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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第五章 王都ミスミルド
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2

「これで話は大体終わったかな。次の休憩でうちの子達に一言いっておくか。」


 アキが窓の外の流れる景色を見ながら呟く。現在2日目、今日の午後には王都に到着する予定だ。徒歩で5日だが、馬車だと2日。この時間短縮はありがたい。闘技大会まで可能な限り王都で動ける時間を作っておきたい。


「別にそんなことしなくてもいいのでは?」


 相変わらずミルナ達に冷たいアリア。


「2人と話しててうちの子達構ってあげられてないからな、下手したら泣きだしそうだし。それに王都に着くまでに立ち直らせておかないと今後の予定に差し支える。説明させるな、アリアもわかってるだろ?」

「すいません……つい。」


 アリアが申し訳なさそうな表情になる。


「アキさんってほんとちゃんと見てますよね。」

「仲間だし、それに観察するのは得意。」

「そうでした。」


 セシルが自分の時の事を思い出したのか、少し恥ずかしそうに笑う。


「羨ましい人達です。アキさんにちゃんと見て貰えて、気にして貰えて。でもそんな人だからこそ私は仕えさせて頂こうと思ったんですが。」


 寂しそうに微笑むアリア。


「アリアの事もちゃんと見てる。」

「え……あ、はい……。」


 アキに言われて驚いたのか、恥ずかしかったのか。おそらく両方だろう。アリアが顔を伏せる。


「セシルの事もね?」

「はい……って……やっ・・耳すぐに触るのだめ……!」


 ついついセシルの反応が面白良くて耳を触ってしまう。まあ、触り心地がいいのもあるんだが。それに本人も本気で嫌がってないのがわかっているので気にせずやっている。


「ああ、そういえば大事な事をまだ話してなかった。」


 アキはセシルの耳から手を離す。


「もお……で、なんですか?」

「はい、なんでしょう?」

「アリア、王都の屋敷の仕事はあれでいい?」


 先ほどアリアにした仕事の話を念のために再確認する。


「はい。掃除、買い出し、来客対応、外出時の側仕えなどメイドとしては基本的なことですし、問題ありません。でも料理もできますよ?」

「アリアは俺の分しか作らなさそうだからダメ。」

「……はい。」


 初めはアリアに任せようかと思ったが、ミルナ達が飢え死にすると思うので料理だけは自分で作ることにした。アリアなら本気でやりそうだし。


「じゃあ次、セシルの仕事もあれでいい?」

「はい!アキさんと情報取集、情報整理及びそれらの文書化ですね。秘書みたいなものでいいんでしょうか?」

「まあ、近いかな?別に協会とかで働いてもいいんだよ?」

「いえ、別の仕事もいい経験です。協会ならアリステールに戻ったらまたやる事になりそうですので、今は別の仕事をしてみたいです。戻る気ないですけど。」


 セシルにはアキが集めた情報の整理や文書化をお願いした。王都では結構ドタバタになりそうなので、そういった作業に向いているだろうセシルに提案したら、是非やらせてくださいとのことだった。


「よし、じゃあ2人ともそれで大丈夫ってことだね?ではこれにサインして。」


 アキは文字がびっしり書かれた紙をアリアとセシルに渡す。2人の仕事内容は予め事前に考えて文書化しておいた。彼女達が納得すれば見せるつもりで用意していた物だ。


「これはなんですか?」


 セシルが不思議そうな顔で紙を見つめる。


「雇用契約書だけど。読んで納得したらサインして。納得いかないところがあったら言って?」

「すいません、雇用契約書とかなんでしょうか。」


 今度はアリアが尋ねる。


「この世界そういうのないの?簡単に言えば雇い主、この場合俺、と雇われ側、セシルとアリア、の間で交わす契約だね。あとで条件が違うとか揉めないように。」

「そんな!文句などいいません!」

「そういうことじゃなくて。こういうのはちゃんとしておくべき事だと俺は思っているから。今までもお給金とかで揉めたりあったでしょ?」

「それはまあ……なかったとは言いません。」

「最初に交わしておくことによって、俺もアリアも双方が納得していれば何の問題も起こらない。もし起こっても契約書に基づいて解決すればいいからね。アリアとは仲良くやっていきたいからだけど、ダメ?」

