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魂魄双伝~祖国統一編~  作者: 希紫狼
序章~塔零記~
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第三十四話:喋れん喋れん

陽玄ら一行。今日も元気に……大行列!

  世《せい》歴八百四年四月二日 午前七時十分 京賀国 大事近辺の某所《どっか》

「――へえ……。猛己《もうき》が佞邪《ねいじゃ》国との同盟を推《お》していたのは、佞邪国への併合の礎《いじずえ》を築くためなんですね!」

「そうだ! 尤《もっと》も、その佞邪国への手土産《てみやげ》の側面もあるがな……」

 真藤《しんどう》の結論を捕捉する貴狼《きろう》。彼ら二人とも馬上の人となっており、陽玄《ようげん》と鋒陰《ほういん》の二人に至っては馬車内の人となっている。

 そしてその四人の前後には――“近衛”の役割を担う『衛団(五個中隊を擁する一個連隊規模)』千名が展開している! 今日もいざ――現実的《リアル》な大名行列!

 陽玄ら一行は本日の午前七時に大事《だいじ》を出発! 次なる御視察地は「行畿《あんき》」と言う地になっている。そこは畔河《はんが》政権への最前線基地が在る場所である。


「猛己は元から佞邪侯(佞邪の現君主である釣幻《ちょうげん》)の家臣でな、四年程前に畔河主民政権を打ち立てて、我が京賀国《くに》に反乱を起こしたのも……。佞邪救国政府に仲間入りしたと思ったら、クーデターを起こしたのも――全ては佞邪侯のためよ!

 猛己自身が己を『佞邪救国政府』の“正統な主席”と称するのが、何よりの状況証拠だ!」

 お喋《しゃべ》りを止めない貴狼。独身故に自身が寂しがり屋だということを、当の貴狼《ほんにん》は全く気付いていない。いや、気づきたくないのであろうか……。

 それでも――なお、肝心の台詞《せりふ》であえる「書状等の物的証拠がある!」とは絶対に喋っていない! また言うとしても――この戦いが終わるまでは絶対に喋らない!

 あれは大事な“証拠”という外交面での取引材料。おまけに後世に残すべき史料!

 ――こればかりは迂闊《うかつ》に喋れん喋れん……! という内心も、今の貴狼の内心!


「だから『佞邪救国政府』の『佞邪』が欲しいんですね!

 でも、クーデターが成功させるのはいいとして、その後に『佞邪救国政府』が『佞邪国』に降伏するのは、あまりにも不自然過ぎませんか?」

「猛己はあまり“外からの評判”やら“実行後の後先”というものを考えられぬ男でな!

 ――まぁ、いざとなったら命令主の佞邪侯に殺されるだろうよ!」

 真藤の数々の疑問に、貴狼は猛己を嘲《あざけ》りながら答えていく……。

「それにしても、猛己はどうして――内から過穀《かこく》政権と外から京賀《けいが》国に挟まれてるタイミングで、決起しちゃったんでしょうね……」

「新聞に載っていたことだがな、『猛己が佞邪国と内通している!』という疑惑が前々からあってな。今日の一昨日《おととい》に、疑惑を確信にする証拠が――過穀の官男《かんなん》(分裂前からの救国政府の主席。現在、過穀政権の主席)に渡ってしまったらしい!

 確か……猛己直筆の署名が入った、佞邪国への書状だった気がするなぁ……。

 こうなると、猛己側の奴らは一族郎党ごと粛清《ころ》されてしまう!

 それで焦った猛己とその支持者共は――昨日の内に畔河で決起したわけだ!」

「そんな証拠――よく過穀側の人の手に行きましたね! 都合が良すぎないですか?」

「さぁな。何しろ裏を取っていないしな。だが、猛己はそれほど嘘をついてないということだろうな……!」と貴狼は真藤の最後の質問に、このように嘯《うそぶ》いてみせる!


 何しろ、その『証拠』とやらを、本物《もと》を参考に偽造作成して、偽物《それ》を官男の手に渡らせた“黒幕”というのは――他ならぬ貴狼《じぶん》自身であるからだ!

 予《あらかじめ》め用意した『証拠』を、手下を使って過穀側の一般人にそれを拾わせたのだ! そして証拠は一般人から、官男側の親衛隊の兵隊の手から指揮官の手へ。

 その結果は周知の通り、官男の手に渡った訳だ……。これも迂闊には――喋れん喋れん!


 真藤は貴狼の嘯《うそぶ》きように、何か腑《ふ》に落ちない点があるものの――

「そうなんですね……」と応える他なかった……。



 その頃、過穀では過穀政権と畔河政権の両政権同士の激闘が繰り広げられている!

 今日の午前六時から一時間が過ぎたというのに、両政権の軍に疲れの色は見られない!

 既に両軍の最前線を担うことになってしまった川には、両軍の兵達の血と“生物”であった肉塊が流れて続けている……。最早、「三途《さんず》の川」以上に悲惨であろう。


 猛己軍は午前六時から予《あらかじ》め占領していた別の橋から、猛己が率いる本隊が突入。しかし、その橋は前日に落とされた橋よりも幅が狭く、少数ずつしか前に行けない!


 さらに過穀政権の官男軍はそこを、鉄壁の防御陣を設けて待ち受けていた! 遠距離攻撃に優れた弓《きゅう》兵隊(一個中隊規模)と近接攻撃優れた槍《そう》兵隊(これも一個中隊規模)も投入! 加えて、決戦兵器として保有したいた投石機四機全ても投入!

 おまけに予備として親衛隊の残りの三個小隊全ても待機!

 しかも、官男が直接前線に出て、それら全部隊を指揮をしている!

 最早、“総力戦” といっても過言ではない官男軍の陣容に、並外れた攻撃力で過穀の政庁を落としてみせた猛己軍も攻めあぐねてしまった……。

 自軍の攻勢を直接指揮していた当の猛己本人も、流石に疲れてしまったのか一旦後退して、休息を取りながら今後の作戦を練ることにしたが……。


「くそおおおっ! あの邪魔な弓(兵)共がいなけりゃ!」と本陣で叫んでキレる猛己!

 瓢箪《ひょうたん》に入ってた水を飲んで早々にこれ。周りの側近は皆ビビる!

 その直後、猛己は手に持っていた瓢箪を思いっきり地面に叩きつけた! 叩きつけられた瓢箪は天までと届かんばかりに跳ね上がったが、そんな訳なく早々に落ちていく……。

キレて誰か斬っちゃいそうな猛己と二つの意味で首を斬られそうな側近共……。


そして絶体絶命の畔河……。


今回の登場人物

*京賀国

・貴狼《きろう》:京賀国の摂政。

・真藤《しんどう》:平成二十九年からの転移してきた日本人浪人生。


*佞邪救国政府畔河政権

・猛己《もうき》:畔河政権主席(最高指導者兼元首)兼校尉(同政権の最高司令官)。頭に血が上りやすい豪傑。


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