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正夢が見れるなら高次元世界でも無双できる?  作者: ブルーギル
第1章 入学前
9/38

9話(終) 闇を乗り越えて

 ピンポーン


「……はい」


 ガチャ


「……あら、フィアス。おはようございます」


「お、おおおおおはよう雪夜! い、いい天気だね~!」


 空は曇天である。


「そうでしょうか。さて、何の御用でしょう」


 雪夜のサファイヤのように冷徹な目。

 さらに、()()()フィアスには、雪夜の闇がはっきりと見えている。


(糸~……怖すぎるよ~!!!)


 だらだら汗をかいているフィアスは呼吸を整えて、何とか平然を保つ。


「あの、プレゼント持ってきたんだ。これ、杖って言ってね、次元に干渉する助けになってくれるんだって」


「私に……? ありがとうございます。大事にいたしますわ」


 フィアスは杖を雪夜の手に渡す。

 その瞬間――


 ブオオオオッッ!!!!


「ひっ!!!」


 あたりに闇が渦巻く。


「……あ……ああ…………!!」


 あたりの闇が乱れ始めた。

 雪夜は必死に制御しようとしているが、溜まった闇が絶大すぎることと、杖の扱いに慣れていないことで非常に不安定な状態になっている。


「雪夜!! 外へ!!」


「わ、分かりましたわ!!」


 二人は階段を降り、急いで外に出た。


「あ、フィアス! そして雪夜も! うまくいったんだな!!」


 作戦はこうだった。

 フィアスが雪夜に杖を渡す。

 もし雪夜が暴走したらフィアスが一人でこの広場へ逃げてくる。

 うまく雪夜が杖で闇を制御できたら、二人でここへ合流する。

 フィアスと雪夜が二人で来たのだから、作戦は成功したと思った。


「あっ!! ダメ!!! 糸、離れて!!!!」


「えっ」


「ああああ…ああ!!!」


 俺には見えていないけれど、雪夜の闇が俺の闇を吸収して肥大化していく。


「雪夜!!!」


 雪夜は正気と狂気の境で、なんとかもがいている様子だった。

 その境界を越えてしまうとまた犠牲が出てしまう。

 俺はまた見ていることしかできないのだろうか。


「そうだ、杖……!」


 緑色のとても綺麗な杖を握る。

 冷静に、冷静に……。九尾狐さんと繋がった時を思い出せ。


「……っ!」


 俺は杖を雪夜へ向ける。

 この杖は本当に不思議で、魚釣りでもしているかのように、生物に対してビクッと反応する。

 九尾狐さんのようにはっきりとは聞こえなくとも、その反応から、なんとなく心の声が分かる気がするんだ。


(糸……助けて…………!! 闇が大きすぎて制御が効きませんわ……!!)


 一瞬、雪夜と意思疎通ができた。


「闇を少しでも減らすことが出来れば……」


 何か、闇を薄める手段はないのか……?


「闇を減らせばいいんだね」


 そこには前回の夢のように、ダイヤモンドのように白く輝く瞳をしたフィアスがいた。


「待て、フィアス!! それはお前のマナが……!!」


 シュドォォォォォン!!!!!!!


 前回聞いたような音が聞こえる。

 おそらく、闇の一部が振り払われたのだろう。


 シュドォォォォォン!!!!!!!

 シュドォォォォォン!!!!!!!

 シュドォォォォォン!!!!!!!


「やめろフィアス!! それ以上は辞めてくれ!!!」


 白色に近かったフィアスの髪色が、だんだんと黒くなってきている。

 フィアスの髪の色は、もしかしたらマナの残り残量を示しているのかもしれない。


「はあ……はあ…………あと…一回……!!」


 シュドォォォォォォォォォン!!!!!!!


 凄まじい音がした。

 それと同時にフィアスは倒れた。


 フィアスの髪色はさらに黒くなっていく。


「フィアス!!!!!」


 すると杖越しにとても強い生命信号が送られてきた。


(糸……私は大丈夫だよ、少しだけマナを残しておいたから。あとは……お願い……)


 九尾狐さんのようなはっきりとした心の声。

 もしかしたらフィアスは、【生命の次元】にも干渉できるのかもしれない。


「……ありがとう、フィアス。あとは任せろ!」


 俺は再び雪夜の生命波に繋がろうとする。


「雪夜、心を落ち着かせて集中するんだ!」


 雪夜の生命波の乱れを杖で少しずつ穏やかにする。

 このとき、はっきりと【生命の次元】に干渉できている気がした。

 杖に込められた心乃さんのマナが、平凡な俺にも【生命の次元】へ踏み入れることを許してくれているんだ。


(……闇が……まとまってきましたわ……!! 自由に操作できるような感覚……だんだんと分かってきましたわ!!)


