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その後も順調に馬車移動は進む。魔獣の襲撃は偶にある程度で足止めにもならない。そして2日目のお昼、王都に着く前の最後の休憩。
「爺ちゃんあとどれくらい?」
「もう半日くらいじゃの。」
「徒歩で5日って聞いてたから助かるよ。3日も短縮できた。」
「いやいや、わしも楽しかったしの。」
エスタートの爺さんに必要な事は確認したので、適当に食事を済ませて休憩が終わるまでのんびりする事にする。ミルナ達4人は寂しそうな表情で静かにしている。休憩に入ってからまだ一言も喋っていないところ見ると限界なんだろうなと察する。
「やれやれ、うちの子達はしょうがないな。」
手が掛かる子程可愛いというが、実際にその通りで、拗ねている彼女達がアキにはとても愛おしく思える。アキは彼女達の方へと近づくが一向に顔を上げる気配はない。普段であればアキの接近にはすぐに気付くのにまったく反応しないので相当凹んでいるのだろう。
「こら、そんな葬式みたいな空気出してるんじゃない。」
「アキさん!ど、どうしたんですか?」
ソフィーがどこか寂しそうな目でアキを見つめる。
「なんで俺が来たかわかるよね?ミルナ?」
ちょっと意地悪かもしれないが、敢えてミルナに尋ねる。
「え……あの……その……。」
ミルナが言いづらそうに口籠る。
「ほら、ちゃんと言えって。『私ミルナはアキさんが楽しそうにアリアやセシルと話しているのが寂しかったです。料理とかできないし、女の子らしいことが何もできなくて泣きそうでした』って。」
「あ……あ……アキさんのばかー!言わないでよ!」
ミルナが顔を赤くして叫ぶ。
「ほんとしょうがないな、うちの子達は。」
「だって……だって……。」
ミルナが顔を真っ赤にしながらも悲しそうな目で呟く。
「はいはい。ソフィー達のセリフも言った方がいい?」
「ダメです!やめて!」
「だ、ダメ!言わないで!」
「い、言ったら許さないんだから!」
ソフィーやレオは必死に首を振っている。エレンもいつもの元気がない。普段なら殺すっていうだろうに。
「大体そんなことで落ち込むな。」
「だって私ダメダメエルフです……。」
ソフィーが重症だ。アキはやれやれと頭を掻いてミルナ達に告げる。
「2人とばかり話していたのは悪かった。でも王都に着く前に片付けておく必要がどうしもあったからね。王都にいったら忙しいだろうし。俺だってミルナ達と雑談していたいさ。でもそれが出来ないのはわかるでしょ?」
「それはいいんですの……私達もわかってますわ。それより女子力が……。」
ミルナの言葉にアキは一言だけ返す。
「ばーか。」
「バカって言わないでください!真剣に悩んでるんですのよ!」
本気で怒っているようだ。だがミルナはわかってない。
「女子力なんかに時間使ってたらイリアの事なんか到底無理だよ?そういうのはイリアを助けたあとにしておけって。今のミルナ達に必要なのは戦闘力、後は戦う為の戦略と情報。それだけだ。」
「でも……やっぱり女の子らしいほうがアキはいいよね?」
レオの尻尾が下がっている。彼女の尻尾は悲しいとき、寂しいとき、辛いときなどは地面に着く勢いで垂れ下がるのでわかりやすい。
「いや別に?1回しか言わないからよく聞け。そもそもミルナ達が料理出来ても出来なくてもどっちでもいいし、どうでもいい。そんな理由で嫌いとか好きとかない。レオはレオでいい。もちろんミルナ、ソフィー、エレンも。」
「そ、そうなの?私このままでもいいの……?」
エレンが心配そうに尋ねる。
「そう言ったはずだけど?大体、皆は可愛いんだ。女子力まで上げたら他の女性が可哀そうだからやめとけ。」
これくらい言っておけば大丈夫だろうとアキは話を切り上げる。
「あ、でも1つだけ。」
「な、なんですか?」
ソフィーが緊張した声で聴き返す。
「部屋に下着を散らかすのは女の子としてさすがにやめた方がいいと思う。」
