ホムンクルスの大予言!
◇
しかしどこを探してもホムちゃん……いや、ホムンクルスは見付からなかった。
各階のトイレ、体育館倉庫、全校生徒の下駄箱一つ一つ調べても見付からなかった。
「どこ行ったんだ……ホムちゃん」
勿論、ホムちゃんが勝手にてくてく歩いてどこかへ行った訳では無く、何者かが拐って行ったと云うのは明白な事実だ。
美月は藁にもすがる思いで、サイボーグ猫タマちゃんに蒸留装置の匂いを嗅がせ、捜索を依頼していた。
警察犬か?
しかし、猫の嗅覚も人間のそれとは比べ物にならないくらい凄い筈だ。しかもサイボーグ猫である。きっと何らかの手掛かりを……
「なー」
変なところで相づちを打つのは誰だ?
「なー」
ウワサをすればタマちゃんが、何か云いたげに俺を見上げている。
「なーニャガっ!ニャガ」
「何だって?」
「なーなーなー」
「そうか、そうだったのか……」
等と、猫と会話が出来るフリをしている場合じゃない。
取り合えず、タマちゃんに付いていく事にした。
ここはもう、動物の本能を頼るしかない。
いや、自分で探すのが面倒になった訳ではけっして無い。
……と思う。
タマちゃんに付いて行き、たどり着いたのは
【料理研究部】
ああ……猫畜生に頼ろうと思った俺がバカだった。
何故なら料理研究部の部室からは魚を焼く良い匂いが漂って来ていたから。
「ふっ、サイボーグとは云え、所詮は畜生、食い物の誘惑には勝てなかったか」
俺が嫌味満載で吐き捨てるとタマちゃんはばつが悪くなったのか料理研究部の部室の引き戸を器用に前足で開けて入って行った。
……その途端。
「タマちゃん!」
「丁度良かった!タマちゃん、コイツ退治して!」
と、料理研究部員達の声が。
ゴキブリでも出たのかと思い中を見ると……
部員達が部室の隅に固まり、遠巻きに調理台の上を見ている。
そしてその調理台の上には出来上がったばかりの鮭のムニエルとおぼしき料理が並んでいる。う〜ん美味そうだ。
そして更に、その鮭のムニエルの一皿の上に
……えっ?
……ええええ?
俺 が 居 た 。
いや、正確には“もの凄くミニサイズの俺”だ。CUPメンより更に小さい。
しかもCUPメンが登場した時と同じように全裸である。
……こ、これがホムンクルス……?
ゴメン、タマちゃん。畜生呼ばわりして。
心なしか最強サイボーグ猫は人を小馬鹿にしたようなドヤ顔をしている。
「は……恥ずかしい!何か服を着なさい!」
もう不思議な事象にはどこかの天才オタク美少女のせいで慣れっこだ。だからリアクションが変なのは別にに作者の表現力の無さのせいではない。……と、云うことにしておこう。
ホムンクルスはそれまで鮭のムニエル粉ふき芋添えを貪り食っていたのだが、俺を見るなり
「お父ちゃん!」
と叫び、飛び付いて来た。
調理台から俺のところまで優に三メートルはある。凄い跳躍力だ。
いや、そんなことより
「お、お父ちゃん?」俺が?
まあ確かに、俺の分泌物から生まれたんだから、あながち間違いでもない。でも俺、まだ高校生だぜ?ちょっと受け入れられない。
「ちょっと!この人面虫アンタの子供?」
料理研究部員が凄い形相で詰めよって来た。
“人面虫”とか云っときながら“アンタの子供?”とはなかなかの壊れっぷりだ。
「いえ……俺はまだ未婚です」
そしてどう答えて良いか解らず、とりあえずそう答えてしまう俺。
「どうしてくれんのよ、この料理、これからコンテストに出品する為に作ったのに、ピッタリ審査員の人数分作ったから一皿欠けても駄目なのよ!」
そうだったのか……でも俺に同じ料理を作れと云われても、カップ麺しか作った事が無いし、何より材料が……
「話は総て聞かせて貰ったよ」
この声は……!
