ホムンクルス……失踪!
◇
午後の授業は眠い。
学生諸氏なら殆ど賛同してくれるだろうが、午後の授業は眠い。
「えっ?俺全然眠くならないけど?」なんて云ってのける学生がいたら声を大にして云ってやりたい。
オマエ人間じゃねえ!
……と。
そんな午後の授業が英語だったり数が苦……もとい、数学だったりすると、眠気はもう頂点に。
そう、英語である。しかも何を思ったのか英語の教師が自分の好きな英語の詩を長々と朗読しているので、子守唄効果で瞼が重くなった。
どれ程重くなったのかと云うと、推定二トンぐらいだ。
二トンもの瞼を自力で持ち上げるのは無理っ!
物理的に無理だ。
お休みなさ〜い。
と、英語教師・木刻詩叙女史にヒステリックに怒られるのを覚悟で居眠りを決め込みうとうとしてた時だった。
後から俺の背中を叩く者がいる。
お〜れ〜の〜眠り〜を〜さ〜ま〜た〜げ〜る〜も〜の〜は〜だ〜れ〜だ〜
と、寝惚けプラス恨みがましい顔で振り返ってみると……
美月が居た。
まあ、俺の真後ろは美月の席なので当たり前っちゃ当たり前なんだが。
その美月が何やら紙の切れ端を渡して来た。
な……なんだろう?いきなり告白か?
こんな時にしなくても……てか、ちゃんと口頭で伝えてくれても……ど、どちらにしても心の準備が……
まだ寝惚けてる脳内で超ハッピーな妄想を繰り広げながらその紙の切れ端を広げると
―化学部員に告ぐ―
河南美月君の研究成果がいよいよ実を結ぶ段となった。
歴史的な一瞬を目の当たりに出来るチャンスだ
放課後、化学部室に集合せよ。
部長・院銀武礼
「なぁーーーんだ」
ハッピーな妄想一色に染まっていた俺は一瞬にして落胆し、思わず声を上げた。
「ミスター北里!」
英語教師・木刻詩叙の怒号が飛ぶ。
◇
その後、ハイミスのクドい説教を延々と聞かされ、おまけにペナルティとして明日までに英作文を提出しなきゃならなくなった。俺……英語苦手なのに。しかも少しでも文法やスペルが間違っていたらやり直しだと……うぬぬ、ハイミスめ。
そんな訳で、部室に行くのがすっかり遅くなってしまった。
既に部室には化学部員達が集まっている。
「北里君、ずいぶん遅かったね」
部長の院銀武礼が眼鏡を人指し指で上げながら云う。今更だが院銀部長は眼鏡を常用している。今流行りの眼鏡男子である。そんな事はどうでもいいが。
「今日で四十日目なのよ」
と、美月に云われ、何の事だか解らなかったが、黒い布が被せてあるホムンクルスの蒸留器を見て、厭な過去を思い出してしまった。いや、過去っつう程過去じゃないけど。
「ホムンクルスが見事に精製されていたら、河南は名実ともにパラケルスス以来の大天才と云うことになる」
部員の一人が神妙な顔で舌を噛みそうな横文字を口にする。つか、少し噛んでた。俺も試しに云ってみよう「パるケらススす……」駄目だ。
「みんな、静かにして。布を外すわよ、いい?」
人食い花だのサイボーグ猫だのをチョチョイっと造ってしまう美月の事だ、今更ホムンクルスが精製されてようが、烏賊の塩辛が熟成されていようが驚かないと思うが、オタクな部員達が妙に厳かにしているのが笑っちゃう……いや、いやいやいや。
そして、美月によって黒い布が外された。
蒸留用のフラスコの中には……
フラスコの中には……
中には……
つか、そのフラスコが無いんですけど!
部員全員が凍り付く。
とりわけ美月はまるで楳図か○おの漫画に出てくる人みたいな顔をしている。
どんな顔か解らない人は楳図かず○/漫画/画像で検索しよう。
「わ……私のホムちゃんが……」
がっくりと項垂れる美月。
ホムンクルスに名前付けてたのか……何て安易な名前なんだ。ネーミングセンスの欠片も無い。将来美月と結婚したら子供の名前は俺が付けよう。犬や猫の名前も俺が付ける。そうしよう。てへっ。
「ホムンクルスが盗まれた……!きっと河南君の研究成果を自分の者にしようと企む悪の化学者の仕業だ。卑劣な!なんとしても取り返さなければ」
院銀部長、脇役なのに結構長台詞だ。よく噛まずに云えたもんだ。尊敬する。
そんな事云ってる場合じゃないが。
ホムンクルスなんて盗んでどうする気だろう?
中は俺の○○○○なのに。
いっその事そのまま永遠に俺の前から消えてくれ。とさえ思う。
だが美月が……
こんなにがっくりしている美月を見るのは初めてだ。
俺の羞恥心なんかどうでもいい、美月の笑顔を取り戻す為に、俺は部室から飛び出していた。
で、また次話につづく。




