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剣の夢 剣士の夢  作者: 烏合衆国
第二章 研鑽
7/8

2-4 あなたは




   ⚔




 翌朝。

 ドニーさんと共に会館を出発した。

「向かうのはこの国で四番目に大きい、ローツェ街道だよ」彼女は歩きながらそう解説をするが、そもそも一番目から三番目も知らない。生まれてからほぼ村を出たことがないためだ。私にとって街道といえば村の前の、一日に馬車が二台通れば多いと言われる細道である。


 だからその、三倍以上あろうかという道幅と数十倍の人通りに圧倒される。


「フォスと同じ反応だ」ドニーさんは言って笑う。

「そりゃあ姉さんも、最初がこれは同じ驚き方になりますよ」

 私は何気なく返す。

「……フォスの初仕事もコレだって、知ってたんだ?」

 まずい、失言だった。姉の声は私にしか聞こえない。剣が教えてくれた、などと言っても誰にも信じてもらえないだろう。「む、昔、聞いたんです。姉から」

「そっか。仲良かったんだね」

 ドニーさんはそれで納得したようだった。

「はい、それはもう」

 言ってから、私は頭に鋭い痛みを覚えた。


『――――』


 姉の声だろうか。いや、剣から聞こえているのではない、()()()()()()()()()()()()()()――

「行こうか、目的地はもう少し先だから」

 ドニーさんの声で我に返り、すぐついていく。

 ……もう少し、先?



 着いたところは、最初に歩いたところと比べると道幅が半分ほどになり、人通りはほとんどなくなっていた。というか森の中を通っていた。

「これが、この街道が四番目な理由でね」ドニーさんは説明する。「一番目から三番目は、全部分が整備されてて、対人トラブルその他の治安維持が主な仕事になるんだけど、それ以外は、相手取るのは人間じゃなくて動物になる。ふつうに飛び出してくるから注意してね」

「猪は出ますか?」

 私は考えるより前に訊いていた。

「猪? は出ないと思うけど」

「そうですか」私はとりあえず安心した。「じゃあ、一体何が?」

「それは――ほら、鳩とか」

 ドニーさんが指差した先には、山鳩が数匹(たむろ)していた。しかし鳩ごときはどこにでもいる、

「それを狙う、山猫とか」

 道の脇の森から。鳩を目がけて、黒っぽい影が飛び出してきた。バサバサ、と鳩たちは飛び去っていき、捕まった個体はなかった。狩りに失敗した山猫は、私たちのほうをぎょろと見た。私が両腕で抱えきれなそうなくらいには大きい。

「まあ、よほど危険な奴じゃなかったら追い払うだけだね。下手に恨みを買っても面倒だし――」

 ドニーさんの言葉が終わるより前に、

 その山猫は、私目がけて飛びかかる、


 私は、反射的に腰の剣を抜いた――


「おっと」

 ドニーさんが、ガントレットを着けている右手でがしっと空中の山猫を掴む。山猫はにゃぎ、と小さく呻く。

「…………」私は剣を納める。「あ、ありがとうございます」

「相手に噛ませたら、殺さなきゃいけなくなる。それにこちらが下だと仲間全体に認識されるから、こういうふうに対処するんだ」ドニーさんは掴んでいた山猫を茂みのほうへ投げる。山猫は上手に着地すると、力関係を把握したのか、こちらを振り向かず木々の奥へと消えていった。

「他には鹿とか狸とか。星二難度だから、そこまで凄まじいのはいないね」彼女は言う。星二というのは組合員証に付されていたランクだろう。姉からも、実力によってもらえる仕事が変わると教わっていた。ただ、私のランクは星一つと四欠片のはずである。星二にはあとひと欠片(かけ)足りないようだが、と疑問を口にすると、

