14.変化は少しずつ
今日のお夕飯は森のきのこや栗の入ったシチューでした。
もちろん、焼き立てのパンやフルーツも一緒に頂きましたよ。
「今日もとっても美味しかったわ」
そういえば、ここでのお料理ってビビが用意してくれているのかしら?
ちらりとビビを見ると、
「そうですね、お料理は全てこちらで用意しております」
こちら、とは?
「うちの家から準備してるんだよ」
今度は隣にお行儀よく座っているネーヴェが教えてくれます。
「ネーヴェのおうち?」
「そうだよ」
そういえば私、かれこれ一週間ほどネーヴェと暮らしいるのですが、歌える楽しさに気を取られて詳しく聞きそびれておりました。
それに、今日はローズガーデンでの信じられない体験もありましたし……。
「あの、ネーヴェもビビも今夜は良かったらあなた達のことをもっと教えてもらえないかしら」
◇
「え? 森の中に王宮があるのですか?」
「うん。正しくは、森から王宮に繋がっているという感じかな」
私たちは今、お風呂を済ませてソファに並んで腰掛けています。
ちなみにお風呂はあれ以来一度も一緒に入っていませんよ。
「もっと大きくなってから」とネーヴェは言っていますが、あまり大きくなると一緒には恥ずかしいと思うのですが……
今夜はビビにも侍女としてでなく、一緒に座っておしゃべりしたいと伝えたのですが、そうはいかないと断られてしまいました。
ビビはソファの側に立って、いつものように眠る前のハーブティーを用意してくれています。
「ネーヴェは……いずれ白銀の王になるのよね?」
「そうだよ」
「今は……王子様?」
「うん!」
うわぁ、可愛い!
はっ、あまりの可愛らしさに抱きしめてしまいました。
ネーヴェの銀色の髪は男の子らしく短めに整えられています。
私の弟が今年で十歳になりますが、彼よりはまだ小さいかしら?
あの子を抱きしめたことはなくて、妹と遊んでいるのを遠くから見ていただけなので、自信はありません。
「ふふ、アミィだいすき」
私の腕の中で、神秘的な金色の瞳を揺らしながらネーヴェがじぃっと見つめてきます。
「私も、ネーヴェが大好きよ」
私はそっと肩を抱き寄せて、ネーヴェのつむじにキスをしました。
日毎に成長するネーヴェ。
たしかに最初の三歳児から比べると、もう私の膝の上に収まりきる大きさではありませんね。
横に並んで座った時、こんなふうに顔の位置がだんだん高くなっているのが分かります。
私の顔を覗きんでいたネーヴェが言いました。
「アミィの瞳はとっても綺麗だね。女神様の瞳と同じ夜空の色だよ」
え、女神様にお会いしたことがあるの?
「うん、たまに会うんだ」
「まあ……すごいのね。私には夢のようなお話だわ」
「そんなことないよ。今日の歌だって素晴らしかった。アミィは女神様から愛されているからね、だからあんな風に加護の力を授かっているんだよ」
ローズガーデンは……。
加護というか、もはや再生されていたけれど、正直私がやったという実感はないのです。
「そうだよね、アミィは人としてこれまで生きてきたのだもの。ゆっくり知っていけばいいんだよ」
「さぁ、ハーブティーが入りましたよ」
私たちはビビの用意してくれたハーブティーを一緒に飲んでいます。
これを飲むと、心が落ち着いて、朝までぐっすり眠れるのです。
「ちなみにこのハーブを育てているのはバムスだよ」
え?
「あの、熊さんが?」
と言った後で、しまったと思ったのですが、
「あはは! やっぱり熊だってバレてたんだね」
って、楽しそうにネーヴェが笑っています。
ん?
どういうことでしょうか?
「アミィ、気づいてるのかと思ったけど?」
「いいえ、たしかにバムスを見て熊さんみたいだなって思ったのですが」
「だから、《《みたい》》じゃなくて熊なのさ」
ん?
まだ分からなくてビビのほうを見つめましたら、
「ではアマーリエ様、私は何に見えますか?」
って、ビビがいつものようにしなやかに歩いて見せます。
「ビビはね、初めて見た時から猫みたいだなって思ってるの」
「はい、正解!」
パチパチと楽しそうに拍手をするネーヴェ。
その横で、急にビビが消えたと思ったら床にちょこんとお座りする美人な白い猫ちゃんが私を見上げておりました。
「ああっ、まさかビビなの?」
私は跪いてビビを撫でようとしたのですが、
「ダメだよ」
と、ネーヴェに伸ばした手を掴まれてしまいました。
その隙に、さぁっと風がふいたかと思うとメイド服を着たビビがまた私の正面に立っておりました。
「僕たちはね、動物の#形__なり__#をしているけれど精霊なんだ」
ネーヴェが掴んだ私の手を優しく持ちかえて、そっと繋いでくれました。
「でね、僕たちの掟では、番となる者以外が互いの真の姿に触れてはいけないんだよ」
「真の姿?」
繋いだネーヴェの手に引かれ、ベッドに二人並んで腰掛けます。
「そうだよ。動物の姿が本来の姿でね。僕たちは番うと日中でも人の姿をとることができるようになるんだよ」
そう言って、ネーヴェは繋いだ私の右手を持ち上げると指先にチュと口づけました。
どうしてでしょう……。
まだまだ小さくて可愛いらしいはずのネーヴェが、知らない男の子みたいに見えて、なぜか少し恥ずかしいのです。
「だ、だから、ビビもバムスも昼間でも人間の姿でいられるのですね」
「そういうこと。精霊だからね、真の姿はそれぞれだけど、夜にはみんな人型になれるんだ。そしたらほら、番えるんだよ、種族が違ってもね」
説明をしてくれながら、なぜか私の頬を撫でるネーヴェ。
撫でられるから熱いのか、紅くなっているから撫でられているのか……
「ふふ、可愛いよ。アミィ」
いつのまにかビビは出て行ってしまって、部屋には私とネーヴェの二人きりでした。
今夜のネーヴェはなんだか変です。
まだ背丈だって私のお腹くらいしかないくせに。
手だってこんなに小さいくせに。
ネーヴェは親指の腹で私の熱くなった頬を撫でながら、ふふっと柔らかく笑っています。
「おやすみ、僕の可愛いアミィ」
ネーヴェはそう言うと、膝立ちになって私の額に口付けました。
「なっ」
いつもは私がキスをするのです!
おやすみって言いながら、私がネーヴェの額にキスを……!
「アミィ、今日はキスしてくれないの?」
ネーヴェが、首を傾げて聞いてきます。
ああ、やっぱり愛しくてたまりません。
少し負けたような気がしましたが、私はネーヴェをギュっと抱きしめると、そっと前髪をかき分けてからその可愛らしいおでこにおやすみのキスをしました。
その夜は、ハーブティーを飲んだにもかかわらず、なぜかあまり眠れませんでした。




