#19 結末
「「「………」」」
辺りに静寂が訪れた。多分、予想外の事態にどうしたらいいか分からないといった感じの奴だ。が、まあ、俺のすることは変わらない
ウィィィン!
腕と脚を失ったにも関わらず、ゴーレムは立ち上がろうともがく。多分命じられた行動をしようとしてるんだろうけど……
(悪いな。トドメは確実に刺す主義なんだ)
身動き取れない相手に剣を振るうのは、例え相手が生き物じゃなくても気が引けるが……
ズブ!
俺の刺突があっさりとゴーレムの装甲を貫いた。何だ、関節を狙わなくても大丈夫だったな。
「わ、私のゴーレムが……」
所長と呼ばれている小男の口からそんな言葉が漏れる。何だか気の毒な感じもするけど、やらなきゃやられるんだから仕方ない。
「し、所長! あれを!」
ふと後ろを振り返った兵士の一人が抜け殻のようにぼんやりした所長の肩を揺する。払いのけるかと思いきや、所長は虚ろな目で言われた方に視線を向けた。
「白旗……? どう言うことだ?」
ヘンリエッタさん達が中を制圧したんだな! やった!
※
「私らが中で暴れてるうちにそんなことがあったなんてね……道理で連中は気もそぞろだった訳だ」
合流して主だった兵士や研究員を拘束した後、互いの状況を共有するとヘンリエッタさんはそう言いながら頷いた。
「おかげで楽な仕事だったよ。抵抗らしい抵抗を受けなかったからね。注意を引き付けるどころか奴らの意識を根こそぎ持っていってくれたって訳だ」
まあ、意識してやった訳じゃないけどな。
「本当に凄いです、シデンさん! ゴーレムをものともしないなんて!」
「シデンだもん。このくらい当然だよ」
驚くリアと何故かドヤ顔のサラ。何となくこのパターンも定番になってきたな……
「まあ、落ち着くまでは数日かかるとして……本当にダラク山脈に行くつもりなのかい?」
ヘンリエッタさんの情報によるとダラク山脈は凶悪な魔物が住む険しい山。さらにそれを利用した砦がいくつも建造されていてとても突破出来るような場所ではないらしい。
”砦が敵の手に落ちていればもっと大変なことになるけどね……“
ヘンリエッタさんが渋い顔でそう言っていたことを思い出す。まともに通れそうなルートには砦があり、そこにはリアの命を狙った第三王子派の人間が詰めている……考えれば考えるほどぞっとする状況だ。
「勿論です」
だが、そんな話を聞いてもリアの決意は変わらない。
「分かった。じゃあ、明日出発だ。準備はこっちでしておくから任せて」
「ありがとうございます、ヘンリエッタさん」
リアが頭を下げると、ヘンリエッタさんは手を振った。
「やめやめ! こっちの方が借り分が多いんだ。そんなことをしてもらう必要はないよ。ただ厳しい道のりになるからね。しっかりと休んでおいておくれよ」
豪快なヘンリエッタさんがここまで尻込みするダラク山脈……相当な難所なんだろうな。
※
(ハイネ視点)
(くそ……何でこんな目に……)
俺は今、ダラク山脈の砦にいる。理由はこの間の失態。要は一働きしないと王都に入れて貰えないって訳だ。
(山、山、山。他には何にもねーじゃねーか!)
俺は盃の酒を煽る。不味い。何故なら安酒だからな。俺みたいな本物志向の舌には合わないのだ。
(何が“これで精一杯です”だ。ろくなもんがないな)
酒を持って来いと命じた部下が青い顔でそう訴えたことを思い出す。他にも”これでも祭事に振る舞う大切なものなんです“とか“山頂にあるここでは物資の全てがなかなか手に入らない貴重品で……”とかなんとか。
(一体俺を誰だと思ってるんだ! 銀翼騎士団長だぞ!)
あ〜、なんな腹立ってきた! 外の景色でも見に行くか。
(何だか騒がしいな)
床に転がる酒瓶を避けながら部屋の外に出ると人が忙しそうに行き来してることに気がついた。
(そういや、何か言っていたな……)
確かに山の主に供え物をするとかなんとか……
(何が山の主だよ! 馬鹿らしい。それでも王国騎士の一員かよ!)
だが、どうも相手はこの世の始まりから生きていると言われる古龍らしい。凡人が恐れおののくのも無理はないか。
(ん? あれは!?)
ふらふらと砦の最上階へ行くと、そこには金の盃と俺でも口にしたことがない最高級の酒が!
(そうそう、これだよ! 俺にぴったりな酒は!)
何だ、まともなものもちゃんとあるじゃないか。じゃあ、さっそく……
「おやめ下さい、ウォルポール騎士団長!」
ん? お前は俺に安酒を出した不届き者じゃないか。
「それは山の主に捧げる大切な貢ぎ物です。どうか手を離してください!」
「んだとぉ?」
俺に安酒を出しておいて、挙句の果てに指図するのか、この俺に? 騎士団長だぞ、俺は!
「山の主? 知るか、んなもん! 文句を言うならお前もその主も叩ききってやる!」
俺は酒瓶の封を切り、一気にあおった!
(グビグビ……旨い!)
体の底から高揚するようだ。
(これだよ、これこれ!)
だが、次の瞬間、その酔いも一瞬で冷めるような凍てつく気配が……!
(何者!?)
しかし、そこで俺の意識はプツリと切れた。
ハイネは書いてて楽しいです。彼が楽しいかどうかは分かりませんが(笑)
読んで頂きありがとうございます。次話もよろしくお願いしますm(_ _)m ブクマ&ポイントもありがとうございます!




