第十八話:この世界の新聞
佞邪救国政府が二つもある――遠因。
「まだ殿下(陽玄)と師殿(鋒陰)の対局が終わっておらんな。
どれ、一つ“面白い話”でもしてやるか……」と部屋内の少し離れた所から対局中の二人を見て、真藤にある話題をぶつけようとする貴狼。
これに真藤が「『面白い話』……ですか……?」と素っ頓狂な声を上げた。
これをきっかけに、貴狼が話し始める。準備のできていない真藤の心に構わず……。
「真藤。お前は佞邪救国政府が二つに分かれているのを知っているか?
それぞれ、“過穀”と “畔河”という地に独自の政権を打ち立てて、どちらが正統な『佞邪救国政府』かを賭けての内戦の真っ最中よ!」
「い、いえ……! 初めて聞きました!」
この真藤の驚きの反応を見て、貴狼はニヤリと口元歪めつつ――
「そうだな。何せ、今日の朝に届いたばっかりの報だ!」と続けていく。
それも将棋盤とその駒を使いながら……。
「四年程前に過穀の『血布党』と畔河の『主民党』の二つの党が解散した。
それら二つの党が合併して、一つの『佞邪救国政府』とやらが発足した時、旧血布党の主席(党首)の『官男』という奴が救国政府の『主席』に就いた!
こいつが『過穀』の政権の『主席(元首)』! “原物”の方だな!」
落ち着きを払いながらも、忌々しさが感じられる貴狼の喋り。
これと共に、彼はある一駒を盤に叩きつけた! それは――“王将”!
ちなみに『佞邪救国政府』上の『主席』とは“大統領”を意味する。
「そして、旧主民党の頭領の『猛己』という奴も救国政府の『次席』に就いた!
こいつが『畔河』の政権の『主席(元首)』! “複製品”の方だな!」
さらに貴狼はこの説明と共に、もう一つの駒を盤に叩きつけた! それは――“玉将”!
ちなみに『佞邪救国政府』上の『次席』とは“副大統領”を意味する。
「お前は『王将』と『玉将』の違いが分かるか?」
どうでもよさ過ぎて、誰もが知らないような質問を容赦なく真藤にぶつける貴狼。意地悪と謗りを受けても、文句は言えない。
しかし、ぶつけられた当の真藤は「はい」と応じて――
「確か目上の人が『王将』、目下の人が『玉将』を使うと聞いています!」と即座に答えた!
これには貴狼も嬉々として「その通りだ。良く知っているな!」と舌を巻く!
「まぁ……」と照れてみせる真藤。実は彼――雑学を学ぶことが大好き。
前の世界では、これが原因で大学受験に失敗したと噂されるほどだ。
ちなみに余談だが、これとは違う原因で大学受験に失敗している……。
そんな真藤の身の上を知ることなく、貴狼は真藤に――
「さてもう一つ聞くが、一組織の長が別の組織でナンバー“ツー”をやる。
その上、その別の組織は自身の組織とは無関係で知らない組織。普通やりたがるか?」と問いかけながら、盤上の玉将を……真藤から見て王将の下の位置に指し直す。
「やりたがらないと思います。友人でなく、知り合いでもないので……。
ましてや、双方のどちらかが一方的に慕ったり憧れてもいない……。
それなのに、いきなり知らない人の下るなんて正気じゃありません!」
「大方はそうだ。だが、猛己はそれをやってのけた! 何故だかわかるか?」
「自分の組織を大きくする気でないのなら……元から裏切る気だった……!?」
確信は伴っていないものの、正解を言い当ててみせた真藤!
貴狼は上機嫌に鋭い視線を真藤に送りながら「お前は筋が良いな!!」と感心する。
そして燥いでいる子供じみた興奮を滲みだしながら――
「実際に……猛己は裏切る気で救国政府に参加したのだ!
とはいえ、官男に下ることは猛己自身も不本意であったそうだがな……!
何しろ、奴自身が『次席』の地位の不満を漏らしまくっていたそうだ!」と続けた!
こんな貴狼に、真藤は疑惑の目を向けながら――
「どうしてそんなに詳しく話せるんでしょうか……?」と訊いてみる。
ちなみにその目は完全に不審者に向けられるべきものだが、生憎……貴狼は不審者どころではない。完全な悪人である……。それも黒幕級……。
その理由は後々に明らかとなるので……今はそのことは置いておく……。
「この世界には……どの国にもどの地方にも……昔から新聞が存在していてな……。
俺が今言ったことはその新聞に載っけられた暴露話のほんの一部よ!」と真藤に向かって、嘘としか捉えられない真実をぶつける貴狼!
ぶつけられた当の真藤は「え……!?」と素っ頓狂な声を出すのみ……。絶対にそうなる。
「他の周知の事実だとな……。救国政府の樹立当時から猛己は事あるごとに官男と真っ向から対立してたらしい……。軍事や外交でも内政でも……。結局は全てにおいて……。
それから程なくて、旧血布党員で官男を筆頭とする“過穀派”と……旧主民党員で猛己を筆頭とする“畔河派”でドロドロの派閥抗争を繰り広げる始末……。
今の救国政府の分裂も――その延長よ! いや、結果というべきだな……」
この貴狼のおまけ話にも、真藤は返事の仕方が分からず、「はぁ……」と素っ頓狂な声で返すだけ。――この世界の新聞、パネーッ!! と内心でショックを受けるのみ。
ちなみに貴狼の先の台詞に在った『新聞』だが……。実はこの新聞を発行している企業――貴狼配下の間者だったりする……。
次回予告:新聞よりも「パネー!!」なはず……。
今回の登場人物
*京賀国
・陽玄:京賀国の君主。まだ幼い。
・貴狼:京賀国の摂政。
・鋒陰:陽玄の師。まだ幼い。
・真藤:平成二十九年からの転移してきた日本人浪人生。




