30話 時と闇の対決
『Aブロック準決勝、大将戦スタートです!!!』
ビーーーーーーー!!!!!
ワァァァァァァァァァッ!!!!!!
大観衆が注目するモニターには、橋のかかった美しい川が流れている。
『フィールドは夕暮れの河川敷だ!! 川には大きな大きな橋がかけられているぞ!』
『青紫色の空が綺麗ですねぇ!』
カメラが切り替わった。青い杖を持ち、白いマントをなびかせながら走る雪夜を追っている。
『おおっと! 先に動いて行ったのは白チーム、松蔭だ!! 走りながら一体誰を探しているのか!』
『おそらく現在首位の青チームと黄チームの選手でしょうねぇ!』
『【闇の次元】のセンサーで、選手の闇を感じ取って探しているようです! さあ、さっそく1人目を捉えたぞ! 青チームの澤城だ! 彼はランキング38位の【生命の次元】の能力者です!』
『澤城選手も【生命の次元】のセンサーを武器に戦っているそうですねぇ。松蔭選手が【闇の次元】を単なるセンサーとしてしか使えなければ、この勝負、分かりませんねぇ!』
『おや!? おやおや!?!? 澤城選手の表情が恐怖に怯えているぞ!! 一体何があったというんだ!?!?』
『【闇の次元】による威嚇ですかねぇ! 【闇の次元】と【生命の次元】はとても近い存在だと言われておりますし、【生命の次元】に敏感な澤城くんには効果抜群かもしれませんねぇ!』
『松蔭も相手が能力者だと悟り、本来の力を解放し始めたようだ! 澤城は松蔭の闇に飲まれ、どんどん動きが鈍くなっていくぞ!! さあ、その隙に松蔭が攻め込む!!』
パリン!!
『割りました!! 青チームの澤城選手、脱落です!!』
『余裕でしたねぇ!』
『そしてこの対決の間にも、橋の向こうでは時谷がすでに二人を脱落させているぞ!!!』
『両者とも、あっという間の早業ですねぇ!』
『川に二分された二つの陸で、それぞれの超能力者が次々と相手をリタイアさせていく! 流石1回戦の終了時間記録1位と2位の力だ!』
ワァァァァァァァァァッ!!!!
「どっちもバケモンだな……」
一ノ瀬先輩が苦笑いをしながら試合を見つめる。
「松蔭も、想像以上にやりますね。これはひょっとするかもしれませんよ……」
五条先輩も雪夜の力に驚いている。
「雪夜、がんばれ!」
パリンッ!!
『黄チームの旅岡選手も脱落だーーー!! さあ、これで生き残っているのは時谷と松蔭の2人だけとなりました! そしてこの瞬間、青チームと黄チームの決勝進出はなくなり、この対決で勝利した方のチームが決勝へ進むことになります!』
『最後にバッジを破壊したのは松蔭選手ですから、30分間逃げ切られれば松蔭選手の勝利ですねぇ!』
『はい! 試合では30分間バッジを破壊できなければリタイアというルールがありますので、必然的に最後に破壊した松蔭選手が有利となります。しかし、時谷未来から逃げ切るのは至難の業だ! さあ、時谷が杖を持って橋を渡って来たぞ! 逃げ切れるか松蔭!!!』
(逃げ切れば勝利ですが、もちろんそんな真似はいたしません。正々堂々勝負ですわ)
『おおっと!! 松蔭選手も橋を渡って来たぞ。逃げるつもりは毛頭ないようだ! 両者、1 kmに渡る大きな橋を向かい合って歩いていく!!! 800m……600m………二人はだんだんと近づいてきます!!!』
『おうふ!! 私までぞわぞわしてきましたねぇ!!』
『400m………200m………さあ、射程圏内に突入!!! 勝負のゴングは既に鳴っているぞ!! 星が見え始めた美しい夕空の下で、二人の超能力者はいったいどんな対決を見せてくれるのでしょうか!!』
ワァァァァァァァァァッ!!!!!!
観客席のボルテージは最高まで上がっている。
(紫色の髪、アメジストのような瞳。これが時谷未来、時間を司る少女……。最大限の警戒を持って対面しなければなりませんわね)
雪夜は最大限集中し、青い杖を構え、漆黒に染まった闇で当たりの時空を覆い尽くす。
「……」
雪夜の闇は時谷に到達した。
時谷は紫の杖を手に、【時間の次元】と【逆時間の次元】に干渉してなんとか闇の支配からは免れてはいるが、気を抜いたら雪夜に全てを支配されるような、そんな闇が辺りの時空を覆いつくしている。
『とんとん拍子で敵をなぎ倒してきた二人が、一気に静まり返ったぞ!! 一体あそこでは今何が起こっているんだーー!?!?』
『時空を通じた高度な読み合いですかねぇ。超能力者だからこそできる、高次元な戦いが行われていますねぇ』
一瞬の静寂の後、戦況は動いた。
シュパッ!!!
