手紙?
『一条 蓮月ちゃん
うちにも蓮月ちゃんと同い年の孫がいます。
孫に何かあった時は助けてあげて欲しいです。
中本 ちとせ』
(・・・・・・)
絶句
自分達の家柄に相応な便箋に、手紙にすらなっていない内容、そのチグハグさに彼女はどう対応すればいいか分からないでいた
(この家の方々は自由奔放だとは聞いていましたが、これほどとは・・・・・・それに、『助けてあげて欲しい』?)
これまで彼女の元に届いた手紙には、息子や孫を彼女の夫としてはどうかと紹介するものが多くあった。しかし、今回ちとせから届いた手紙は、何の思惑も感じられないただの紹介である。また、自分の息子や孫の自慢が長々と書かれていたこれまでのものに対して、この文からは彼女の孫に至らない点があることしか分からない
(一体どうすればいいの? 親に相談は絶対にダメ、相手方が直接私に宛てた意味がなくなるもの・・・・・・なにか大事なことを見落としている? どこかにあるはずよ・・・・・・)
結局何が正解か分からなかったため、いつもと同じ形式で返信をした。このテンプレートは、名前さえ変えればどこにでも出せる彼女の処世術である
(そもそも『孫』としか書かれておらず、名前すら分かりませんね。これでは助けようがありません。使用人を送って少し調べてみましょうか)
彼女は久しぶりに他人に興味を持った
・・・・・・
後日、彼女は使用人から届いた報告書に目を通した
名前は中本一蘭、確かに自分と同い年だ。箱入り息子で世間知らずなのか、女性にも優しく接する姿がショッピングモールで何度も確認されている・・・・・・
!?
その後も内容を追っていた彼女は、ある一文で目が止まった
『学習塾以外にも習い事あり、内容は分からず』
彼女は自分の目を疑った
今回送った使用人は、一条家が古くから持つ細作の者達である。彼らは今までいくつもの敵や競争相手から情報を得てきた。そのような情報のプロ達が、自分と同い年の習い事を調べられないことはあり得ない事態であった
(・・・・・・毎回姿を見失う?)
彼が毎日向かっている先が分かれば納得する人もいるだろう
“なんだ、柳景辰の弟子か”
しかしあの年齢不詳のじいさんを知っている者であっても5歳児が一条家の諜報員を撒いたと聞けば『条件が揃えば有り得なくはない』程度で、毎回撒けるか聞けば『不可能』と答えるだろう。ゆえに、知らない蓮月からすれば超常現象といっても過言ではない
中立派の柳は権力争いが激しい一条派に関わりたくないため接触を控えている。よって一条家にとって『柳景辰』とは現在の御意見番(蓮月の祖母)の3代前が教えを乞うた歴史上の人物という認識で止まっている。現在にも『柳景辰』がいると聞いても襲名した者がいるという認識で止まりそうだか・・・・・・一条家の認識外にいる柳景辰、柳に魅入られた愛弟子一蘭、2人は対一条家のジョーカーとなり得るのだが・・・・・・当の本人達はただひたすらに自分の器を満たすことしか頭にない
(中本一蘭さん、一度お会いしたいのですけどなぜかパーティーに出席なされてないようですし・・・・・・もっと早く分かっていればちとせ様のお返事にそれとなく書いたのですが・・・・・・残念です)
彼女が久しぶりに抱いた興味はそこで失せてしまった




