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正夢が見れるなら高次元世界でも無双できる?  作者: ブルーギル
第2章 劣等生
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19話 合格ライン

 中間テストまであと3週間となったある日の朝、担任の鬼島が微妙な空気で教室に入って来た。


「おはよう。いきなりだが、大変な知らせだ。今度の中間、全クラスの平均点の4割を下回った者は退学になる」


「えっ!?」ざわ……ざわ……


「先生! 全クラスってことはAクラスやBクラスも入ってますよね!? 成績最下位のCクラスが圧倒的に不利です。急になんでそんなことになったんですか!?」


「わからん……理事長の意向だ。俺も出来る限りお前らに退学はしてほしくないし、全力を尽くす。だから、みんなも心して勉強してくれ」


 鬼島は珍しく申し訳なさそうな表情で言った。

 そして、それを聞いて顔が青ざめている者が三人いた。


「九重くん……幸坂くん……またいつかどこかで会おうでやんす……」


「尻口くんも元気でねぇ……」


 二人は召されたような目で天井を見上げていた。

 Cクラスの中でも圧倒的に成績の悪い俺たちドクロはまずやばい。


 いくら雪夜に教えて貰っているとはいえ、俺は小学校を中退している。算数に関しては掛け算、割り算がやっとのレベルだ。そんな俺が、どうやれば合格点に届くというのか。


 なんで大人はこんな意地悪するんだ……。

 ぼーっと考えてもどうしようもないことを考えていると、1限目が終わった。


 ガラガラ!!

 バン!!


「おい、九重!! お前も聞いただろ、中間で合格点をとらないと退学になるぞ!」


 休憩時間中、いきなり成瀬が走ってきて俺の机を叩いた。


「ああ、聞いたよ。短い間だったがお世話になったな」


「馬鹿野郎、何諦めてるんだ! これから毎日俺がお前に小テストを作ってやる。それを毎朝俺のところへ提出しに来い! 来なけりゃぶっ殺すからな!!」


 タッタッ! バタン!!


 成瀬は嵐のように去っていった。



 ◇◇◇



 放課後、成瀬から例の小テストを貰い、雪夜の部屋へ向かった。


「まさか合格点を取らないと退学になるなんて、驚きましたわ」


「ダントツで成績最下位の俺をふるい落としに来てるよ……」


「大丈夫、糸は勉強を始めてからでだいぶ成長してますし、きっと合格点に到達できますわ。勉強に一発逆転はありませんので、これまで通りコツコツ進めていきましょう」


「ありがとう雪夜……」




 雪夜との勉強が終わり、赤砂寮へ帰宅。

 すると、いつも俺が夕ご飯を作って苺に振舞っているが、今日は苺が料理を作ってくれていた。


「いい? テストまでアンタは死に物狂いで勉強しなさい。それまでアタシが夕飯を作るわ」


「そしたら苺の勉強の時間が……」


「舐めてるの? アタシは春休みからずっと勉強してるのよ? もうテスト範囲なんて完璧だわ。それにご飯くらい作れるようになりたいし」


「ありがとう……!」


 勝負の2週間が始まった。



 ◇◇◇



「おはよう……」


「どうしたの、糸。元気ないね」


「フィアス、俺退学になるかもしれない」


「ええっ!? 何かやっちゃったの!?」


「フィアスは聞いてないの? 今度の中間テスト、平均点の4割に達さなければ退学なんだって」


「なにそれ、めちゃくちゃじゃん。私授業とかずっと寝てるから全然知らなかったよ。それ、決めたの誰?」


「俺の担任は理事長って言ってた」


「誰よそれ。偉いの?」


「学校で一番偉いんじゃないかな。そもそもこの学校は国が特別に建てたものだし、その管理者って考えるとよっぽど凄い人かも」


「私が言ってきてあげよっか。しょうもないことするなって」


 フィアスはダイヤモンドの瞳をギラギラさせている。


「言わなくていいよ。とにかく、あと2週間勉強を頑張るしかない。退学になったらごめん」


「がんばれ。でももし糸が退学になったらその理事長とやらをぶっとばす」


「おいおい……」




 学校に着くと、教室で成瀬が俺を待っていた。


「これも……これも……これも……! おい!! 全然違うじゃねえか! 俺のスペシャル小テスト、真剣に解いたのか貴様!!」


 解いた小テストを見せたが、成瀬はお怒りだった。


「真剣に解いたよ! でも全然わかんないんだって」


「全く、ここまで馬鹿とはな。もっと基本的な問題にレベルを下げよう」


「成瀬くん……おいらにも指導してほしいでやんす……」


「馬鹿野郎! おまえに指導したら平均点が上がって九重が不合格になっちまうだろうが!」


「ガビーンでやんす」


「ちっ、なんでドクロのあいつが信長様にご指導いただいちゃってんのよ」コソコソ


「聞いた話だとあの雪夜様にも教わってるとか言うし」コソコソ


「どうせ無理なのにね。豚に真珠よ」コソコソ


 中間テストの科目は4つ。

 国語、数学、生物化学、高次元物理学。


 数学の範囲は『図形の性質』と『場合の数と確率』であり、成瀬は図形と確率それぞれ2問ずつの良問を毎日作ってくれ、解説してくれる。


 そして雪夜は、国語の論理性と数学の基本、化学の基礎を丁寧に教えてくれる。


 これだけでもついて行くのに必死なのに、残った高次元物理学は他の3つよりも範囲が広い上、レベルが高いという。成瀬や雪夜の判断では、俺は高次元物理学を勉強するより、まずは残りの3科目を鍛える方が望みがあるとのことだ。


