20話 逆境で奮い立て!
夜、雪夜の部屋にて。
「それで、これがこうなるわけです。お疲れ様です! 今回の生物化学の中間範囲はここまでですわ」
「終わった~!! これで国語も、数学も、生物化学もとりあえず全範囲網羅したぞ!」
「試験まではまだ時間がありますので、復習のためにもう一周確認しましょう」
「うん! ありがとう」
「ですが、やっぱり高次元物理学をどうするかですわね……。はっきり言って今回の範囲は広すぎますわ。古典力学全てだなんて、私でも良い点が取れるかどうか……」
「とりあえず、高次元物理学以外を集中的に頑張るよ!」
俺は高次元物理学を捨て、とにかく国語と数学と生物化学に集中した。
休み時間や寝る前は苺にもらった単語帳で国語を勉強し、成瀬の小テストで数学を勉強し、雪夜に何度も生物化学を教えて貰った。
しかし、心のどこかで湧いている高次元物理学の不安がぬぐい切れないでいた。
◇◇◇
中間テストまで一週間を切った火曜日、今日は久しぶりに異探サークルがある。
「糸くん! この前の資料館以来、何か次元計の手がかりをゲットした?」
愛さんは楽しそうに俺に尋ねる。
「すみません、それが……」
合格点を取れないと退学になることを伝えた。
「ええっ!? 糸くん、退学の危機なの!?」
「はい……。それで勉強をしていて、次元計の調査は捗っていないんです、すみません……」
「合格点を取れないと補習はあったけど、退学なんて聞いたことがないわ。今回も、私達の学年ではそんなことないし……。理事長は何を考えているのかしら」
「糸くんが退学になっちゃったらこのサークルも消えちゃうよ。でも大丈夫!」
「大丈夫!? まさか、俺なんかの代わりはいくらでもいるということですか!?」
「違うわ、糸くん」
「あっ、そういえば菊音さんは2年生の主席ですよね! どうか勉強教えて下さい……!」
「私は能力込みでの主席。でもそこにいるのは、Bクラスにして2年の学業成績主席よ」
「ふっふっふ」
愛さんはどや顔でいる。
「え、すごい……!!」
「私は天才だからね。中でも高次元物理学は既に6年生の内容まで理解しているよ」
愛さんはジト目でドヤドヤと語る。
「教えて下さい!!」
「しょうがないなー!」
愛さんに高次元物理学を教えて貰った。
◇◇◇
テスト前日の夜、赤砂寮にて。
「ぶつぶつぶつぶつ……」
ボロボロのちゃぶ台の上で俺はお経のように教科書を読みこんでいた。
試験は明日。このバカな脳みそに、詰め込めるだけ詰めるんだ。
コンコン
ガチャ
「もう2時よ。アンタ、まだ勉強するつもり?」
「ぶつぶつぶつぶつ……」
「直前の暗記も大切だけど、アンタ最近毎晩遅くまで勉強してるじゃない。ここまでされるとアンタの体が心配になるわ……」
「……苺は大切な単語帳をくれた。雪夜は俺のしょうもない質問にも呆れずに熱心に教えてくれた。成瀬は毎日小テストを作ってくれた。俺みたいなバカのために、みんな最後まで勉強を教えてくれたんだ。だから、絶対に結果で応えたい」
「……明日、体調不良にならない程度にしときなさいよね。じゃ、私は寝るから」
バタン
「おやすみ、苺」
俺は自分が納得するまで、勉強を続けた。
チュンチュンチュン
結局、俺は朝まで寝ずに勉強を続けていた。
変な汗をかいているし、少し気分が悪い。
でも、今日だけは死ぬ気で乗り切って、その後に死ぬほど寝よう。
俺は制服に着替え、学校へ向かった。
今日だけは、フィアスの部屋にも寄らないことを伝えている。
最後の最後まで、勉強! 勉強だ!
1時限目は国語なので、苺の単語帳を見て国語の勉強をしながら登校していたその時。
「ぐへっ!!!!」
穴から突然飛び出してきたモグラに腹を頭突きされた。
「う……う……」
徹夜明けのセンシティブなお腹にこのダメージはでかい。
「それでも……学校に行かなきゃ……!!」
俺は片手でお腹を押さえ、フラフラと歩き出す。
ドンッ!
「あいてっ!!!」
ヘロヘロしていると木にぶつかってしまった。
ポトッ
すると、木から何かが落ちた。
「は……ハチの巣……!?」
ブーーーーーーーーーン!!!!!!!!
「ぎゃあああああああああ!!!!」
大量のハチが追って来たので、俺は死にもの狂いで逃げた。
「はあ……はあ……ここまで逃げれば大丈夫だろ……」
キラーン
「……え?」
逃げ込んだのはクマの巣。
目を光らせたクマが忍び寄る。
「た……たすけてええええええええええ!!!」
…………
「早く起きなさいっての!!!!」
パシン!
