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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第十六章 サルマリア王国・王都リスルド
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 メビウスを連れて屋敷に到着した。すると「アキが帰って来た!」とうちの子達は親鳥を迎える雛のようにわらわらと出迎えに出て来てくれた。アキが無事で安心したのか、どこかホッとした表情をしている。しかしアキに続いて馬車を降りたベルが不機嫌そうにしているのに気づいたようで、全員が訝しげな表情を浮かべる。


「アキさん、ところでそちらの方は?」


 ミルナが尋ねてくる。


 馬車から最後に降りてきたメビウスの姿を見て、ベルが不機嫌な理由を概ね理解したようだ。


「ああ、協会長のメビウスさんだ。これから冒険者協会支部に行くんだ。」


 冒険者証に処理を施す装置を確認する為だとミルナ達に説明する。


「あれ?じゃあなんで戻って来たんですか?」


 ソフィーがいつも様に可愛い仕草で首を傾げる。


「セシル。」

「はい、私ですか?」


 アキがセシルを呼ぶと、兎耳をぴくぴく動かしながら近づいてきてくれる。


「元受付嬢だからセシルが一緒に来てくれ。ベルと交代だ。」

「なるほど!もちろんです!喜んで!」


 セシルは指名されて嬉しそうにしているが、呼ばれなかったうちの子達や交代させられるベルは大層不満気だ。


 そんな彼女達のただならぬ雰囲気を感じたのか、メビウスがアキに尋ねてくる。


「なあ、アキ君。彼女達は?」

「はい、私の大事な友じ……」


 友人と言おうとした瞬間、もの凄い殺気を感じた。


 まあわかってる。彼女達が言わんとしてる事、そして殺気を飛ばしている理由はちゃんとわかっている。しょうがない、言い直そう。


「彼女達は『俺の女』です。」


 一瞬にして満開の花が咲いたかのような空気になる。そしてミルナ達は満足気な表情を浮かべ、幸せそうに頷いている。本当にわかりやすい子達だ。それでいいのか。まあだから今日の対談にはベル以外連れて行かなかったわけだが。


「そうか……美少女ばかりだな。アキ君殴ってもいいかな?」

「ええ、いいと思います。」


 殴られても文句は言えない。自分が逆の立場なら同じことをするだろう。


「い、いや……やめておこう。君を殴ったら私は生きて帰れなさそうだ。」


 さすがの屈強なメビウスもミルナ達が放つ異様な空気にたじろいでいる。


「殺気出して威圧すんな。」


 特に殺気が強かったうちの子達の頭を引っ叩いておく。


「だ、だって!」

「だってじゃないだろ。」


 エレンが反論しようとしてくるが、アキの視線を受けて押し黙る。以前、エアルとミリーの件で怒られたのを思い出したようで、エレンはシュンとした顔で落ち込んでいる。


「でもありがとう。」


 まあうちの可愛い猛獣だ。少しは甘やかしておいてやろう。


「う、うん……。」


 エレンが頬を染めながら小さく頷く。そしてアキの一言を近くで聞いていたミルナ達も満足したのか、殺気を納めてくれた。


「愛されてるな、君は。」

「ええ、幸せな事です。」


 メビウスが苦虫を噛み潰したような表情だ。まあミルナ達が放った殺気を気にしている様子はないので助かる。


 だが後であの子達は説教だ。彼女達に覚悟しておけと視線を送るが「お説教は嫌」と必死の表情で抵抗してくる。ちょっと可愛いけどダメだ。許さん。


「不快な思いをさせてすいません。では遅くなる前に行きましょう。」


 あまりここで雑談していても仕方ない。やることをやらねば。

 アキはセシルの兎耳を握り、馬車へと乗り込む。


「なんで耳を掴むのおおお、手、手をひいてよおおおお!」

「さっきからぴくぴく耳を動かしているセシルが悪い。」


 一緒に行けるのが嬉しいのか、ずっと耳が可愛く動いていたのだから触るしかないだろう。それをずっと目の前で見せられていたアキの身にもなってほしい。つまりセシルは黙って触られるべきなのだ。


「我慢とか知りませんから!そんなアキさん事情わからないからあああ!」


 セシルは口では必死に文句を言ってくるが、なんだかんだ構ってもらえて嬉しそうにしている。当然うちの子達やベルがそんなセシルの表情に気づかないわけがない。


「王女様、あの兎あざとくありません?痛そうな振りをしてますわ。」

「ええ、ミルナさん。嫌がる素振りをして、ものすごく嬉しそうにしています。」


 ミルナとベルが皆に聞こえるように、わざとらしく声を大にして会話をしている。


 でも実際彼女達の言う通り、セシルの耳を強くは握ってないし、引っ張ってもいない。ただ優しく掴んで、そっと馬車の方へ誘導しただけだ。そしてセシルはそれに逆らわず素直についてくる。まさにただの茶番だ。


