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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第五章 王都ミスミルド
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 アキ達は王都へ入り、エスタートが用意してくれた屋敷へと向かう。本当であれば商業地区の散策もしたかったのだが、馬車を停めてまですることではない。王都散策は後日にしようとアキは決める。馬車はあっという間に商業地区を抜け、居住地区へと入る。居住地区は複数あるのだが、爺さんが用意してくれた屋敷は居住地区の中でも高級地区にあるようで、商業地区へのアクセスがとても便利だ。それでいて閑静な場所。立地に加えて利便性も抜群だ。場所で言うと商業地区の斜め隣、王城に近いエリアにある。王城と他の居住地区に囲まれているとイメージすればわかりやすいかもしれない。だから商業地区とは直接隣接していないが斜め隣にあるので斜めに突っ切ればすぐに行ける。


「多分この世界でいうところの最高の立地なんだろう。」


 商業地区には日常品や食料品の商店があるし、それに加えて冒険者協会もあるので、アキ達にとって商業地区の需要は高い。さらに情報収集もしなければいけないので商業地区を訪問する機会は増える。この屋敷は文句のない最高の立地だ。爺さんに屋敷の手配を頼んで正解だった。


 馬車は居住地区に入って程なくすると1つの屋敷の前で停車した。アキは早速馬車から降りて屋敷を確認する。屋敷自体はアキの希望通りしっかりと塀に囲まれており、外からは見えない仕様になっている。大きさは前と同じくらいだが、庭は格段に広い。訓練の為に大きめの庭をお願いしていたので最高の物件だとアキは思う。


 塀の中にある屋敷の造りはやはりシンメトリー設計でデザインも中世ヨーロッパ風だ。早速扉を開けてミルナ達と中に入る。さすが爺さん所有の屋敷、既に立派な家具や調度品が揃っている。そして幸いにも部屋の造りなどはミルナ達がアリステールで借りていた屋敷とほぼ同じ。とりあえず一通り屋敷内を皆で見た後、いつもの様にリビングで寛ぐ。ちなみにガランは工房を探してくると工業地区へと行き、エスタートは後で遊びに来いと伝言だけ残して本宅へと帰った。


「ここも良いね、のんびりできそうだ。屋敷を正式に爺ちゃんから買い取って本拠地を王都にしてもいいかもしれない。」


 アキは立地に加えて、この屋敷の雰囲気がかなり気に入っていた。屋敷の中の調度品にも落ち着きを感じる。リビングの家具は全体的に派手ではないが高級感漂う物ばかり。ソファーの座り心地も最高だし、明かりも程よく配置されている。大きな窓からは庭がよく見え、皆の訓練している姿もよく見えることだろう。リビング以外の部屋も似たような感じだ。2階の個室なども広く、皆が自分の部屋でのんびりと過ごすことが出来きる。広い風呂や、キッチンも素晴らしい。


「イリアの事がありますし、本拠地は別になくてもいいのでは?」


 ミルナが意見を出す。


「うん……でも。俺はここが好き。それにさ……。」


 現在メルシアに本拠地はない。確かにミルナの言う通り無くてもいいとは思うが、帰る家があるのはいいものだとアキは思う。転々とするよりどこかの街に拠点となるホームを決めてから動きたい。だからこそアリステールを追い出された今、どこかエスペラルド内で本拠地を見つけたいとアキは考えている事を説明する。


「ただいまって言える場所があるって大事な事だと思うんだ。」

「ふふ、確かにそうかもしれませんわ。おかえりなさいって私も言いたい。アキさんがここを恒久的なお屋敷としたいのでしたら私達に異論はありません。アキさんの居る場所が私達の居場所ですから。」


 ミルナがどこか満たされたような表情で微笑む。他の3人もミルナに同意見のようだ。


「ありがとう。じゃあ爺ちゃんに話してみるか。うーん、部屋割りはどうしようか?」

「アキは主寝室にしよ。」

「リオナが決めたなら、俺はそこにする。」


 レオの提案にアキは即座に賛成する。正直どこでもいいのでレオが決めてくれたならそこでいい。自分の意見が通ったのが嬉しいのか、尻尾を振っている。


「私達も前の部屋と同じ配置で大丈夫ですー。」


 ソフィーの言葉にみんな異論はないようなのでミルナ達もあっさり決まった。アリアとセシルも空いている部屋を適当に選び、部屋決めは1分で終了。ただアキはミルナ達にアリアを使って一応釘を刺しておく。