「星の数は総計を頭数で割るから大丈夫。それに、最初にもらうのは実は仮査定で、最初の仕事の成果ですぐ本査定が決まるから、少しでも背伸びしたほうがいいんだよ」

「なるほど。ちなみにドニーさんのランクは?」

 私の問いに、一瞬だけ口ごもるが、

「星三つと、六本」と教えてくれた。

「六本……っていうのは、すごいってことですか? 星三つより多いから」

 私が素直に訊くと、

「……フォスから何も聞いてないの?」

 ドニーさんは逆に訊いてきた。

「? はい。ランクとかの話は、特には」

「そっか。いや、悪かった。まだフォスのランクを抜かせてないってのが私の唯一にして最大の欠点でね。フォスの最終ランクは星三つと十一本。まあここまで来ると上澄みも上澄みだけど。私の六本は、昨日の会館にいた奴らの中では上の下ってところかな」

「十一本……」計上される星は三つまでのため、ランクが溢れるとそのような数え方になる、とは受付の人に教わっている。私の実力を組合の中で考えると、甘く見積もっても下の上というところだろう。星二からは中間層、星三を超えランクが溢れてからが上位というところか。そして姉との距離は――改めて、まだまだであることが分かった。

「ランク関連は今、新基準の整備に向けて議論がされてるところだから、これからいろいろ変更されるかもだけど。もっとあの子が生きてるうちに、競い合いたかったな」フォスさんは俯きがちに言う。そういった気持ちは私も同様に感じている。生身の姉に、剣を教わりたかった。それ以前に、もっと触れ合いたかった、




 ()()()()




()()()!」




 私は――剣を鋭く抜き。

 飛んできた物体を受け止める――重い。昨日喰らった蹴りのようだ。流石に剣と腕では受け止めきれず、直撃だけを避けて進路を修正し、前方へといなす。


「――ッ! 悪い、怪我は!」

「大丈夫です。ドニーさんは」

「私も。それより応戦が先だ」

「いえ、そっちも大丈夫です」


 私は。右頬についた血を拭いながら言う。


 といっても、かつての猪のように、斬殺してしまったわけではない。ただ少しだけ、右後ろ足の指を、斬り落とさせてもらった。

 現れた山猫は、先程の個体より一回り大きい。足から血を流しながらも、私たちから目を離そうとしない。

「……え? あ、えっと」

「一応、殺さないほうがいいと思って。でも結果的に戦意を削ぐのは失敗しちゃいました」私は答える。己の未熟さに恥じ入るばかりだ。「でも、殺さないって決めた以上、どうにか帰ってもらいます」私は言って、山猫に近づく。

「ち、ちょっと、待っ、」

 ドニーさんの心配を振り切って、私は近づいていく。その爪が、予備動作なしで届かないギリギリまで近づき、

「どうぞ」

 私は懐から、昼食用の干し肉を取り出して地面に置いた。足が欠損したことで、これから狩りがしにくくなるだろうということへの配慮――のつもりだが、果たして猫に伝わるかどうか。

 私は少しずつ後ずさっていく。私の身長くらいの間隔が開いたところで、山猫は動き出す。私は距離を保ったまま目は離さない。山猫は――肉を銜えると、背を見せて、森の奥へと消えていった。意外と動けるようで安心した。

「ふう。進みましょうか」

 私は言う。

「……うん」


 その後は、大事なく巡回が行われ、任務が終了した。




   ⚔




 翌朝。

「正式ランクが決定したしました」

 受付の人が、会館に顔を出した私に言った。隣にはドニーさん。周りには同僚たち。

「ツルギーさんのランクを、星二つとふた欠片(かけ)。と認定いたします」

 おおっと歓声が上がった。心()しか、一昨日より声は大きい。私は解説を求めて、ドニーさんのほうを向く。

「初任務後のフォスのランクは――星二つと一欠片(にいいち)だったから。ツルギーが一歩リードだね」

 彼女は顎に手を遣りながら言う。

 私は姉に教われたが、姉は姉に教われなかったのだから、私のほうが評価が高いのは当然だ。今後も、気を抜かず仕事をこなしていきたいと強く思った。


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