてサッカーボールとなって出てくる可能性もある
これが彼の立てた仮説の全容である
そしてこの仮説を一蘭と柳に当てはめると・・・・・・




