10話 入学式
4月7日、入学式当日。
あれ以降は特に正夢を見ていない。
部屋で準備をして、壁越しに繋がっている隣の部屋への扉を開ける。
ガチャ
「苺、準備できた? 今日は10時に樫木講堂だよね、一緒に行こう!」
「バカ! アンタと一緒に行くわけないでしょ! 誰かに見られたら同姓してるって勘違いされるじゃないの!」
「同姓みたいなものじゃないか」
「とにかくアタシは先に行くわ! 樫木講堂はセンターゾーンの東側にあるから遅れずに来ることね、フン!!」
バタンッ!
苺は相変わらずだけど、今日はいつもと少し違う。
赤く長い髪も丁寧にまとめ、制服も着こなし、準備万全だった。
「俺も行かないと」
ガチャ
ボロボロの赤砂寮を出る。
すると驚いたことに、昨日までは普通だった寮周りの木が、一気にピンク色の花を咲かせている。
「わあ……綺麗…………」
「ジゲンザクラよ。【時間の次元】をうまく組み込んでいて、時限爆弾のように一斉に咲き誇る。毎年入学式の日に咲くようになってるみたいね」
「あれ、苺。先に行ったんじゃ」
「フン! 樫木講堂の場所分からないだろうから、仕方なしに教えてあげるわ!」
2人でジゲンザクラの舞う道を歩いていく。
変な緊張に包まれ、今日の俺と苺の会話はぎこちなかった。
そうこうしているうちに、いつのまにか青月館の前まで来ていた。
「……あれ、今日はフィアスさんのとこに行かなくていいの? いつも朝ご飯作りにいってるわよね」
「ああ、昨日雪夜に聞いたんだけど、雪夜はもう少し早く集合なんだって。同じクラスのフィアスももう行ってるんじゃないかな」
「あら、そうなの」
昨日は雪夜の部屋でぬいぐるみを直していた。
「それにしても、やっぱり人が増えて来たね。あれ? 人それぞれ制服の色が違うような」
「ベースの黒は低学年、白は高学年を意味するわ。ラインの青、黄、赤は寮の色と同じよ。私達の赤は下に見られる屈辱的な色なの」
「それじゃ、俺の胸についているこのドクロのバッジは何?」
「それは、バカの証よ」
「バ、バカの証!?!?」
「そう。学年の成績下位3名はそれをつけさせられるのよ。上位3名は羽のバッジ」
「ええええ……」
俺のドクロのバッジは、朝日に照らされてキラキラと輝いていた。
「ん、あの人がいっぱいいる講堂が樫木講堂?中々にでかいな」
学校内をしばらく歩くと、人だかりができている大きな講堂へとたどり着いた。
「日本にある講堂の中で面積、収容人数ともにダントツの1位。とは言っても、高次元世界にあるチューベローズは全てにおいてずば抜けてるのだけどね」
「新入生の方ですか?こちらへどうぞ!」
講堂の前の案内さんが誘導してくれる。
白いベースに黄色の制服。なるほど、この案内さんは高学年のBクラスの方ということか。
講堂には既にたくさんの生徒が埋まっていた。
舞台の近くには新入生が、外側には在学生と思われる人が座っている。
てっきり新入生だけのこじんまりとした式だと思っていたが、全生徒が出席している大きな式だった。
知らない人が次々と入ってくる。
そして人の出入りが少なくなってきたころ、時刻は10時を迎えた。
「これより、チューベローズ能力開発学校の入学式を行います」
司会は学生が務めている。
「まずは、元岡校長のお話です」
出てきたのは、見覚えのあるおじいさん。
そう、なんとバスの中で出会ったあの人だ。
「えー……新入生諸君、入学おめでとう。クドクド話してもどうせ寝るじゃろうし、わしから伝えたいことは3つだけじゃ。まず1つ目、本校は完全寮制じゃから、仲良くするように。2つ目はキャンパスの地下1Fより下へは決して行ってはならんということじゃ。そして最後に3つ目。これは上級生にも聞いて欲しい」
周りが少しざわつく。
「みなも知っての通り、この学校には誇るべき超能力者が4人おる。超能力者の存在は科学や経済の発展を著しく加速させる、宝物のような存在じゃ。そしてなんと、今年はその宝物が増えた」
ざわざわ……!!