「あの兎、調子に乗り過ぎよ!丸焼きよ!」

「もぎもぎしたいですー。」


 エレンとソフィーが物騒な会話をしている。そしてレオは文句は言わず、いい子に黙っているが、目が笑っていない。あれは自分のアイデンティティを奪うなと言っている目だ。


 彼女達の反応を見るに、どうやらまた構ってあげないといけない時期が来たようだ。アキがこうやってセシルを特に構ったりすることがあるのは、実のところ、ミルナ達のストレス度を見る為でもある。勿論ただ単純に兎耳を触りたいという欲求があるのは嘘ではない。ただ皆の前で敢えてやっている理由はちゃんとある。


 アキの体は1つしかないし、そこまで器用な人間でもない。8人の女性を同時に均等に愛せるかと聞かれたら、答えはノーだ。だからこうやって焼きもちを焼かせて、誰が一番羨ましそうにしているのか、構って欲しそうにしているのかを見ている。うちの子達はまだわかりやすいが、アリアやエリスは基本的に一歩引いていて、決して文句を言わない。だからちゃんと観察しなければならない。


 大体観察くらいしかアキには特技がないのだから、大切な人達の為に使わないでいつ使う。勿論これがあまり褒められたやり方でないのは分かっている。こんなやり方しか出来ない自分は相変わらず人間として腐っている。でもアキには他にいい方法が思いつかない。だから自分を慕ってくれている彼女達の気持ちを利用して判断しているのだ。






 とりあえず冒険者協会に向かう為、セシルと馬車に乗り込んで屋敷を出発した。


 そして屋敷が見えなくなった頃、セシルがおもむろに声をかけてきた。アキ達以外の人がいる時にセシルから話かけてくるのはかなり珍しい。どうしたのだろうか。


「アキさん、みんな実はわかってるんですよ?」


 セシルが意味深な笑顔をアキに向けてくる。何の事だと一瞬逡巡するが、先ほどアキが考えていた事を指しているのだと気付く。


 表情には一切出してなかったはずだが……。


「アキさんを見ればわかります。あとアキさんは表情に出てないと思っているいみたいだけど、私達は見分けられるんですよ?知ってました?」


 まさかと思うが、うちの兎がそんな嘘を言うわけがない。


「まあ私達にしかわからないでしょうね。でも私達だからわかるんです。そうですね……到着まで少し時間あるようですし、私がアキさんにタメになるお話をしてあげます。」


 セシルはコホンと咳払いをして、少し前にあった出来事を話してくれた。






「またアキはセシルの耳ばっか触って!」


 エレンが頬を膨らませて怒っている。ずるい。自分だって撫でて貰いたい、構って貰いたいといった表情だ。

 

 さっきまでアキはずっと自分の兎耳を愛でていた。そして満足したらどこかへさっさと行ってしまったのだ。


「……僕の尻尾じゃダメなのかな?」


 レオも自分の尻尾を大事そうに抱きかかえて寂しそうにしている。最近は全然尻尾を触ってくれないから物足りない。でも自分から頼むのは恥ずかしい。アキから言ってくれたらすぐに触らせてあげるのに全然言ってくれない……という顔をしている。


 セシルはエレンとレオの考えを的確に読み取る。アキの言う通り、この子達はわかりやすい。すぐに顔に出る。まあ……人のことは言えないのだけど。アキにしてみれば、自分もチョロいだろう。でもしょうがないよね。だってアキだもん。


「そういえばアキさんはどこですの?」

「なんか自室で魔法印の研究すると言ってました。」


 ミルナとベルがアキの居場所を確認している。


 そしてアキが確実にいないとわかると、2人は口を尖らせてセシルに文句を言ってきた。念入りに確認したのは、アキに言い争っている醜い姿を見せたくないからだろう。まあ気持ちはわかる。あの人はすぐにセシル達の会話を盗み聞きするから油断ならない。


「みなさん……あの。そんな見ないでください。」


 全員から鋭い視線で見られているので、セシルは少し居心地が悪くなる。


「ちなみにセシルさんは何故アキさんが貴女の耳ばかり触るのかご存知ですか?」


 アリアが急に尋ねてきたので吃驚した。普段アリアはアキがいない場所では滅多に会話に加わる事はない。


「ええ……まあ、わかっています。」


 今度はミルナ達、ベル、エリスの方向を向いて同じことを問うアリア。


「みなさんは?」

「愚問ですね。当然です。」

「ええ、アキさんがセシルさんの耳を愛でている時の視線でわかりますわ。」


 ベルとミルナが即座に返事する。


「ええ、私もよ。セシルを撫でてるのに私達の事を見てるもの。」

「僕もわかる。僕達の様子を見てるね。」


 エレンとレオも同意するように頷く。


「アキさんはわかりやすいですー!」

「いや、多分わかるのは私達だけだと思うぞ?」


 ソフィーが元気よく、そしてエリスは苦笑しながらアリアの質問に肯定を示す。


「多分アキさんは表情を読まれてないとか思ってそうですわ。ふふ……私達がどれだけアキさんの事を見ているかもしらないで。」


 ミルナがくすくすと上品に笑う。そしてはっきりとした口調で告げる。


 アキは自分達を均等に愛してくれようとしている。でも8人も同時に出来るわけがないとも思っている。だからセシルだけを余分に愛でて、皆の反応を見ているのだとミルナが語る。


