第1話 帰還
麻宮秋人が『帰還した』岩倉未鈴を発見したのは、八月二十八日の夜半、塾帰りのことだった。
おかしな匂いがした――こもった土のような、乾いた獣のような匂いだ。
その源を求めて、ちょうど通りがかった公園に視線を這わせる。住宅街の一角にある小さな公園には誰もおらず、ただ、風に揺られてブランコが鳴っていた。野良猫がいる気配すらない。けれど、なにかいる、と確信があった。自転車のハンドルを握り締め、じっと見つめる。
街灯に照らされたジャングルジムが、地面に格子柄を作っていた。その線が歪んでいて――秋人は、人が倒れていることに気が付いたのだ。
乱暴に自転車を投げ捨てて駆け寄った。うつ伏せの女性は制服を着ていた。秋人の通う高校の、夏のセーラー服だ。
肩を叩いても反応がない。わずかにこちらを向いている顔には、肩まである黒髪が散らばってかかっている。呼吸を確かめるために指先でそれを除けた。顔に見覚えがあった。同じクラスの岩倉未鈴だ。彼女は終業式を欠席していて、以来見ていなかった。
――報道はされていた。岩倉未鈴は八月十日から行方不明になっている。
夏休みだというのに制服を着ている。紺のソックスにこげ茶のローファー。それらは新品のように綺麗で、乱れもない。
秋人は救急車を呼び、病院まで付き添った。