「マジかよ!」
「5人目の超能力者ってことか!?」
「すごーい!!」
周りが一気に盛り上がる。
「そしてなんと、そやつは【闇の次元】の超能力者じゃ」
ワーーーーーッ!!!
「嘘ーー!?!?」
「やばっ!!!」
「【闇の次元】の研究がついに進展するな!!」
構内のボルテージは最高に上がっている。
「……全く、どうしてすぐ公にしたがるのかしら、この校長は」
「はは、お祭りごととか好きな人だからね。そういえば、弥生も例の一件ではお手柄だったじゃないか。九重くんが持っていた緑色の杖、弥生のだろ」
「さあ、何のことかしら」
「目的は分からないけど、どうやら裏で何かを企んでいるみたいだね」
「こっちのセリフよ。私でも心が読めないあなた達は、何を考えているか不気味でしょうがないわ」
「……」
舞台袖で3人の超能力者が校長の話を聞いていた。
「つまりわしが言いたいのは、みなも新入生に負けないように頑張れということじゃ。以上」
パチパチパチパチ
「元岡校長、ありがとうございました。続きまして在校生祝辞。在校生を代表して千陽生徒会長、よろしくお願いします。」
「はい」
舞台袖から朝日さんが歩いてくる。
「新入生の皆様、ご入学おめでとうございます。本校では――」
「やっぱり苺のお兄さんってかっこいいね」
「そうかしら。まあこういうときだけね」
「――簡単ではございますが、以上で祝辞とさせていただきます」
パチパチパチパチ
「千陽生徒会長、ありがとうございました。続きまして新入生答辞。新入生総代、松蔭雪夜さん、よろしくお願いします。」
「はい」
舞台のすぐ近くに座っていた雪夜が舞台に上がる。
「このたびは、私たち新入生のために、心のこもった祝辞をいただき誠にありがとうございます。先輩の祝辞を受け私たちは――」
「なるほど、雪夜は答辞の打ち合わせのために早く集合だったのか。あれ、ということはフィアスは……」
そのころ、青月館の205号室ではフィアスが目を線にしながらベッドに転がっていた。
「糸~ごはんまだ~?」
「最後になりますが、本日は立派な入学式を催していただきありがとうございました」
パチパチパチパチ
「ありがとうございました。以上をもって今年度の入学式を終了いたします。新入生の皆様のこの後についてはこちらを参照ください」
講堂が明るくなると同時に、中央の画面にでかでかと案内が映し出された。
【集合時刻・場所】
各クラスの新入生は本日13時に以下の場所に集合すること。
青月館の生徒→Aクラス:センター1号館101号室
黄泉荘の生徒→Bクラス:センター1号館102号室
赤砂寮の生徒→Cクラス:ちゃぶだいの森
「「ちゃぶだいの森って何!?」」
Cクラスに配属された俺と苺の声は見事に重なった。
「糸、そして苺。おはようございます」
「あ、雪夜。お疲れ様」
人だかりの中、答辞をしていた雪夜と出会った。
最優秀の成績を示す、羽のバッジがよく似合っている。
「新入生総代だなんて、雪夜ってばすごいのね。アタシのことは苺で良いわよ」
「ありがとう、苺。それよりも13時に集合だなんて、時間が空いてしまいましたわね」
「とにかく一回外に出よう。時間があればフィアスも誘って早めのお昼ご飯にでもしようよ」
しかし俺たちが講堂の外へ出ると、すさまじい部活の勧誘がやってきたのだった。
雪夜に向かって。
「あっ! 来たぞ、新入生の超能力者、松蔭雪夜だ!!」
「ほんとだ! ねえ、少しお話しよ?私達6D漫画部なんだけど……」
「いやいや! 俺達の超次元サッカー部にこそふさわしい!!」
「ワイらのパワフル野球部に決まっとるやろ!」
「おい抜け駆けすんなよ! 松蔭さんは絶対オカルト麻雀部に間違いねえ!」
「私達のレインボー茶道部だって!!」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいまし!」
「そうよ! アンタら、雪夜が困ってるじゃない!」
「ん? その赤髪……もしかして君は噂の千陽朝日先輩の妹さんかい!?」
「えっ!! そんなの絶対才能あるじゃない! ねえ、あなたもうちの部に入らない?」
「奢るからお昼一緒に食べよ~??」
「わっわっ!! なんでアタシまで勧誘される流れになってんのよ!?」
「いい加減にしてください! ちょっと強引すぎますよ!!」
「君は?」
「1年Cクラスの九重糸です」
ドクロのバッジがキラリと輝く。
ぽいっ
「お願い松蔭さん! ちょっとだけお話聞いてくれるだけでいいから!」