「アリア、4人の部屋……いや、ソフィーとミルナだけでいい。時折中の状況を俺に報告するように。」

「かしこまりました。」


 アリアは即座に返事をしてアキの命令に一礼する。


「アキさん!待って!」

「ダメ、ダメです!」


 そんな冷静沈着なアリアとは対照的に必死の抵抗をするミルナとソフィー。アキは溜息を吐いて2人を諭す。


「嫌なら部屋くらいは綺麗にしておくように。俺だって2人の部屋に遊びに行くことあるだろうしね?」

「……はい。がんばりますわ。」

「うー、頑張ります……。」

「女の子らしくしたいんでしょ?まずはそこから始めようね?」


 そういうとミルナとソフィーは気合が入ったようだ。これで少しはましになるだろうと期待する。この2人は本当に私生活においてはだらしないからな。


「さて、それより本題。王都での予定を決めたい。どうする?ここからは又ミルナが仕切る?」

「もぉ……意地悪しないでください。」

「いや意地悪とかじゃなくて。俺はほら……ミルナ達にね?だから念の為に確認しておきたい。」


 アキがこれからも皆の道標となる事は別にいい。ただアリステールで碌でもない計画を実行したのだから、彼女達が本当にアキでいいのか再確認しておきたかった。


「ふふ、そういうことですわね。アキさんがいいんです。」

「はい!アキさんで!」


 ミルナとソフィーが同意してくれる。


「わかった。じゃあ王都で俺が考えてる予定なんだけど、それを決めるにあたり1つ大事な事を確認しておきたい。」


 ミルナ達が真面目な顔で頷く。アリアは大事な話の時は決して入ってこない。勿論セシルも一歩退いて聞いていてくれるので、優秀なメイドと秘書を雇えてアキは満足だ。


「闘技大会で優勝するとしよう。ミルナ達はSランクになる。」

「ええ、そうね。」


 エレンが相槌を打つ。


「ミルナ達はAランクだから当然だけど、俺はどうなる?俺個人のランクはCだ。平均ランクAのチームにいるCの俺が優勝した場合、俺のランクはどうなる?」


 アリステールですっかり確認するのを忘れてしまっていた。ミルナ達も言われて気づいたようだ。


「そ、そういえば……どうなるんでしょう?」


 ミルナもわからないと首を捻る。メルシアの中でミルナがわからないのであれば、ソフィー、エレン、レオもわからないだろう。


「もしCからSに上がるのであれば別にいい。でもCからBやAにしか上がらないのであれば考えなければいけない。俺だけSじゃないからミルナ達だけでイリアを追いかけることになる。」

「それはダメよ!……ち、ちゃんと最後まで付き合ってよね……。」


 エレンは恥ずかしそうに顔を背けながら答える。


「セシル、わかる?」


 冒険者協会の受付嬢をしていたセシルならわかるかもしれないと、アキはセシルに話を振る。セシルはそれならわかりますという表情でアキ達に説明してくれる。


「はい。その場合はSになれません。ただ闘技大会優勝は特別で、ランクは2つ昇格するのでAになれます。つまりアキさんがBであれば優勝時に希望すればSになれます。」


 こういう時セシルがいてくれるのは助かる。協会に確認する手間が省ける。


「そうか、俺は別にランク上げる必要はないと思っていたけどBまでは上げておかないとダメか……Cだったら侮ってもらえると思ったんだけど。」

「アキ、まだ隠すの?」

「ダメか?」

「ううん、聞いただけよ。」


 エレンが少し悲しそうな顔をするが、すぐに優しい目でアキの方を見る。


「隠すのが難しくなるまでは弱い振りをしたい。といっても本当に弱いんだけどね……。」


 実力を隠すと言えば格好がいいが、別にアキは隠すほど強いわけではない。ちょっと魔素の使用方法が特殊なだけ。だがそれすらも必要な時までは隠したいと思っている。できたら闘技大会決勝まで。アキの想定だと闘技大会自体は結構余裕のはずだ。何故なら先日襲われた際に感じた冒険者の対人経験の無さだ。どんなAランクが出てくるのかまだわからないが、もしあの連中のように対人経験が少ないのであれば楽に勝ち抜けるだろう。ミルナ達には油断して欲しくないので今は言わないが。


「よし、じゃあ明後日から王都の協会で依頼を受けて3日でBにあげる。Bへ昇格するにはBランク依頼をあと15回達成する必要がある。20回のうちの5回はアリステールで終わっているからね。1日で依頼を5個受ける。みんなに手伝って欲しい。」

「もちろんですー!」

「ソフィー、ありがとう。それとセシル、闘技大会の申し込み期限とかあるのか?」

「はい、期限は闘技大会の1か月前です。」

「ならあと2週間くらいあるのか、とりあえず申し込みはギリギリにする。俺のランクを上げ終わってから。目立ちたくないしね。」


 Bランクが1人だけAランクチームに混ざる程度なら不自然ではないだろう。完全なパワーレベリングでBにして貰うだけだが、アリステールじゃないここの人間にそれはわからないし問題ない。


 情報収集については闘技大会の申し込みが終わってからセシルと共に本格的に動く形になる。どんな参加者がいるのか情報も少しは流れるだろう。王都に今どれくらいAランクがいるのかくらいは早めに調べておくべきだが。