『さあ、松蔭がしかけたぞ!!! 杖で時谷の赤いバッジを狙う! だが時谷はまるで未来を見ているかのようにそれをかわす、かわす!! 押しているのは松蔭だが、あと一手が届かない!!!』
シュッ! スパッ! シュッ!
雪夜の目はサファイアのように輝き、すごい速さで時谷を狙う。時谷も目をアメジストのように輝き、闇の支配を逃れつつその攻撃をかわしていく。
青紫色の空の下で、青色と紫色の輝きを放つ二人の攻防が続いた。
『松蔭のすごい猛攻ですが、時谷をしとめることはできない!! 星野さん、これってやはり……!』
『時谷選手は数秒先の未来を見ているんでしょうねぇ。しかし、それもだいぶ苦しそうに見えますねぇ。おそらく松蔭選手の闇の支配から逃れることの集中していて、未来を見る余裕しかないのでしょうねぇ』
『なるほど!! つまり時谷は避けるのが精一杯で、攻撃に移ることができない! しかし苦しいのは松蔭ものようだ! 発汗が目立ち始めたぞ!!』
『時谷選手を抑えるほど時空を支配するのは相当心身をすり減らすんですねぇ! それに攻撃が当たらないストレスもあるでしょうねぇ』
(はあ……はあ……どうして当たりませんの……! 体が……心が……折れてしまいそうですわ……!)
スパッ! シュッ!!!
『ということは、これは忍耐と体力の勝負だ!!! どちらもギリギリでの攻防を続けているため、先に折れた方が負けの根競べだ!!!』
シュッ! シュッスパッ!
(負けません……私は負けませんわ!!! 決勝に行って、お父様とお母様に私の姿をご覧いただくまでは……!!!)
シュッスパッシュッスパッ!!!!
橋の上の攻防はもうしばらく続いたが、数分後にほんの一瞬、ほんの一瞬だけ雪夜の時空の制御が弱まった。
その瞬間を時谷は見逃さなかった。
シュンッ!!!
「えっ……消え……」
パリン!!!!!
『け……決着うううううう!!!!! 長い攻防を制したのは、チーム4の時谷未来だ!!! よって決勝へ進むのはチーム4!!!!』
ワァァァァァァァァァッ!!!!!!
『いやあ、手に汗握る素晴らしい試合でしたねぇ!』
『以上、Aブロックの準決勝をお送りしました! 1時間の休憩を挟み、Bブロックの準決勝をお送りいたします!』
「……今のは……まさか……」
「……」
時谷は膝から崩れ落ちる雪夜を静かに見つめ、言葉を発することなく背を向けた。
「す、すごい戦いだったわね……」
「やっぱり時谷か。改めて見ると超能力者ってヤバイな」
「小雲先輩、最後のって……」
「うん、最後一瞬使ったな。あれが何なんかまだ分からんけど、私も去年あれにやられたばい」
「さあ、みんな切り替えろ。今の戦いを見せられると怯んでしまうのは仕方ないが、いつも通り平常心でいくぞ!」
そうだ、今から俺達Bブロックの準決勝だ。
まずは目先の相手のことを考えないと。
『Bブロック準決勝に出場するチームは、メイン会場の控室にお集まりください』
「さあ、みんな行こう。俺達の出番だ!」
「「はい!!」」
◇◇◇
『Bブロック準決勝、先鋒戦に出場する選手はゲートにお集まりください』
14時前、控室に放送が流れた。
「よし! ジョニー、二宮、頼んだぞ!」
「はい!」「イエア!」
ジョニー先輩と菊音さんがゲートへ向かう。
『さあ、続いてBブロック準決勝をお送りいたします! 始まるまでもう少し時間がかかりますので、先鋒出場者のゲートでの様子と出場チームをご紹介しましょう』
モニターに各チームのゲートでの映像が映し出されていく。
『まずは赤、チーム19! 今大会では最も多い3名の能力者が集結しており、先鋒、次鋒、大将の全てに能力者がいます!』
「ねえねえ、私達の紹介がされてるよ!」
キラキラとモニターに指をさすランキング8位の能力者。
「木村くんは例の作戦、成功させてくれるでしょうか」
「はっはっは、別に失敗してもかまわん。なんせ中堅には桐山先輩が、大将にはこの蒸川虫彦がいるのだからな」
セトル・ブルーオーシャンの温泉で出会ったあいつもいる。
『続いて白、チーム22! 能力者がいないながらも、力を合わせて準決勝へと駒を進めてきました! 監督は一昨年転入してきた7年Aクラスの佐倉遥花さんが務めています!』
「流石準決勝、たくさんの能力者が出て来るようですね」
「監督、私達勝てますでしょうか……?」
「ええ。おそらく相手方の眼中に私達はいませんから、そこをついて漁夫の利で行きましょう」
『そして青、チーム27! 2年生の主席である二宮菊音選手と、去年の準決勝で時谷未来と接戦を演じた、能力者ランキング7位の七道小雲選手がいます! この二人は去年準決勝で敗北しましたが、今年は去年を超えて決勝へと進めるか!?』