「千陽さんも、明日の夜新歓コンパやるんだ! 是非パンフレットに目を通しといてよ!」
「おいいいい!!! 俺だけポイ捨てかよ!!」
人だまりに周りが気付き、さらにその人だまりが大きくなっていく。
まるで有名人だ。もう俺の入る隙間はない。
こりゃ絶対押し負けて、二人は先輩方とお昼ご飯を食べることになるんだろうな。
この謎の13時までの時間はこういうことか。
「…いいさ、俺はボッチ飯にはならない。フィアスがいるもんニ」
ふてくされながらフィアスのいるであろう青月館へ向かおうとしていると、黒いレトロな帽子を被った少女が話しかけてきた。
「ねえ、君新入生でしょ? 私サークルの勧誘してるんだけどさ、良かったら話だけでも聞いてくれないかな!」
黒色のベースに黄色いラインの制服。低学年のBクラスの学生のようだ。
「は、はい!!」
誰にも勧誘されなかったこともあり勧誘されて嬉しくなっちゃったので、その人について行くことにした。
◇◇◇
中央地区の学食。
チューベローズで最も広く、様々なバラエティの食べ物がある。
超大型ショッピングモールのフードコートよりも大きいくらい。
食事代は先輩が払ってくれ、窓際の2人席に座った。
「自己紹介がまだだったね。私は2年Bクラス【稲光 愛】、誘いに応じてくれてありがとう!」
「俺は九重糸です。自分で言うのは悲しいのですが、Cランクでドクロまでついている俺で良かったんでしょうか……」
「大丈夫! 私たちのサークルは人が足りなくて、今年一人も入らなかったら廃部になっちゃうの。だから誰でも良かったわけ!」
「帰ろうかな」
「冗談! さっき糸くんに合った時ビビっときたんだよね! ほら、私運命とかそういうの信じてるんだ」
「ちょっと無理やりすぎませんか……」
「糸くんはさ、運命とかオカルトは信じないタイプの人?」
オカルト……あまりそういうのは考えたことなかったな。
でも、高次元世界に来る前と後で少し考え方が変わったかもしれない。
「今は……少し信じているかもしれません」
「おお! それは良かった!」
愛さんはとっても嬉しそうにしている。
「あの、まだ聞いていませんでしたが、このサークルはどんなサークルなのですか?」
「異世界探索サークルだよ。私達はね、異世界を探しているんだ」
「異世界!?」
色んなサークルを予想していたが全く外れた。
異世界だって!? そんなのあるの。
「そんなのあるわけ、って顔してるね。あるかもしれないし、ないかもしれない。でも私はあると思ってる。いつかその世界へ行ってみることが夢なんだ」
愛さんは笑顔だったが、決して冗談を言っているようには聞こえなかった。
「それで、どんな活動をしているんですか?」
「えっ、聞いてくれるの! もしかして興味持ってくれた!? 嬉しい!」
愛さんはむしゃむしゃと定食の唐揚げを食べている。
「あの……活動は……」
「むしゃむしゃ。活動はね、色々だよ! 部室で考えるだけの時もあれば、思いつきで外へ探索しに行ったりもするし」
そして愛さんは唐揚げを飲み込む。
「糸くんも来れるときに顔出してくれればそれでいいからね。私達は火曜日と木曜日の放課後にこの課外活動施設408号室にいるから、ぜひ来てね!」
渡されたのは雑な手書きパンフレット。
異世界探索サークル……か。
◇◇◇
お昼が過ぎて、12時50分。
Cクラスの教室である、中央地区の1号館の端っこにある『ちゃぶだいの森』という教室に到着した。
確かにちゃぶだいの森というだけあり、机は全てちゃぶだいで、床は畳だった。
そして教室には俺と同じ、黒いベースに赤いラインの制服をしたクラスメイトたちが20人くらいいる。
「小学校以来の学校だ……。友達できるかな……」
緊張をほぐすように大きく深呼吸した。
なんとか小学校中退ということは気づかれないようにしたい。
普通に、自然に、堂々としていれば大丈夫なはず。
「こんにちは……。お隣座ってもよろしいでしょうか……?」
勇気を振り絞って座っている人に話しかけてみた。
「ええ、もちろ……ああん!? ドクロが気安く話しかけてんじゃねェ!!」
「ひいいいい!!」
ざわ……ざわ……
「ドクロ? あ、ほんとだ! あの人ドクロのバッジついてるww」
「アホスギィ!」
「近寄らんとこ」
ええ……。
俺の周りから人が離れていく。
全てはこのバッジのせいだ。
なんでこの学校は成績下位を晒し上げるようなバッジをつけさせるんだ!
