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北欧おやつ時間〜夢のケーキと午後三時のフィーカ〜  作者: 地野千塩


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ムンキと午後三時のフィーカ(1)

「あ、迷ったかも……?」


 岡辺明日香は頭を抱えていた。ここは隣町の住宅街。静かな住宅街で、フラフラとしてる老人も多い。そんな中、道に迷った明日香は道を訪ねられる人間は見当たらない。


 時計を見ると、午後一時半だ。実は今日、二時からとあるカフェでスキマバイトがあった。初めて行く場所で余裕を持って来たが、明日香は元々重度の方向音痴だ。空港まで行けず、修学旅行も行けなかった。受験や面接だけでなく、ライブやキャンプも方向音痴のせいで台無しなった事も多数。もっとも性格は優しく、人当たりは良いので何とかなってはいた。すっきりとまとめた黒髪は優等生的な印象を与えていたが。


「あれ? カフェ・午後三時のフィーカってどこ? わー、アプリ見てもわからない。それにカフェの公式ホームページやSNSもない」


 周囲に人がいない事をいい事に、ついつい独り言がこぼれる。


「私、もう三十歳なのにな……」


 なぜか現状と年齢にも結びつけてしまう。春の日差しは思ったよりも強く、花粉症のせいで詰まっている鼻先が少し苦しい。


 それでももう一度アプリの地図を見ながら、住宅街を歩き始めた。地図通りに行けば、たぶん、この道を南に進めばつくはず……。


「はぁ。私ってダメだー」


 マイナスな独り言は相変わらず。


 思えば人生にも迷子だった。文系大学を出たが、事務職か営業職ばかりを選び続け、仕事を転々としていた。転職回数は十二回にも及んでいた。事務や営業はもちろん、短期で中古販売、物流、介護、飲食なども経験したが、どうにも続かない。ブラック企業もぶつかった事もあり、去年末に退職後、転職活動を続けていた。


 しかし三十過ぎ、無資格、転職回数だけが多い明日香は、書類選考で落ち続け、結局、実家に帰り、スキマバイトアプリで生活していた。失業保険も切れ、正直、現状は甘くない。バイトですら面接に落ち実家では小言を言われ、正直、何も楽しくない毎日だった。YouTubeや本で「好きな仕事の見つけ方」や「天職に出会う方法」などをインプットしまくっていたが、何の答えもない。受けた会社からのお祈りメールとスキマバイトバイトアプリの求人を睨めっこして時間が過ぎていく。


 そんな中、スキマバイトアプリでカフェのバイトを見つけた。「午後三時のフィーカ」という名前。変な名前のカフェだったが、スキマバイトアプリの求人を見ると、北欧風のカフェという事だった。求人には掲載している写真も少ない。白猫とシナモンロールの写真だけでカフェの外観は不明。ネットにも口コミや公式SNSもない。スキマバイトアプリの求人も新規らしく、口コミは載っていない。


 それでも、バイトの面接すら通らない明日香にとっては、面接や書類選考のないスキマバイトアプリは蜘蛛の糸だ。初心者でも歓迎、交通費も出るし、時給も相場より良い。三時間だけの労働だが、他のスキマバイトアプリ求人よりも条件がよく、思わず応募してしまったが、本当に掴んで良い蜘蛛の糸かは不明。


「あれ? この道、行き止まり? え?」


 そんな事を考えながら歩くが、なんと工事中の道にあたり、アプリの地図通りに進めない。


 途方に暮れた。その場でしゃがみそうになる。人生にも迷子なのにスキマバイトすら行けないとは。ちなみにスキマバイトは遅刻、早退、欠勤があるとペナルティポイントがつき、酷い場合、求人応募自体ができなくなる。また、企業からの印象も悪くなり、応募してもキャンセルされる事もあるそうだ。


 明日香は今まで無遅刻、無欠勤を続け、アプリ内でもポイントが加算され「マスター」という上位の肩書きまでついていたが、今はこうして大失態中。


 ハンカチで汗を拭い、遅刻を覚悟した時だった。目の前に、白猫が通りかかった。毛並みもモフモフと柔らかそう。首輪もしているので、おそらく飼い猫だが、明日香の足元にまとわりついて来た。


「ミャーォー」


 可愛い鳴き声が明日香の耳に響く。


「ミャーォー! ミャー!」

「え? ついてこいって事?」


 白猫の鳴き声にうっかり癒されそうになったが、何か訴えるかのような声だ。


「ミャー! ミャー!」


 白猫は少し前を歩き路地裏に入った。今までは気づかなかったが、行き止まりだと思っていた道に側にもう一つ路地裏がある!


 明日香はすぐにその道に入った。まさか白猫が道案内してくれたとは思えないが、そのまま歩いて行くと、目的地のカフェまで着いてしまった。


「え、猫ちゃん?」


 しかもあの白猫は、カフェの裏手に入っていく。カフェの猫だったらしい?


「まさかあの猫ちゃんが案内してくれた?」


 猫が道案内するわけがない。何かの偶然だろう。少し不審ではあったが、時計を見ると、二時より十分前だ。


 明日香は手鏡で前髪と歯をチェックし、小走りでカフェに向かう。


 カフェの外観は、元々教会をイノベーションしたらしく、白い三角屋。十字架のオブジェも残され、郊外の住宅街にあるカフェの割には異国情緒が漂い、明日香の心臓はドキドキとうるさい。


「スキマバイトアプリ・スキマーから働きに来ました」


 緊張しつつも、カフェの従業員入り口を見つけ、笑顔で挨拶する。こうして明日香のスキマバイトの時間が始まった。

 

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