振り向くと、化学部部長、院銀武礼が居た。もったい付ける程では無かったな。
院銀部長は眼鏡をずり上げながら尚も続ける。
「コンテスト審査員の人数は?」
「七人ですけど」
「成る程、で、会場は?」
「○○文化会館です」
「ふむ、料理研究部の諸君は何も心配せずに、残った六人分の料理を持って会場に行きたまえ。あとはこちらでなんとかする」
「あ……ありがとうございます!」
院銀部長を信用し、急いで料理を持ち、会場へ向かう料理研究部員達。
やがて部室は、俺と、院銀部長と、タマちゃんとホムンクルスだけになった。
「あのう……部長」
「何だね?」
「一体どんな秘策が?」
「秘策?そんな物あるわけ無いじゃないか」
「ええーっ?」
部長は暫く考えこんだ後、タマちゃんに耳打ちする。
「ニャガニャガニャガニャ〜」
「なーお、なーなー」
えっ?マジで猫語話せるのか?部長。
部長の話が通じたのか、全速力で料理研究部の後を追いかけるタマちゃん。
「今、審査員の一人を襲うようにタマちゃんに頼んでおいた」
いやそれ……犯罪でしょう。
◇
ともかく、ホムンクルスは見付かった。俺としては複雑だが、見付かった。
「ホムちゃん、どこ行ってたのぉ〜!」
まるで夕方になってもなかなか帰ってこなかった我が子を叱るような云い方の美月。
「ごめんよ、お母ちゃん」
……お母ちゃん?
……お母ちゃん?
……お母ちゃんんっっ?
さっきコイツは俺の事“お父ちゃん”って呼んでたな、って事は……もじもじ。
「誰が“お母ちゃん”よ!私の事は“博士”とお呼び!」
……そうきたか。
そんなやりとりをしていると、院銀部長が
「そう云えば、河南君、確かホムンクルスはフラスコの中から出ると死んでしまうんじゃなかったろうか?」
えっ?そうなのか?コイツ、バリバリ生きてんじゃん。鮭のムニエル貪り食ってて食欲も旺盛らしいし。
「フラスコって、オイラが入ってたヤツ?あれなら変なオジサンが持ってったよ」
どうでもいいけど、ホムンクルスってヤツは産まれたばかりでこんなに喋るもんなのか?
「変なオジサン?」
「モジャモジャ白髪頭で眼鏡掛けてる……“フラスコ足りないから借りてこ♪”とか云って、無理くりオイラを出したんだ」
院銀部長がポン!と手を叩く。
「その人は化学部の顧問、歩木芽出巣先生だ」
知らなかった、化学部にも顧問なんて居たのか。
「今、大丈夫って事は大丈夫なんでしょう。駄目になったらまた造ればいいし」
さらりと酷い事を云う美月。
そしてその他大勢の化学部員が
「ねえ、ホムンクルスって預言とかできるんでしょ?次のテストの問題教えてよ」
などと云う。
ホムンクルスに預言の能力があるなんて知らなかった。テストか……俺もちょっと(っていうか全然)自信無いから教えて貰おうかな〜?
「いいよ、オイラにまかせて!」
胸をドンと叩くホムンクルス。すっかり忘れていたが、早く服を着ろ。
ホムンクルスが次のテストの問題を“預言”している間、タマちゃんが帰って来た。
何だか反り血を浴びてるっぽいけど、今はそれどころじゃない。
部室の外で料理研究部員達が何やら騒いでいるけど、鍵をかけたので大丈夫だ。
そんな訳で、ホムンクルスから“預言”を授かった俺達化学部員は、安心して次のテストまで勉強もせずに遊んで暮らしましたとさ。
……で。
その後の、化学部員達のテストの成績だが……
美月と院銀部長以外全員赤点。
何故だ?ホムンクルスの“預言”をちゃんと聞いていたのに。
落胆する化学部員達と俺に美月は冷たく云い放った。
「バカね、陽介の精液から精製されたホムンクルスが陽介以上の知能を持ってる訳ないでしょ!」
……云われてみれば、ごもっともな話だ。
軽く俺自身もバカにされたような気がするけど。
「“蛙の子はオタマジャクシ”だねっ、父ちゃん♪」
ああ、俺とそっくりな顔をして天真爛漫にそんな事を云うホムンクルスを捻り潰したくなる。
「父ちゃん云うな!それに、それを云うなら“オタマジャクシはナマズの子”だろ!」
……あれ?