 俺には闇は見えないが、精神が安定してきた雪夜は【闇の次元】を制御しつつあるようだ。


(あと少し…………はああああああ!!!)


 パァン!!!!


 何かが弾けた音。


「「……糸!!! 危ない!!!!」」


 何かを打ち出した雪夜と、仰向けで倒れていたフィアスが同時に深刻な表情で叫ぶ。

 二人の様子を見ると、雪夜が最後に振り払った闇の塊が、俺の方へ打ち出されたようだ。


 杖からも、【生命の次元】を通して闇が迫ってきていることをわずかに感じ取れた。


 でも、悔いはない。

 ここで俺がどういう目に遭っても、今回は…成功だ…!


 ドドドーーーーーーン!!!!!!!


 レーザー光線が一直線に俺の目の前を駆け巡った。

 そこには涙目の雪夜とフィアス……そして何かが抉り取られたような地面の跡。


「俺は……無事なのか……? 今、一体何が……」


「間に合って良かった」


 左から誰かがゆっくりと歩み寄ってくる。


「九重くん、だね。辛いこともあったらしいけど、よく【闇の次元】の超能力者の暴走を止めてくれた」


 その男の髪は炎のように赤く、瞳はルビーのように熱く輝き、雪夜や心乃さんに劣らない迫力を放っていた。


「あ……あなたは……?」


「僕は千陽朝日。チューベローズの生徒会長で【エネルギーの次元】の超能力者……なんて言うより、君には苺の兄と言った方が分かりやすいかな」


「苺のお兄さん……?」


「ここで話すのもなんだし、場所を移そうか」



 ◇◇◇



「で、なんでうちに押し寄せてくんのよ」


 雪夜、フィアス、朝日さん、俺が赤砂寮の苺の部屋にいる。


「糸の部屋が……女の子の部屋と扉越しに繋がっていただなんて……」


 すでに体力が尽きかけていたフィアスはさらにクラクラ頭を回している。


「なんだ、苺は狭い狭いと言っていたけれど、趣があって良い部屋じゃないか」


「一流ホテルを凌ぐと言われるセトル・ブルーオーシャンに住んでるくせに、嫌味?」


 3年生までの低学年の寮は南区域にあり、Aクラスは青月館、Bクラスは黄泉荘、Cクラスは赤砂寮。

 一方、4年生以上の高学年の寮は北区域にあり、Aクラスはセトル・ブルーオーシャン、Bクラスはセトル・イエローレモンシフォン、Cクラスはセトル・ブラッディレッドらしい。


「まあ、そう怒らないでくれよ苺。ほら、土産に苺の大好きなショートケーキも買ってきたよ」


「そんなんで機嫌を取った気になってんじゃないわよバカ兄貴!!ショートケーキだけ置いてとっとと去りなさい!」


「あれ、毎日朝日さんのことを誇らしげに話しているから、てっきり仲が良いのだと思ってたよ」


「な……!!!」


「おや、それは光栄だな」


「そんな訳ないでしょ!!!!」


 ドカーーーーーン!!!!


「わわわ、また糸の部屋との壁に穴あいちゃった……」


「危機一髪のタイミングでしたが、朝日さんはどうして駆けつけてくれたんですか?」


「苺に頼まれたんだ。今朝電話で『お隣の九重糸くんが危ないから助けて』ってね」


「こんなとこではっきり言うなバカ!!!」


「苺……ありがとう……」


「フン、死ななくて良かったわ。アンタにはアタシのご飯を作って貰わなきゃいけないしね」


「ごはん……? どういうことかな、糸」


 フィアスが睨みつけてくる。


「いやあ……」


「全て……今回の件は私の未熟さが原因ですわ……。皆様……本当に申し訳ございませんでした……」


 雪夜が深々と謝る。

 もちろん、非難する人はこの部屋にいない。

 結果として、大きな被害も出なかったし。


「松蔭さん、【闇の次元】は自在に操れるようになれたかい?」


「小さい闇ならばだいぶ扱いが分かってきましたわ。大きい闇については、この杖を使えばなんとかという感じです」


「杖は常に携帯している方がいいね。松蔭さんのような圧倒的なマナを持っている場合、持っているだけで杖がマナを吸収して、自然と使いやすくなるはずだ」


「はい……!」


「それにしても、【闇の次元】の超能力者である松蔭さんに、マナの量が限られているにしろあらゆる次元に干渉できるフィアスさん。そして正夢を見ることができる九重くんか。ふふ、これは苺も負けてられないね」