「はっ!!!」
「いつまで寝てるつもりよ! もう行かなきゃテスト始まっちゃうわよ!」
「い、苺!? ここは、俺の部屋……? な、なんだ、夢かよ……」
いつの間にか、勉強中に気を失っていたようだ。
「全く。もしやと思って見に来てみたら案の定ね。ほら、準備しなさい。行くわよ」
危なかった。
苺が来てくれていなければ大遅刻だっただろう。
やはり、登校中にモグラが飛び出してきたが、お腹にプロテクターを巻いていて正解だった。
俺は正夢と苺のおかげで無事に1限目の国語から受けれることになった。
9時ちょうど、試験が始まった。
最初は国語、制限時間50分。
「あ……あれ……?」
第一問、漢字の書き取り問題。
見たことのある読みがずらずらと並ぶ。
何度も覚えたはずなのに、漢字が正確に出てこない……!
「分かるはずなのに……こう……かな……?」
なんとなく書いてみるが、どこか違う。すっきりしない。
「く……仕方ない、漢字は後回しで次の問題……っ!」
文章の言葉表現の穴埋め問題。
ヒントとして、表現の意味が書かれている。
「これ、選択問題じゃないのか!? なんとなくは分かるのに、なんか微妙に違う……!」
正直、国語が一番稼げると思っていた。
どうせ4択問題で、ある程度分かっていればそれなりに解ける、そんな認識だった。
しかし、実際のテストは全て書き取り問題で、完璧に分かっていなければ点はない。
浅く広く勉強していたのが仇になった。
自信があるのが一問くらいしかない。
「はーい、そこまで。テストを回収します」
◇◇◇
次は数学、制限時間50分。
図形と確率の問題が1問ずつ出題される。
「超難問が1問ずつ!?」
答案も大きな枠が二つだけ。
解き方の筋道を部分点にして評価する方式らしい。
「毎日毎日、あれだけ問題数をこなしたんだ。一見難しい問題でも解き切れるはず!!」
しかし、俺が考え続けてきた中級レベルの問題をさらにひとひねりした上級レベルの問題であり、序盤から早速ひっかけの道を辿ってしまうのであった。
「はーい、そこまで。テストを回収します」
なんとか導き出した答えは、問題的にありえない数字になっていた。
「ま、まだだ! 生物化学は覚えものをきっちりしたはずだ!」
◇◇◇
生物化学、制限時間50分。
「来た! 第一問、元素周期表の問題! これは全部覚えた! 水兵リーベ!」
解答欄に水素、ヘリウム、リチウム、ベリリウムと書いていく。
以降の問題も、ちょこちょこ埋められた。
でも、最後は一番苦手だった、化学量論の計算。
計算になっている時点で俺には無理。
「残り時間も少ないし、一番自信がある最初の問題でも見直そうかな」
残り時間30秒のとき、周期表の問題文に『元素記号で書け』という指示があることに気が付いた。
「うわああああああ!!!!!」
「はーい、そこまで。テストを回収します」
「死んだでやんす……」
「もうダメだよぉ……」
昼休憩、俺と同じくらい死んだ顔をしている仲間たちがいた。
「はあ……。国語も数学もダメだったし……唯一分かった生物化学で凡ミスしちゃった……。さようなら、俺の学園生活……」
バシッ!!!!
ちゃぶ台に伏せていた俺の背中を誰かに引っ叩かれた。
「痛っ!?!?」
「アンタね、まだ一教科残ってるでしょ!! ここで諦めたら、本当に終わっちゃうわよ!」
「苺……」
「今年の問題は明らかに難化しているわ。きっと平均点も低いはず。だから、最後の一教科で取り返しなさい! 泥臭くても、粘り強く食らいついて、華麗な逆転勝利を見せてみなさいよ!!」
その苺の真剣な瞳からは、入学試験で一度絶望しつつも、ひたむきに勉強を続けてきた苺の姿勢が思い出される。
Cクラスで舐められても、超能力者である朝日さんの妹という大きな看板とのギャップに失望されても、折れずに努力を重ねてきた苺だから、その言葉には重みがあった。
「うん……! 俺だって勉強したんだ……人生で一番勉強したんだ! もっとこの学園にいたい。もっとみんなと過ごしたい。簡単に退学になってたまるか!!」
俺は席に戻り、昼休憩をめいっぱい使って高次元物理学の教科書とノートを見返す。
高次元物理学は試験時間が2時間あり、点数も他の科目の2倍ある。かなり範囲も広いし、内容も難しいけど、まだ可能性は0じゃない。
最後まで諦めないぞ!!