「セシル、依頼を受ける時一緒に協会に来て。Aランクの冒険者がいたら、紙にでも纏めておいて欲しい。」

「はい、お仕事がんばります!」


 セシル曰く、冒険者のランクは見ればわかるとのこと。さすが冒険者協会で働いていた受付嬢だけはある。


「俺のランクがBになったら依頼は受けない。ミルナ達はその後ひたすら対人戦の訓練だ。基本的は人目のつかないここの庭で俺と一緒にやってもらう。セシルは俺と情報収集と整理。アリアは屋敷を頼む。」


 アキがそう告げると全員が意見することなく同意してくれる。


「アキさん、明後日からと言いましたが、前と同じように明日は休日ですの?」


 ミルナがちょっと嬉しそうにアキに確認する。


「うん、明日はお休み。」

「やったー!アキさん、遊びましょう!」


 お休みときいてソフィーがはしゃぐ。他の面々も王都散策が楽しみなのか、アキと何をしようかと期待に胸を膨らませているようだ。


「一緒に遊びたいのは山々なんだけど、明日は別行動ね。」

「えー!そんなのヤです!」


 栗鼠のように口を膨らませるソフィー。


「明日は爺ちゃんと商会で扱う商品の打ち合わせがあってね。ごめんね。」

「ご一緒するのは駄目なんですか?」


 ミルナが一緒に行きたそうにしているが、明日は1人で行く予定だ。王都に到着したばかりで足りない物などあると思うし、皆には自分達に必要な生活必需品の買い物をして欲しい。買い物はまた今度一緒に行くからと約束して、渋々ながらにもミルナ達に納得してもらった。


「俺の代わりに色々王都のお店調べてきてよ。そして今度案内して欲しい。」


 アキがそう言うと気合が入ったようで、ソフィーなんかは全てのお店を網羅しますとか騒いでいる。しかし皆どれだけ自分と一緒に行動したいんだと呆れる。本当に嬉しい事ではあるけれど。


「私はアキさんにご一緒します。」


 アリアは当然ですと言わんばかりにクールな表情で淡々とアキに告げる。


「あ、ダメ。」

「そ、そんな!」


 アリアが一瞬で絶望した表情になる。別にこれは意地悪で言っているわけではない。アリアには他にしてもらうべき仕事がある。アキはアリアに5金ほど渡す。


「それでこの屋敷に必要な物や食料の調達をお願い。」

「お金はこの前頂いております。」

「それはアリアのお金でしょ?俺やみんなの生活に必要な分はまた別に渡す。だからアリアには明日は買い出しをお願いしたい。」

「わかりました……。」


 項垂れた様子で了承するアリア。レオのように尻尾がついているなら間違いなく垂れ下がっている事だろう。


「あと自分に必要な物も買っておいで。アリアのメイド服以外の服とか見たいな。」


 励ますために少し甘やかしておく。それにアリアがメイド服以外を着用しているのを見たことがないので、下手したら私服を持ってない可能性もある。アリアの事だからメイド服が私服ですと平気で言いかねない。年頃の女性なのだから数着くらいは持っておくべきだろう。


「わ、わかりました!買ったら見てくださいね。」


 アキの予想通り少しは元気になってくれたようだ。


「メイド服……そうだ、メイド服いっぱい買わないとです!……ひゃっ……アキさん、叩かないでください……。」


 ソフィーがまた暴走するのでとりあえず頭をひっぱたいておく。買ったら許さん。見たいという気持ちはあるけど、その為に稼いだお金じゃない。


「あとセシルもね?買い物しておいで。」


 セシルもあまり私服はないらしく、アリステールで冒険者協会の受付嬢だった時の制服を着崩している。紺色のベストに白のワイシャツ、そしてタイトスカートなのは一緒だが、ベストの前を開けて、シャツも首元のボタンを外している。帽子はもうかぶっていない。なんでもアキがよく耳を撫でるから帽子は邪魔なのだとか。ちなみに詳しく話を聞いたところ、これは別に冒険者協会の制服ではないらしい。セシルが自分でこの服を正装として決めていただけで、協会受付嬢に決まった制服はないとのこと。なんとも彼女らしい理由だ。セシルの今の服装は確かに彼女に似合っているが、肩が凝りそうなきっちりした服だし、アキの秘書となった今は好きな服を着てもいいと伝える。


「はい!じゃあ私もお洋服買います!」

「リオナ、悪いけどアリアとセシルの付き添いお願いできる?アリステールじゃないから面倒ごとは起こらないと思うけど念の為にね。」

「いいよ、まかせて!」

「じゃあ、アリア、セシル、リオナで行動してくれ。他の3人も好きに買い物してくること。」


 レオを選んだのはアリアやセシルとぶつかる事が少ないからだ。なんだかんだミルナよりレオが一番の常識人だと思っている。


「とりあえず予定も決まったし、俺は風呂入ってくる。」

「ではご一緒します。」

「くんな。このど変態メイド。」


 アリアが従者になった事で突っ込む機会が増えた気がすると、溜息を吐くアキ。これがなければ彼女は本当に優秀なメイドなんだが。人間だれしも欠点はあるというが優秀な人間ほど残念な欠点があるのだろうかと思ってしまう。

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