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冬将軍、南進す! ~猛吹雪もののふ無双~  作者: 嵯峨 卯近
<第一部・序章> 永き眠りから覚めし冬将軍。
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二話:洞窟を抜けると、そこは雪景色だった。

 吾輩わがはいは、冬将軍である。


 原因は不明だが、永き眠りから目覚めた吾輩わがはい

 いろいろと考え込む内に、人間に見つかってしまったようだ。

 さてはて、どうなる事やら――。




「お願いします。我が村の長老に会っては頂けぬでしょうか?」


 あれから後――、

 二人の体格の良い若者が現れ、開口一番にそう言った。


 ――どうやら、あの逃げ出した人間は、近くに住む村人だったようだ。



「良かろう、案内あないいたせ」


 もちろん、断る理由もない。少しでも情報が欲しい吾輩わがはいにとっては、むしろ望む所であった。



「では、我々に付いて来て下さい」


「うむ」


 立ち上がった吾輩わがはいは、さも当然のように自らの身体を浮かせる。

 吾輩わがはいの女房である雪女は、常に身体を浮かせて行動すると一般的にも知られている。それと同化した吾輩わがはいも、しかりであるのだ。



「おぉーっ」


 二人の歓声が響いた。その声色に恐れは感じない。


 何というか。

 ――吾輩わがはいは、村人の反応で状況を知ろうとしたのだ。

 そして、少なくとも二つの事が分かった。



 まず――、

 この宸世しんぜでは、当たり前のように化け物が闊歩かっぽしていたのだが、それが今も続いているという事だ。


 化け物はもののけ(●●●●)と呼ばれ、宸世しんぜの人間社会においても認知されている。奴らは、良きにしろ悪きにしろ、最も身近な隣人として人々の生活に多大な影響を及ぼしてきた。

 そんな奴らが使う不可思議な能力を、いつも見慣れているのであろう。こうして吾輩わがはいが浮いていても、一つも不気味ぶきみがらないのが証拠である。


 ただし、吾輩わがはいは人間を辞めた身ではあるが、もののけ(●●●●)とは呼ばれない存在である。



 次に――、

 二人が思わず上げた歓声についてだが、

 その声色から、頼りになりそうな、期待のようなものを、感じ取った。


 もしかしたら、彼者かのものらの村は悪しきもののけ(●●●●)にでも苦しめられ、それを退治してくれる者を切望しているのでは、あるまいか――。



 あと――、

 二人はかんじきをいており、雪深い中をここまで登ってきたに違いない。かんじきとは、雪の上を歩く時に深く踏み込んだり滑ったりしないように、靴などの下につける道具だ。


 この氷で出来た冬天宮とうてんぐうは、人間が住む事のできる土地での、北の最果てに位置する。典型的な北国で、おそらく今は冬であろう。


 以上の事から、歩行するのは困難だと判断し、身体を浮かせたという理由もあったりする。



「では、参ろうか……?」


 いくら思考をめぐらせていても、状況は変わるまい。

 吾輩わがはいは、二人に出発をうながす。



「はっ、ははーっ、失礼をば、致しましたっ」


 慌てて居住いずまいを正した二人が、きびすを返した。



「ささっ、こちらへ」


 体格の良い二人の若者の歩幅に合わせ、吾輩わがはいは浮いた身体を移動させる。






 ――いわゆる神社である、冬天宮とうてんぐう

 吾輩わがはいの身体が安置されていた本殿を抜けると、拝殿はいでんに差し掛かる。

 要するに、賽銭箱さいせんばこが置いてあって、鈴がぶら下がっておる所だ。一応、神社の体裁を整える為に設置された物である。


 そうして――、

 拝殿はいでんから地面に降りると、そこが洞窟の中であった事を知るであろう。

 氷の向こう側がうっすらと明るかったのは、洞窟の天井に張り付いたひかごけのおかげである。ひかごけとは読んで字のごとく、光るごけだ。


 つまる所、冬天宮とうてんぐうは人知れず、ひっそりと建てられた神社なのである。



「どうぞ、足元にお気をつけ下さい」


 まぁ、足元と言われても、吾輩わがはいの身体は浮いているゆえ、関係無いのだがな。


 そういえば――、

 彼者かのものら村人達の言葉使いだが、なまっていないのに気付いただろうか。

 別に、宸世しんぜには方言が存在しないとか、そういう事は決して無い。


 では――、何故なぜか。


 こればっかりは、吾輩わがはいも分からない。

 ここら一帯は、こういうはなし言葉ことばを使う――としか、言いようがないのだ。

 何らかのれっきとした理由があるのかも知れんが、生憎あいにく吾輩わがはい宸世しんぜ最強の一角とうたわれた武人であり、学者ではない。


 ちなみに、宸世しんぜには標準語というものがあり、彼者かのものらが使うはなし言葉ことばはそれに非常に近いと、付け加えておこう。



「そろそろ、外へ出られますぞ」


「ほぅ……?」



 二人に先導された吾輩わがはいは――ついに、洞窟を出た。


 もう、あれから――、何十年が経っているだろうか。

 本当に、久しぶりの外界がいかいである。



 そんな吾輩わがはいまなこが映したのは、まさに白一色。

 雪におおい尽くされたといっても過言ではない。


 予想していて――、それでいて――、

 かつて見慣れていた風景――、であった。

重要固有名詞であるもののけ(●●●●)の表記は、ひらがなと混じっても読めるようにする為です。

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