「フン、当然よ。松蔭さんとフィアスさんは初めましてね。アタシは千陽苺。糸のお隣よ」


「松蔭雪夜です、よろしくお願いします。」


「糸のお隣……!!」


 なぜかフィアスはギラギラと燃えている。


「あ、いけない、もうこんな時間か。すまない、僕はこの辺で失礼させてもらうよ。明後日から学校で会ったらよろしくね」


 朝日さんが部屋を出た。


「糸、私赤砂寮へ引っ越す」


「ダメです」


「なんで~!! 青月館の部屋あげるから~!!」


「えっ本当!?それなら」


「あ、でもそしたら糸がいなくなるから意味ないや。……苺さん、もしよかったら青月館へ引っ越しませんか?」


 これっ! ポカリ


「うー……」


「フィアスさん、折角のお誘いだけど断らせてもらうわ。アタシはアタシの実力で青月館に行きたいの」


「そんな~、もう体動かないよ~……」


 確かに結局一番頑張ったのはフィアスだ。

 青月館まで結構あるし、無理に帰すのは気が引ける。


「はあ、今日は俺の部屋に泊っていいぞ、フィアス」


「本当!? やった~!」


 ボムッ!!


 フィアスは壁に空いた穴から隣の俺の部屋へ行き、勢いよくベッドに飛び込むやいなや、電池が切れたようにすぐに寝息を立てはじめた。

 狭いベッドが占領されてしまったので、俺は風呂場にでも寝るとするか。


「糸、ちょっといいですか」


「雪夜……?」


 俺は雪夜に連れられて外へ出た。



 ◇◇◇



 夕日が落ち始める中、田舎道の途中にあるベンチで雪夜と座った。


「……糸、本当にごめんなさい。糸が辛い思いをしたことは、話を聞いていて痛いほど分かりましたわ」


「ううん、気にしないで。雪夜は悪くない。それに……」


 俺は今回の一件を思い返した。


「とっても学びの多い一日だった。高次元世界がどんな世界なのか、少しずつ分かって来たよ」


 雪夜は少し不思議そうな顔をし、救われたように微笑んだ。


「でもどうして昨日からこんな急に変わってしまったの? フィアスが言うには夜から雪夜の闇が強くなったって言ってたけど」


「……それが、はっきりと思い出せないんですの。糸と別れた帰り道、誰かに話しかけられて……それから目の前が真っ暗になって……記憶が曖昧ですわ」


 え……誰…………?

 もしかしてこの出来事には黒幕が存在するのか……?


「その後家に帰るととっても苦しくて、辛くて……。一晩中、糸にいただいたぬいぐるみを抱きしめていましたわ。ですが……」


 雪夜は後ろめたそうに目を逸らした。


「……あまりにも強く抱きしめていたので、朝にはボロボロになってしまいましたの。せっかくいただいたのに申し訳ございません……」


「なんだ、そんなことか。俺はずっと貧乏で同じ服を使い回していたから、裁縫は得意だ。明日にでもぬいぐるみ、一緒に直そう」


「……ええ!! ありがとう……。私は当初、一人で学園生活を送るつもりでした。お父様にも友達なんて必要ないと言っていました。しかし、それは高次元世界を侮っていたようです。この不思議な世界では、到底一人では生きられませんわ。糸、そしてフィアスも、一緒に来てくれてありがとう……。今後二人に何かあれば、私が必ずすぐに駆けつけますわ。二人がそうしてくれたように」


「【闇の次元】の超能力者が味方になってくれるなんて、これ以上心強いことはないな」


 曇り空が明けた紫色の空には、一番星が輝いていた。



 ◇◇◇



「千陽くんの登場は想定外だったね」


「はい。ですが、今回の一件で彼はだいぶ成長できたのではないでしょうか」


「ああ。だが、まだ足りない。もっと彼を追い込む必要がありそうだ」


「……そうですね。これからの学園生活で、さらに成長してもらいましょう。ふふ」


第1章を読破いただき誠にありがとうございます!

ブックマークや評価をして下さった方、本当にありがとうございます。心が救われます。


ひたすら曇り空だったり闇の要素ばかりで暗めだった第1章に対して、第2章は明るめです。

少しずつ物語の中核へ迫っていく学園でのお話を是非よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] ループものの良さがよく表れていると思う。 回数制限あるのかどうか気になるところではある。
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