 というわけで、高次元物理学は捨て3科目の勉強に絞る。




 放課後は雪夜の部屋に向かう。


「生物化学とは言っても、今回の範囲は化学の入りですわ。分子とはなにか、原子とはなにか、電子とはなにか。そしてそれらが構成する物質について、きっちりと見ていきましょう」


「……あの、そもそも化学ってなんでしょう」


「この世の色んな物を細かく見る学問ですわ。ほら、糸の今持っているシャーペンがあるでしょう。それを細かく見ると、持つところは金属でできていますが、芯は別の物質で出来ています。もっと細かく見ると、これらはとっても小さいつぶつぶの集まりですの」


「ふむふむ」


「このつぶつぶの作用や反応によって私達の見えるレベルであらゆる性質が発現したり、色や物性などの変化が見られたりします。物質が化ける、これが化学ですわ」


 雪夜は、無知な俺の初歩的な質問にも丁寧に対応してくれた。



 ◇◇◇



「アンタ、これあげるわ」


 夕飯時、苺がめくれる単語帳のようなものを渡してきた。


「これは……漢字?」


「そ。今回の国語の文章から難しい漢字と表現をまとめて、裏に読み方と意味を書いてあるわ。使いなさい」


「もらっちゃっていいの?」


「アタシの分は復習を兼ねてもう一回作るわよ」


 寝ころびながらも見れるし、これはすごく助かる。


 国語は、出題される文章が決まっている。

 しかし、その文章はとても難しい論文だったり、20世紀に活躍した小説家が書いた難しい小説の一説だ。文章全体の意味をざっくり分かっていても点には繋がらない。特に前者は漢字、後者は言葉の表現が何を意味しているのかを分からないと細かい問題には対応できない。

 

 俺は苺の単語帳を利用して、漢字と語句の意味を一つ一つおさえていく。




 夜は部屋のちゃぶ台で成瀬の作ってくれた数学の小テスト。


「あああ全然わからん!!! そういえば成瀬のやつ、教科書で調べながら解いてもいいとか言ってたな。えーっと、図形の面積を求める公式は……」


 成瀬の問題は、俺が必死に教科書で調べてギリギリ分かる、ちょうど良いレベルの難しさだ。

 一見単純そうに見える問題も、教科書を見るだけではすぐには分からない。教科書に書かれた公式をうまく使い、じっくり考えることでようやく答えが見えてくる。


 こうやって学習していくうちに、考えるとはどういうことか、勉強するとはどういうことかが少しだけ分かってきた気がした。



 ◇◇◇



「……彼は勉強しているだろうか」


「ふふ、どうやら心強い協力者達がいるみたいですよ」


「協力者か。まあ、今の彼には必要かもしれないね。でも、試験は一人で受けるものだ。どれだけ手伝ってもらっても、本番は孤独に戦うんだよ、九重くん」


「でも、平均点の4割は少し糸くんを舐めすぎじゃないかしら? それに、正夢を見て答えが分かっちゃうかもしれませんよ」


「それはない。彼はまだ受け身で、たまに夢を()()()()()()()に過ぎない。私が彼の夢のことをなんと呼んでいるか知っているだろう」


「『次元の叫び』……。この世界の次元が、彼のマナを伝って夢を見せているということですか? もしそうなら、糸くんの退学のピンチは次元にとってはどうでもいいものね」


「詳細は私にも分からない。実際私も君の能力のおかげで、()()の能力が夢に関連するということをようやく見出せたに過ぎないからね。とはいえ、確かにこのままでは簡単に達成されてしまうかもしれない。次の手を打つとしようか」


 暗闇に包まれた理事長室で、緑髪の女子生徒と学園のトップが会談をしていた。



 ◇◇◇



 しばらくしたある日。


「成瀬! 今日の小テストだぜ!」


「どれどれ。……おお、合ってる……! 全部答えも解き方も合ってるぞ!! よくやったな九重!」


「そうだろ! もう図形も確率も余裕だぜ!」


「だったら、今日はもう少しレベルを上げた問題を出そうか」


「なにっ!? これが最高レベルじゃないのか!?」


「なにを、まだまだ上はあるぞ。だが、お前はあと2週間でまだまだ伸びるはずだ!」


「ふう……望むところだ……!」


「そうは上手く行くかの」


「お、お前は! Bクラスの風紀委員、沖田桜!」


「昨日から、Bクラスの教師が変わったんじゃ。それも全科目。その教師は他でもない、あの鹿島(かしま)理事長じゃ」


「「なんだって!?」」


「それが、これ以上ないくらい分かり易いんじゃ。今回のテスト、Bクラスの平均点は爆上がりするぞ」


「そんな……」


 ここまでするなんて、一体理事長は何を考えてるんだ……。




 Bクラスの教室にて。

 チューベローズのトップ、鹿島理事長が1年Bクラスの生徒の前に立つ。


「成績順で割り振られているクラス分けにおいて、一見このBクラスはAクラスに勝ち目はないと考えているかもしれない。だが、それは大きな間違いだ。成績は学術成績と技能成績、つまり能力者としての適性の二つで決まる。したがって、学術成績が著しく悪い者でも、能力者としての適性が非常に高ければAクラスになる。その証拠に、今の2年生の学術成績の主席はBクラスの生徒だ。私は、君たちにAクラスを追い詰め、追い越すようなクラスとなって欲しい。さて、今日の授業を始めようか」


 授業が分かり易いのはもちろん、発する言葉一つ一つでやる気がぐんぐん上がるカリスマ性。

 教育者として最高峰に君臨する鹿島理事長の世界に、Bクラスは包み込まれていた。

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