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魂魄双伝~祖国統一編~  作者: 希紫狼
序章~塔零記~
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第三十五話:無血入城(自軍限定)

キレてばかりの猛己……。

 落ちていく瓢箪はそのまま――本陣の警備に就いている兵の頭に「コーンッ!」と直撃!

 不運なことに、この時の彼の頭に支給されていた物は――たった一枚の布だけ……。

「ぎゃあああぁっ……!!」

 頭を直撃された彼は頭を両手で押さえて悲鳴! そのまま地面をのた打ち回る羽目に!

 これを現場を目撃していた別の兵の口からは――

「うおっ……! ひょっこり、瓢箪ひょうたんがっ……!」と驚きの声が漏れたそうな。

 さらに彼の口から「しかも虎縞とらじま。――珍しっ!」と止めの声も出る。


 話を猛己もうき軍の本陣に戻すと――

「くそーっ! けん傍矛ぼうむの“名”)はどうしてるんだ!?」と今も憤る猛己。

 この猛己のキレぶりに、彼の側近達は皆ビビりまくり!

 この中で、実の息子である畔河はんが政権の総理(同政権の首相)だけが――

「定時連絡の狼煙のろしでは、今も京賀けいが軍と交戦中のようです!」と平然と猛己に報告する。まるで「いつものことだ」と言わんばかりの慣れようである。

 彼は氏が『しゅ』、名は『しょう』、字が『攻巳こうし』という者。

 ちなみに元々の『由多加ゆたか』という名はとっくに捨てているらしい。

 まだ十六歳ながらも、現主席(同政権の最高指導者兼元首)兼校尉(同政権では最高指揮官)である猛己の後継者として、父に代わって過穀ここの本陣を任されている。

 傍矛の弟だが兄より要領が良いためか、猛己ちちから大変可愛がられている。


 余談だが、この時の攻巳の報告にあった『定時連絡の狼煙』であるが……。

 実はこの狼煙――既に京賀国に寝返っている申竜しんろうが起こしたものである。


「全く……小僧(陽玄ようげんの蔑称)の軍を、一晩で蹴散らせねえのかっ!?」

 しかし、可愛がっている攻巳むすこの声を以てしても猛己ちちの怒りは収まらない! 終いには、「あの“屑”がっ!!」と机の一つを叩き割ってしまう始末……!

 ここで攻巳が「伝令(兵)を送りましょうか?」といてみると――

「今は一人でも人手が欲しい! 狼煙で済ませろ!」と猛己は指示する。

 この指示の下、猛己軍は傍矛の部隊がいるとされる金川きんせんに向かって、過穀ここに援軍に来るように狼煙を数回にわたって起こし続けた。

 しかし、頼みの援軍は何かと理由をつけた狼煙で返して援軍に来てくれない。

 ある回では「敵がいるから!」と。遂には「逆に援軍に来て!」と返す始末……。

 結局、傍矛の部隊は最後まで過穀かこくに援軍として来ることはなかった。

 何せ、援軍以前に――京賀軍てきの捕虜になっているんだもの……。



  せい歴八百四年四月二日 午前十一時頃 畔河

 過穀政権の官男かんなん軍と畔河政権の猛己軍が過穀で激闘を繰り広げている間に、京賀軍は猛己おにの居ぬ間の畔河を包囲することに易々と成功する。

 包囲する京賀軍は兵力は二個団二千名。対して守備する猛己軍は一個小隊四十名。

 この時の一個小隊には、猛己どころか自政権じこくへの忠誠心が薄い兵ばかり。

 命と引き換えに畔河ここを守ってやる者など一人もいなかった……。

 こんな彼らに京賀国の宰相である月清げっしんが――

「直ちに京賀伯(陽玄)に下れ! さすれば――罪を許すばかりか職も与えん!

 気骨ある者よ! 己の一族郎党が惜しくなくば――かかってくるがいい!」と馬上から勧誘あめ挑戦むちが混ざった降伏勧告をしてみせる!


 この月清の降伏勧告に、畔河を守備する猛己軍の警備小隊は即、『降伏』の二文字を決意。

 しかも、全員一致! これにほぼ全ての官僚や文民も同意する始末……。

 無論『ほぼ全て』ということは、少数ながらも『抗戦』の二文字を決意する文民がいた。

 だが、彼らの全員は『降伏』を決意した者達によって、皆殺しにされた。

 殺された者の中には、猛己の妻にして、傍矛と攻己の母である『』夫人(あざなは不明。旧名は員子かずこ)も含まれていた。彼女は殺された者の中で、唯一の女性であり、『抗戦』を唱えた者達の首領格であったそうな……。

 ――抗戦する者達が抵抗レジスタンス運動を始めてしまえば、自分達にも害が及ぶ!

 そのように判断しての結末。誰も殺された者を哀れむ者はおらず、その暇さえなかった。

 猛己と和夫人の実の娘にして、傍矛の妹で攻巳の姉である女性もその例外ではない。

 この乱乱乱世、子が私欲のために実の親を見殺すなど決して珍しくない……。



 そうして血生臭い時間が三十分続いた後、『降伏』の二文字しか頭にない者しかいなくなった畔河から、月清の下へと降伏の使者が参った。

 その使者は女性であり、この女性こそが猛己の実の娘で、実の母親を見殺した者である。

 彼女の氏はもちろん『しゅ』で、名は『こう』、字が『献花けんか』。

 旧名は『美寿江みずえ』という者であったそうな……。


 その彼女から畔河の“降伏の意志”を伝えられた月清は、即座に畔河の守備小隊に対し、指定した場所での“武装解除”を“命令”!

 畔河を守備している小隊は、直ちに指定した場所まで走って――『武装解除』!

 剣等の武器はもちろんのこと、鎧等の防具まで放棄させる徹底ぶりであった……!


 こうして京賀軍の二個団は、畔河への無血入城(自軍限定)を果たしていった……。

次回予告:とりあえず、腹ごしらえ。


今回の登場人物

*京賀国

月清げっしん:京賀国の宰相。陽玄の父方の叔父。まだ少年。


*佞邪救国政府畔河政権

猛己もうき:畔河政権主席(最高指導者兼元首)兼校尉(同政権の最高司令官)。頭に血が上りやすい豪傑。

攻巳こうし;畔河政権総理(首相)兼軍師尉(参謀総長)。猛己の次男。まだ16歳。


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