1
「ねえ、アキ君。そろそろ音楽祭だけど何か考えているのかしら?」
エリザが雑談がてら聞いてきた。
温泉旅行を終え、現在はマリミアからの帰りの馬車だ。ぎりぎりまでマリミアの屋敷で過ごして転送魔法で帰ってもよかったのだが、ベルが移動用の馬車を元々用意してくれていたので、それを使ったほうがいいと思い、今回は馬車でのんびり帰っている。それに魔法を使って一瞬で帰還だと味気ない。せっかくの爺さん達との旅行だ。馬車での移動も含めて旅の醍醐味だろう。
「ところで音楽祭っていつだっけ?」
そもそも開催時期を確認してなかった。まだ先の事だと思って後回しにしていた。
「来月よ。アキ君でなきゃいけないんでしょ?」
なんと。もう来月に開催されるらしい。予想より大分早かった。まあイリアの件はなんとか片付きそうだし、音楽祭までに終わらせるという目標は達成したといってもいいだろう。ただイリアの報告次第ではどうなるかまだわからないが。
「そうだね、どうしようか。エリザとミルナに水着でも着せて歌って踊らせるか?」
「なんでよ!?」
「そうですわよ!なんで私まで!」
エリザのついでで巻き込まれたミルナが慌てて文句を言ってくる。
「だって2人とも最終秘奥義の使い手だからな。」
「勝手に秘奥義にしないで!あんなの二度と使わないわよ!」
尻尾を逆立て怒っているエリザ。でもただの猫だから全然怖くない。むしろ可愛いまである。
「えー、じゃあミルナの胸をエレンに移植して歌わせる?」
エレンの歌声は間違いなくプロ級。そこにミルナの胸が加われば観客も釘付けになるだろう。
「はああああ!?いらないわよ!あんな無駄な脂肪の塊!ぶっ殺すわよ!」
絶対嫌とエレンが叫ぶ。
「ちょっと!エレン!その言い方はあんまりですわ!」
最近はあちらこちらで踏んだり蹴ったりのミルナだ。可哀そうに。まあ大体アキのせいなのだが。
「冗談はさておき、まあ音楽を流して聞いてもらうのが現実的かな?」
エレンやエリスに歌わせれば臨場感があっていいが、やはり地球の音楽をこの世界に浸透させるのであれば、タブレットからプロの演奏と歌声を流して聞いて貰うのがいいだろう。下手に素人がしゃしゃり出ても仕方がない。アキの下手な歌声や演奏を聴かせても音楽布教の効果は薄いので論外だ。だからと言ってうちの子達を大勢の前に立たせて目立たせたくはない。彼女達もそんなのは嫌だと言っていた。
「なるほどね、アキ君の風魔法で音を増幅させればそれで問題なさそうね。」
エリザは納得したようで、それがいいわと頷く。ミルナ達も参加させられないようで、一安心といった顔をしている。
「持ち時間はどれくらいなんだろう?」
「えっとね、多分15分くらいよ。」
「そうか……なら3曲くらいか。どの曲を流すかはみんなに相談させてね。」
この世界で地球の音楽を初めて聴いたのはこの子達だ。きっと参考になる意見を出してくれるだろう。特にソフィーは音楽好きだから頼りになる。
「だからソフィー、頼むね?」
「……考えときます。」
あれ、おかしい。ソフィーのテンションがおかしい。いつもなら「まかせてくださいー!」と元気よく叫ぶだろうに。それなのに目も 合わせてくれず、不機嫌そうに呟いただけだ。ミルナ達もこれには違和感を覚えたようで首を傾げている。具合でもよくないのだろうか。
「ソフィー大丈夫?気分悪い?」
「だいじょーぶです。私の事は気にしないでください。」
ぶっきらぼうな返事だ。ソフィーにしては珍しいが、虫の居所でもよくないのだろう。これは暫くそっとしておいたほうがよさそうだ。
「とりあえず音楽祭はそんな感じで。その前にイリアだな。」
「明日ですわよね。私たちに何かできる事はありますの?」
あるなら何でも言ってくださいとミルナが意気込んでいる。まあいくつかお願いしたい事はあるが、ミスミルドに戻ってからでいい。
「何故ですの?」
「まだ旅行中だから難しいことを考えるのはやめようよ。明日イリアを呼び戻す前に一通り説明するからその時まではぼーっとしておこう。」
「なるほど。ふふ、そうですわね。わかりましたわ。」
ミルナが納得したようにくすくすと笑う。
ただ魔獣制度廃止については早めに話しておいてもいいだろう。色々と手配や調整が必要なはずだ。
「ベル、リオレンド王国には魔獣召喚廃止の話はしてるの?」
「ええ、お父様が打診しているはずです。」
よかった。それであればスムーズに事は進むだろう。
「廃止になったらベルは忙しくなるね。旅にもついて来られなくなるのかな。」
ベルは王女でありながら最近はずっとアキの側で支えてくれた。彼女の存在はやはり大きい。王女という身分だけではなく、聡明で冷静沈着。アキが不在の時はベルがしっかりとみんなをまとめてくれる。そして彼女はアキがお願いするまでもなく、必要な事を手配し、処理してくれるので、アキの手間も半分以下で済む。
後は単純にベルがいないと寂しい。忙しくなるのは仕方ない事だが、そういう意味でちょっと気になった。
「うふふ、意地でもついていきます。安心してください。私はずっとアキさんの側にいるんです。」
そう言ってベルが腕に抱き着いてくる。
「よかった。ベルのこれがないと寂しい。」
そう言うと、ベルが嬉しそうに笑う。
「あら……私達はいなくても寂しくないんですの?」
ミルナが頬を膨らませて拗ねる。
「そんなわけないだろ、皆いないと寂しい。いちいち言わすなよ。」
アキの言葉を聞いてミルナ達が満足気に頷く。
ソフィー以外。
これは本当におかしい。ベルを構ったらむしろ真っ先に拗ねて、文句を言ってくるのがソフィーだ。だが今日に限っては知らん顔して窓の外を見ている。暴走エルフでないと平和は平和なのだが、それがないとなんか調子が狂う。
「ソフィー、おいで。」
少し構ったほうがよさそうだ。そう思いアキはソフィーを呼ぶが、予想外の返事が返ってきた。
「……いやです。」
これはあれだ。
気分が悪いとかじゃなく、完全に機嫌を損ねているやつだ。ちなみに理由はなんとなくわかっている。うちの子達が考えている事なんて大体わかる。
ただミルナ達にとってはそんなソフィーの返事が意外だったのか、目を見開いて驚いている。
「どうしたのソフィー!?変なものでも食べた!?」
「そうよ!食べたならいますぐペッしなさい!」
リオナとエレンが大丈夫かと心配している。ただソフィーは2人の事も適当にあしらい、全く相手にしていない。ミルナやベルが「どうしましょう?」と心配そうにアキを見てくる。
とりあえずみんなには「大丈夫、なんとかするから。」と目配せしておく。これは馬車の中ではどうしようもない事だ。ミスミルドの屋敷に到着してからなんとかしよう。




