プロローグ
寂しい時も、嬉しい時も。
私はいつも歌っていました。
歌っている間だけは、ひとりぼっちでいることを忘れられたからです。
だから今日も、小さなお庭の花に水をあげながら、誰も知らない異国の旋律を鼻歌でなぞっていました。
すると――
「でかしたぞ、アマーリエ!!」
「ヒッ」
突然、お父様が離れへ飛び込んできました。
思わず変な声が出てしまいます。
それに、お父様と顔を合わせるのも久しぶり過ぎて、ひと回り以上ふくよかになられたお姿に余計驚いてしまいました。
「あのロンバルディ侯爵家から、お前に縁談が来た!!」
「えっ?」
ロンバルディ侯爵家といえば、南部の穀倉地帯を治める由緒ある家門です。
社交界では、歌ばかり口ずさむ『鼻歌令嬢』などと噂されている私に、どうして……?
「はっ、お前の妙な噂なぞ、先方は気にしとらんようだ。なにせ、向こうからわざわざお前をご指名だからな! しかも、自由で気ままな暮らしを保証してくださるらしいぞ!」
まあ!
それは、とても魅力的なお話ですね。
実は私、結婚などとうに諦めておりました。
けれどこの家を出られる上、自由で気ままに暮らせるだなんて。
そんな夢のようなお話が、本当にあるのでしょうか……。
「お前は死んだ母親に似て見た目だけは良いからな! どこかであの若い侯爵の目に留まったんだろう! ガハハハ!」
お父様は、私がこれまで見たこともないほど上機嫌でした。
亡くなったお母様は、遠い北の国の出身だったそうです。
国を追われ、行き倒れているところをお父様が助けたのだと何度も聞かされました。
けれど私が二歳の時に亡くなり、その面影ひとつ覚えていません。
ほどなくして新しいお義母様を迎えられ、妹と弟が生まれました。
私以外の家族は、皆とても仲良しです。
私はその輪に入ることを許されず、幼い頃から一人、この離れで静かに暮らしてきました。
歌だけを友にして。
「これで我が家も名門ロンバルディ家と縁続きだ! お前には色々手を焼いたが、最後に役に立ってくれたな! ガハハハ!」
手を焼いた……そんなはず、ありません。
私はここで、ひっそりと暮らしてきました。
けれど何も言い返しません。
ただ、胸の奥で小さく願いました。
どうか、新しいお家では……ひとりぼっちじゃありませんように。
私の歌を笑わずに、そばで聴いてくれる人がいますように、と。
新しいお話です。
すでに書き上げているので、毎日更新していきますね(*^-^*)
30話程度のお話です。
こちらも最後まで読んでもらえたらいいなー。