モニターには目を閉じて息を整えている菊音さんが映っている。
「がんばれ、菊音! 糸くん!」
愛さんは観客席で応援している。
『最後に黄、チーム31! 3年生の主席、小金井拓斗選手が率いるチームです! 小金井選手は先ほどAブロックで登場した松蔭選手が入学する前は、最もランキングの高い【闇の次元】の能力者として有名でした。今年は大将を務めます!』
「うひゃー、やっぱり小金井先輩の紹介しかしませんねー」
「テメエら、俺様の足を引っ張るんじゃないぜ」
先輩に対しても上から目線の【闇の次元】の能力者。
「でも実際、うちは小金井のワンマンチームだからな。それまでに致命的な点差にならないように頑張ろう」
『以上、チームの紹介でした。ここで、先鋒戦のオッズを見て見ましょう!』
【Bブロック準決勝・先鋒戦、個人オッズ(単勝)】
木村 虎也(チーム19(赤)/6年/40位) :5.1
長野 玲奈(チーム19(赤)/2年/ランキング圏外) :88.2
秋田 浩平(チーム22(白)/5年/ランキング圏外) :43.9
香川 明美(チーム22(白)/3年/ランキング圏外) :30.2
ジョナルド・シックス(チーム27(青)/5年/ランキング圏外):43.4
二宮 菊音(チーム27(青)/2年/29位) :4.5
岡山 順一(チーム31(黄)/4年/ランキング圏外) :37.9
北海道 修(チーム31(黄)/2年/ランキング圏外) :75.5
『先生、いかがですか?』
『どのチームにもチャンスがありますねぇ!』
『勝ちあがるのはより多くのポイント制した1チームのみ。総力戦になると思われるこの試合、いかにじわじわとポイントを稼げるかが勝利のカギになりそうです! それではお待たせしました、Bブロック準決勝、先鋒戦スタートです!!!』
ビーーーーーーー!!!!!
ワァァァァァァァァァッ!!!!!!
ゲートが開く。
フィールドは雲の上。
ふわふわした床に、所々浮いている雲に乗ることができる。
「すごい、雲の上だわ!」
菊音さんは楽しそうにふわふわの雲を満喫している。
しかしその頃、敵の1人はすでに行動を起こしていた。
「まって、相手の能力者、めっちゃ菊音ちゃん探してない?」
小雲先輩が何かを察する。
「え……?」
『おおっと!! 赤チームの木村、青チームの二宮を速くも発見!! 早速、先鋒戦注目の能力者対決だ!!』
「やっぱりこの作戦で来たか……!」
一ノ瀬先輩は嫌な予感が当たったかのように声を漏らした。
「どういうことですか?」
「赤チーム的に一番厄介なんはうちと判断したんやろ。たぶん、私らに1 ptも獲らせんつもりや」
「つまり、相手は賭けに出た。この先鋒戦で唯一の壁である二宮を封じて、上位を独占するためにな。おそらく、この能力者対決を制した方が先鋒戦を制すだろう」
青空広がる雲の上で、二人の能力者は杖を握りしめる。
『【空間の次元】の能力者木村と【逆空間の次元】の能力者二宮の二強対決だ! 今大会初の先鋒戦での能力者対決です!』
(能力者ランキング40位の木村さん……。でも、私は29位だから、能力なら負けていない。それに、これまでたくさん特訓して体力もつけてきた。きっと勝てるはず!)
菊音さんは【逆空間の次元】に集中し、空間を丁寧に把握し、目で見える以上の情報を得る。
(見えた、相手の存在……! あとは上手く立ち回るだけ!)
シュンッ!!
パリン!!
「……え……?」
『なんと! 木村選手の杖が瞬間移動して二宮のバッジを破壊したぞ!! 青チーム二宮、脱落です!!』
ワァァァァァァァァァッ!!!!!!
「いよっしゃああああああああ!!!」
『木村選手とチーム19のメンバーは凄い喜びようですね。今何が起こったのでしょう?』
『おそらく杖を空間転移させたのでしょうねぇ。本来、能力者はこのような芸当は不可能ですが、素晴らしい杖と相当の努力によって、精度が悪くもちょっとだけ飛ばせるようになったんだと思いますねぇ!』
『いやはや驚きました! 木村選手は大会史上もこれまでこのような技は一度も使用していませんでした。にも拘わらず、この土壇場で一発で成功させる根性と集中力は恐ろしいですね!!』
「これはやられたな」
「菊音さん……!」
「相手が勝負をここ一点に絞り、一か八かの賭けに出て、それが成功してしまったってことですよね」
「まだや! まだジョニーがおるばい!」
パリン!
『青チームジョナルド選手、脱落です!!』
「あっ……」
『青のチーム27はまさかの先鋒戦0 ptという、かなり苦しい展開になりましたねぇ!』