俺は必死に胸のバッジを剥がそうとするが、しっかりとくっついていて取れない。
こんなドクロのせいで俺はボッチ確定なのか……。
「あ~! キミもドクロぉ?」
少し不気味なウサギの人形を片手に、ちっちゃくて前髪の長い男の子が話しかけてくる。
「うん、そうだよ。あっ、君にもドクロがついてる!」
「うん! ボクは【幸坂 呪】。よろしくねぇ!」
「九重糸だよ。よろしく」
そうか、ドクロは成績下位3名。
ドクロ同士なら仲良くなれるんだ!
「糸くんかぁ。お近づきの印にこれあげるよお」
洋服のボタンを渡された。
「これは……?」
「それ、前までボクが大事にしてたぬいぐるみの目玉なんだぁ。可愛いでしょ」
「あ……ありがとう……」
なぜそんな不気味なものをくれる……。
俺は幸坂くんの隣に座った。
しかし、俺と幸坂くんの周りには誰も座りたがらず、空席は全て俺達の周りにあった。
ガラガラッ
「よーし始めるぞー……ってオイ! 初日から2人足りないじゃないか!」
入ってきたのはゴリゴリの教師だった。
「まあいい。1年Cクラスの担任になった鬼島だ。よろしく」
(怖い……!! まさに鬼のような顔……っ!!)
ズズズ
幸坂くんが立ち上がり、教卓へ歩いていく。
「先生、お近づきの印にこれあげるよぉ」
「ん? なんだ、これはボタンか?」
「それ、前までボクが大事にしてたぬいぐるみのチ〇コなんだぁ」」
「バカにしとんのかァァァァ!!! お前、あとで居残りィィィ!!!」
「あああああああ!!!」
チーン
「くすくす、やっぱりドクロがやることはイかれてるわねww」
「アホスギィ!」
ちょっと幸坂くん!! 何やってんのォ!!
「……っと、まあこんな感じに厳しく指導していくつもりなので、気合いれていくように」
ガラガラ
「ごめんでやんすー! 迷って遅刻したでやんすー!!」
フランスパンのように長いリーゼントをした眼鏡の少年が教室に入ってきた。
その少年の制服にも、ドクロがついていた。
「初日から遅刻かこのボケナスゥゥゥ!!! お前、名前は!」
「【尻口 治虫】でやんす」
「尻口も居残りィィィ!!!」
「ぎゃあああああああでやんす!!!」
チーン
「くすくす、やっぱりドクロがやることはイかれてるわねww」
「アホスギィ!」
お前も何やってんだァ!!
これ以上ドクロの株を下げるんじゃねェェェ!!!
ズズズ
尻口くんは俺達の近くに座った。
「よろしくでやんすー!」
ガラガラ
「はあ…はあ…。すみません、遅れました」
「初日から遅刻か。名前は」
「千陽苺です」
「千陽……!! そうか、お前が噂の千陽朝日の妹か! きっと何か事情があったんだろう。遅刻は多めに見よう」
「あれが生徒会長の朝日先輩の妹さん!?」
「赤髪で可愛い~!!」
「おっぱいでかスギィ!」
「ちょっと!! おいらと待遇が違いすぎるでやんす!!」
苺は空いていた俺の隣に座った。
「まったく、先輩の勧誘からなかなか抜け出せずに遅刻しちゃったわ。初日から遅刻するなって最悪」
「やっぱり苺ってすごいんだな……」
「別に。アタシの力じゃないわよ」
こうして俺達の学園生活が始まった。