「「アキさんのばかー!」」
ソフィーとミルナが声を揃えて叫ぶ。エレンとレオは、私達は大丈夫ね……と安堵している。とりあえずこれだけ元気になれば安心して王都にいける。
エスタート達のもとへ戻り出立の時間を確認する。
「もう出るつもりじゃ、しかしアキも大変じゃな。」
「さすがに今回は自分でもそう思うよ。」
アキは苦笑する。
いよいよ王都。また忙しい日々が始まりそうだ。
王都ミスミルド。エスペラルド王国の王都で最大の都市。馬車が王都に近づくにつれて見えてきた街の大きさにアキは驚いた。エスタートの爺さんが街に入る前に平原の高台から街を見せてくれるとの事で、現在は高台に馬車を止めて目下に広がる王都を眺めている。
平原の先を埋め尽くすように巨大な王都の街が存在している。人工建築物が見渡す限り並んでいる姿は圧巻だ。セシルの説明によると、アリステールと同じような街の構成になっており、円形で地区ごとに分けられている。ただ規模が違い過ぎる。街自体が本当に円形なのかわからないくらい直径が広いし、地区の数も多い。そしてアリステールが1地区にすっぽり入ってしまうほどに1つ1つも規模が大きい。居住地区が複数、農業、工業地区も多数存在している。商業地区だけは分散させたくないのか、王都への門から通じるの巨大な一区画だけが商業地区になっているそうだ。街の雰囲気まではここからではよくわからないが、高い建物もいくつかあるようで、アリステールとは違った街並みに思える。ただここから見てもすぐにわかる、ひと際目立つ建造物がある。街の中心に聳え立つエスペラルド王城だ。かなりの高台に作られている。てっきり中心の王城に向かって上り坂になっているのかと思いきや、王城だけが高台に聳え立っている。天空の城と間違うくらいで、きっと城からは街の全容が容易に見渡せることが出来るだろう。
「これは凄いな。圧巻だ。」
「すごいです!」
「ほんとだね!」
隣でソフィーとレオがはしゃいでいる。ミルナとエレンもその大きさに唖然としている。ミルナ達も王都は来た事が無いと言っていたので驚くのも当然だろう。しかしアキの説教以降、すっかり元気になった4人。うちの子達は立ち直りが早いのが才能だ。
「初めて見る人は必ずそういうんじゃよ。」
エスタートは笑いながら教えてくれる。
「なによりあの王城がいい。天空の城だな。」
「あ、それ素敵な表現です。」
セシルがアキに同意してくれる。
「アリア。」
「はい、なんでしょう。」
「あの城欲しい。なんとかして。」
「かしこまりました。お望みのままに。」
アリアは悩むことなく即答する。
「さすがにそれは無理かと思いますわ……。」
ミルナが現実を突き付けてくる。酷い暗黒の天使だ。
「夢の欠片もない暗黒物質め。」
「ポイしましょう。」
2人してミルナを糾弾する。
「なんで私が悪いみたいになってるんですの!」
「一般的なメイドであればあのくらいの城は手に入れることができます。」
「メイドさん凄いなー。」
「そんなのは一般的なメイドではありませんわ!」
ミルナがめげずに突っ込む。
「黙れ、癒しの光。」
「癒しの光ポイします?」
「やめて、その名で呼ぶのはやめて!」
必死にアキとアリアを止めようとした結果ミルナは返り討ちにされ、他の面々は2人の会話に不用意に入るのは辞めようと心に誓うのだった。
「アキさんが王になればすぐ手に入ります。殺りましょう。」
「城は欲しいけど別に王や為政に興味ないんだよね……でも殺っちゃう?」
そんな物騒な会話をアリアとしている後ろでミルナが「誰か突っ込んで、私にはもう無理」とか言っているような気がした。
「よし、ミルナで遊ぶのは終わりにして王都の屋敷に行こうか。」
「はい、いいおもちゃでした。」
アキとアリアの会話を聞いていたソフィー達はアリアをメイドに迎えたアキを少しだけ恨んだ。ミルナをおもちゃに出来るような人に自分達がかなうわけがないと。そしてレオとソフィーはデジャブを感じていた。その時のおもちゃはエレンだったが。




