大切な関係
「……別に唐突に口説きだしたんじゃないから安心して。ものの例えというか……。恋愛《《できる》》のと《《する》》のは違うよ」
「……ごめん、ひかるちゃんは真剣なんだろうけど感想がめんどくせぇしかでてこねぇわ」
そりゃあ自分でもそう思うけどさぁ。
「でも、みっくんはわかってくれない? なんかさあ、大人になればなるほど、こうやって飾らないでべらべら話せる相手って貴重じゃない? 異性なら尚更そう。くっだらないお喋りして、どう見られようと今更構わないって開き直って、取り繕わないでいい関係なんて、滅多にないよ。あ、でも嫌がることはしないとか清潔感を保とうとか最低限の礼儀を捨ててるつもりはないよ?」
私のぼやきにみっくんは肩をすくめた。
「言いたいことはなんとなくわかったよ。礼儀がなってないと思ったこともない。まあなんだ? 男女の仲じゃない異性の友人って大人になればなるほどできないし、だからこそ貴重だよな」
的確な言葉に思わず手を打った。
「そう! 仕事で関わってもプライベートではごめんってなることも多いしね」
みっくんは頷いている。
「そりゃあね。なんか感慨深いわ。元ニートが大人を語るようになるとはね」
「うるさいな、擬態がうまくなったんだよ」
なんだか思い出深そうな表情をされた。
「わかる〜。あんなにムキになって反抗してたのに、いつの間にか自分が大人サイドでもの言ってて驚くよな」
なんか、らしいな。苦いとも甘いとも言えない感情に口角が上がった。
「私はみっくんみたいにロックな精神で生きてないけどね。ちゃんとした大人になりたくてなれなくて足掻いてたし、今だってそうだけど、もう子どもではなくなったよ」
「こうやって人間は若さを失っていくんだな」
「嫌なこと言わないでよ」
外はもう暗くなっていた。ガラスにはスーツの女とぷりん頭の男が写っている。中身は大して変わっちゃいないのに、たしかにもう子どもには見えないな。
「でもさぁ」
私の感慨を破って男は言葉をつないだ。
「大切な関係なのはわかるよ。そう思っててくれてありがたいし嬉しいよ。でもどんな形であれ人間関係ってどんどん変わっていくもので、留めておきたいからって、放っていたらどうにかなるものじゃない。しまっていけばいくほど壊れてくものだよ。俺とひかるちゃんは今のままがいいって意見で一致してるけど、大輝はどうなんだろう?」
今のままは、大輝にとっては大切じゃなかったんだろうか。そう思うと悲しくて苦しくて、私は俯いて黙っていた。
「あ〜。なんか誤解してるっぽい顔してるから補足しとくけど、大輝だって今が大切なのはたしかだよ。だからヘタレのまま尻尾振ってんだろ。でもアイツはずうっとずうっとそれでいいのかって言ったらそうじゃなくて、というか、ひかるちゃんが新たにもっと大切な関係を自分じゃない誰かと築くが、ものすごく嫌なんだと思う。俺の憶測だけどね。そんな相手はいないって否定するかもしんないけど、でもそんなのわかんないじゃん? 俺らの登録者数の増え方をデビュー前に誰が予想したよ」
並べるのそこなんだ。でも配信の積み重ねだって私たちの関係だって、どっちも大切な、いつも忘れちゃうけど大切な、知らない間に過ぎ去っていく人生の一部であって、私たちがいつの間にか大人になってたみたいにいつかは変わっていってしまうものなんだろう。
「ここまで散々口出ししといてアレだけど、別に付き合えってけしかけてるわけじゃないからね。ただ、ほっといたらとんでもない拗れ方しそうだったから。ヤンデレ犬に噛みつかれても知らないよ」
「さっきも思ったけど、大輝はヤンデレになるタイプじゃなくない? ヤン要素ないでしょ」
あきれた、とでも言うようにみっくんは目を見開いてみせた。
「どーだか。ひかるちゃん鋭いようでオタクバイアスかかってんね。かわちぃかわちぃハクトきゅんは画面の中の虚構だよ?」
「言われなくてもわかってるよ。あんな成人男性がいてたまるか。大輝とハクトを同一視したことはないよ」
「あとサラッとデレてんのは認めたね」
「……うざ」
嵌められた……。ニヤニヤしながら煽ってくんの本当うざいよ。
「……しかし、人の恋愛を肴にここまで盛り上がって良かったのかなぁ。勘づかれてたとはいえ勝手にバラしたし」
「配信でやったら今度こそ燃えカスになるよ」
「そこまで鬼畜じゃないって! クロノはツノ生えてるけど」
「みっくんがこんなこと言ってたよ〜って言いつけちゃおっかな」
「最悪ユニット解散だからやめて! 誰も幸せにならねぇから!」
やらないよ流石に。みっくんはわしわしと乱暴に頭をかいた。
「しっかしこの辺りのモラルはちゃんとしねぇとな。真っ黒背景愚痴イースタストーリーを笑えん」
「なにそれ怖ぁ」