「は、はい。それでは読ませて頂きます。」


 こう言えばアリアは納得して読んでくれると思った。アリアの行き過ぎた忠誠心には困ったものだと頭が痛くなる。目を通し終わってからまた一波乱ありそうだが。


 セシルとアリアが読み終わったタイミングで声を掛ける。


「なにか納得いかない部分やわからない部分ある?」

「難しいです……。」

「ええ、少々難しいですね。ただわかるところもあります、お給金はいりません。」

「却下。」

「何故ですか、私はお金の為にお仕えしたいわけではありません!」


 アリアが必死に説明するが、そんなことはアキもわかっている。ただメイドとして仕えてもらう以上、ちゃんとしたケジメは必要だと思っている。


「とりあえずセシルがよくわかってないみたいなので説明する。でも一応ちゃんと目は通すこと。」


 アキが雇用契約書に書いた事を簡単に要約すると、セシル達の雇用主はアキで、アキは毎月一定金額を労働の対価として支払う。支払い額は20年で5000金、方法は前払いで一括。途中退職希望の場合は返金する必要はなく、退職金としてセシル達にそのまま付与。仕事範囲以外で不当な労働を要求した場合は、セシル達の申し出において一方的に雇用契約を解除できる。また、アキから正当な理由を提示後、セシル達が合意した場合も契約の解除が可能。その他は業務内容が記載してあるだけだ。


「そう言った事が細かく書いてある。じゃサインして?」

「駄目です!内容が私達に有利すぎるのではないでしょうか!」

「無理です!それに金額も多すぎます!」


 アリアとセシルが異論を唱える。地球なら誰でも喜んでサインするレベルだと思う。いや、むしろ好条件過ぎて怪しまれてサインしないだろう。この2人の場合は単純にアキの事を考えてくれているだけだが。


「かなりアリアとセシルが有利になるように書いたからね。だって女性2人を預かるんだよ?それくらいはしないと。それに2人の事は信用しているし心配してない。まあ、男の甲斐性だと思って欲しい。」


 以前に爺さんが言っていた言葉を使わせてもらう。この契約書は敢えてセシル達に有利な契約にした。彼女達に言ったように、女性を雇うという事もある。いつ不快な思いをさせてしまうかわからない。


 それに、特にアリアにおいては感謝の為に一生仕えるとか言っているので、万が一嫌になった場合でも好きに出て行けるようにしておきたかったというのが最大の理由だ、と付け加えるようにアリア達に説明する。


「そんな!嫌になるなんてありえません!」

「俺がアリアに甘えた状態で側仕えに置きたくないって我儘だから。あとセシルも。ケジメだよケジメ。わかったらサインしてね。」

「え……でも……。」

「せめてお金の部分だけでも削ってください……。」


 2人とも煮え切らないので、アキは少々強引な手を使う事にする。


「アリア。サインしないならポイする。」

「します。サインします。」


 即答でサインしてくれた。セシルも一応渋々ながら納得はしてくれた。ちなみに爺さんとは追加で1万2千金の経営指南契約をしておいた。経営書とかもタブレットに入っているのでそれを使えばいい。とりあえず先渡しで300金ほど貰っておいたので2人に100金ずつ渡す。残りの100は自分用だ。契約金の端数の2千金も自分用。ミルナ達にお金は稼いだが、自分が一銭も持ってない事に気付いたからだ。


「それはアリア達のお金だから好きに使っていいからね。」

「ありがとうございます。さらに命をかけて一生お仕えする覚悟ができました。」


 アリアは相変わらず大袈裟だが、とりあえずいいだろう。


「アキさん、ありがとう。大事に使います。お仕事頑張ります!」


 セシルは改めて丁寧にお礼を言ってくれる。うちの子達より数倍しっかりしているし、この2人なら安心して仕事を任せられる。いい人材を雇えたと満足する。


「1つだけお願いがあるんだけど。」

「なんですか?」

「契約書には書いてないけどセシルの耳は時々触らせてね?」

「……うん……アキさんならいいよ。」


 少し嬉しそうに微笑むセシル。


「アキさん、やっぱり捥いでいいですか?」

「止めなさい。」


 セシルが怯えているのでそういうことは言わないようにとアリアに注意しておく。

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