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音楽フェスいよいよ開幕

「あー、テストテスト。音響大丈夫ですか?」


 紫辻がマイクテストをしている。本日Virtual Music Festivals #雷鳴 produced by Onyxの開幕である。謎のハッシュタグは今回のコンセプトだそうだ。


「あんまイメージよくなかったけどさすがはミスター・パーフェクトバーチャルだなぁ。いつ休んでんの、あの人」

「配信が予告してた時間にはじまらなかったこと一回もないんですって。一分もずれないとか。機材関係も詳しいんでしょうね」

「マジ⁈ 一周回ってバケモノだろ……」


 出番前の待機時間に、感情交差点は紫辻の噂話に花を咲かせていた。たしかに一分もずれたことがないのは、けっこうすごいと思う。誰が呼んだかミスター・パーフェクトバーチャル。昨日のリハは後輩の白鳥が遅刻してピキり散らかしていたが、主催者としてまた演者として八面六臂の活躍ぶりである。


 キラメキエンターテイメントの炎上により、Vtuber界隈も苦境に立たされるかと思いきや、実際はそう単純にはいかなかった。キラエンを見ていたリスナーが他に流れたという嫌な棚ボタもそうだが、界隈の上昇気流とでもいうべきか、何かやったら必ず数字がついてくる状況は続いている。


 伸びづらいと言われてきて、実際その通りな部分もあった男性Vtuberの状況も、変化があった。キラエン炎上の余波で、いわゆる御三家企業しか見ない人が多かった女オタや男女関係なく見る男オタが、中小規模の企業箱や個人勢に注目しだしたのだ。その裏には何故か御三家にターゲットを定め連日攻撃しているミス・アノニマスの存在があり、まったく喜ばしいことではないのだが、良くも悪くも裏事情がもろバレな弊事務所は逆に信頼できると人気になっている。いよいよ交差点の後輩もデビューするようだし。


 現在のチャンネル登録者数はハクトが約57万、クロノ約56万、ユニットチャンネルが約30万。ハクトにクロノを追い越したのは、知名度が上がったからだろう。上位陣には及ばないとはいえ、御三家所属に迫る数字を手にしている。


 そんな事情があって、感情交差点の出番は、FIP外では一番手である。かなり期待されていると言っていい。


 モデレーターの権限はないが、気になって待機所を眺めていた。開始2時間前にも関わらず、かなりのコメント数だ。見知らぬユーザー名に混じって、知っている人もいた。


れおまよ「楽しみ!」

ハクメンV「待機」


 登録者が増え、リスナー一人一人のコメントをじっくり見ることは難しくなってきてるけれども、こういう場所で知っている名前を見ると落ち着く。


 デビューから爆発的に増えた登録者数だが、当たり前だが配信に来てくれなくなった人もいるし、アカウントを消してしまった人もいる。数字、数字といってしまうし、ただのリスナー時代は気分や時間の都合で見るVtuberを変えていたけれど、だからこそ見てくれている人の有り難さはよくわかる。ハクトやクロノの存在を、ずっと応援してくれている人たちが、どうかこれからも楽しく応援してくれますように。勝手に願わずにはいられない。


 音楽がかかり幕が開く。


「恋沼さん!」


 出番直前の大輝ひろきに声をかけられた。


「楽しんで見てね!」


 何か激励の言葉でもかけようと思っていたのだけど、そんなものは必要ないと悟った。


「うん! ちゃんと見てるよ!」


 強くて美しいこの輝きを、見ていることが喜びなんだから。




※※※




 凝ったセット、輝く照明、優雅な衣装に煌めく瞳。すべては仮想バーチャルで、グリーンバックとモーションスーツの殺風景なスタジオから作り上げた、現実リアルのふりをした美しい夢。


「ボクらのこと知ってる人も知らない人も、楽しんでいってください!」


 オリジナル楽曲の『シグナル』とカバーが一曲、コラボ企画で紫辻と歌う一曲。大勢の参加するフェスで、感情交差点のパフォーマンスは三曲。少ないと言えば少ないし、多いと言えば多いが、爪痕を残せるか……なんて心配はしていない。


 弾幕と言われるコメントでリスナーが盛り上げてくれている。そう言えば初めてばかりの頃にみっくんがよくわからない文化で怖いとか言ってたなぁ。


 もっともらしく真剣に作り上げた嘘は、きっと本物よりリアルな世界。焦げ臭い感情も純粋な愛も交差して混ざり合って熱狂になって、美しくあれたなら。歌唱もダンスももちろん成長はあるけれど、それ以上に積み上がった大切な思い出の集合が、後押しして導いているような、良いパフォーマンスだった。


 みっくんが言っていたように、知らない人から見たら異様な光景だろうけど、コメント欄の信号機の群れも、感動的に見えるから不思議だ。


「解けた靴紐、絡んだ指と

 もがいて剥がれてった爪

 流れる時の中にしか

 宿らないんだね、魂」


 さんざん聞いた歌詞が違う感じ方になるのはなぜだろう。音楽って不思議。そう語彙が多いわけでもないから、神曲とかエモとかありきたりな言葉で誉めてきたけど、改めて素晴らしさを味わう喜びってあるんだな。


れおまよ「やばい泣きそう」

西園寺オンジ「良曲やね」


 手を一つ打つたび、カメラに視線が向くたび、虚構はより体温をおびて、観客を陶酔へと誘う。ずっと聞いてたくて見ていたくて、気がついた時には二人して頭を下げて舞台を降りていた。


「ウェ〜イどうだったよひかるちゃん」

「ど、どうでした?」


 戻ってきた二人があまりにも現実で、感動を冷まされたような、ほっとしたような。


「最高だったよ!」


 私のあまりにも安直な一言に二人が返した反応は、


「だろ! あったりまえじゃん」

「よかったぁ、その一言で安心しました」


 すごく二人らしくて、私は自然と笑っていた。

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