「そうですね、私もすぐにわかりました。」


 ベルがミルナの言葉を引き継ぐ。


 自分達は単純だからすぐそれに反応してしまう。演技出来ない事が全部彼にはばれている。それがちょっと悔しいと口を尖らせるベル。


「でもしょうがないです。惚れた弱みです。」


 アキはそんな自分達の反応を見て、誰が構い足りてないかを確認し、次に誰を構うか決めているのだ。


「私やミルナさん達はわかりやすいですが、アリアさん、セシルさん、エリスさんはわかりにくいですからね。アキさんは仕方なくやってるんだと思います。」

「そしてアキさんはそんな事をしてる自分をダメ人間だなとか思ってそうですー。気にしなくていいのに。……私達のせいですよね。ほんとにダメダメエルフです。」


 ソフィーが悲しそうな表情を浮かべる。


「そうね。我儘言っていつも困らせてるのは私達よ。」


 エレンにもいつもの勢いがない。


「でも僕はそんな優しいアキが大好きだけどね。」


 レオが微笑む。


 誰もがアキを独占したいと思っている。でもこんなに恋敵がいてはそれも難しい。それにアキにとっては全員が大事な仲間。だから彼はいつも必死に自分達が悲しまないように努力してくれている。


 そんなアキが大好きなのだとレオが誇らしげに語る。


「ミレーに居た時、私も言われたのだ。」


 今度はエリスだ。もっと我儘になれ、遠慮するなとアキに言われたとミルナ達に告げる。


「嬉しかった。私なんかをちゃんと見ていてくれた。」


 エリスは正直ミルナ達には敵わないと思っているらしい。自分とは違い、みんな美人で可愛い女の子。でもエリス自身はただただ戦闘しかできない。頭もよくないし、女の子らしくもない。それでもアキは自分を可愛い1人の女の子として扱ってくれるのが何より嬉しいのだとエリスは語る。


「私なんかを抱きしめて可愛いって言ってくれるんだ。」


 だから感謝はしていても、文句なんて何一つないんだとエリスは嬉しそうだ。


 勿論セシル自身もアキに愚痴なんてない。強かで、それでいて優しい。そして自分をすごく大事にしてくれる人。だからセシルもみんなに負けないくらいにアキが大好きだ。


「ほんと何が不器用ですか。器用すぎます。ここにいる全員、アキさんに対して文句が無いなんて普通ありえないです。でも……こうある為に、きっとアキさんは毎日一生懸命なんです。」


 ベルが呆れた顔で笑っている。


「そうですわね。でもちょっとだけ意地悪ですわ。」

「そうよ!あいつすぐに私で遊ぶのよ!一生懸命なのはわかってるけど……!」


 ミルナとエレンが口を尖らせている。だがやっぱりどこか嬉しそうだ。


「でもそうやって意地悪されるのも皆さんは好きなんですよね?」


 アリアが指摘すると、全員が頬を染めて恥ずかしそうに頷く。


「すぐに私の耳引っ張りますけど……痛くないし、絶対優しいですもん。」


 セシルは自分の耳を優しく撫で、言葉を続ける。


「だからきっと私達は今のままでいいんですよね。変に変わるとアキさんが大変そうです。」


 そのセシルの言葉に全員が「そうですね」と頷いた。






「どうですか?タメになりましたか?」


 セシルがドヤ顔で話を締め括る。


 だがアキはセシルの話を聞いて軽く落ち込んだ。完璧だと思っていた感情のコントロールがまさか皆にばれているとは思わなかった。これは修行し直さねば。アキは強く心に決める。


「違います!決意するとこおかしいですから!」

「わかってるよ。ばれてるとか恥ずかしいんだ。わかれ、このダメ兎。」

「なんで、私今怒られたんですか!」


 セシルが頬を栗鼠のように膨らませる。


 まあでも嬉しい事だ。地球ではアキの本心を見抜けるような人間はいなかった。でもミルナ達はそれを見抜いた。自分の事をそれだけ見てくれているのだから嬉しくないわけがない。


 それに不満も溜まってないようで安心した。ただあの子達は油断したらすぐに溜め込んで爆発しそうなので、これからも気にしてはやらないといけないだろう。


「別の方法考えるか……。」

「話聞いてました?今のままでいいって言ったじゃないですか!」

「ばれてる方法使っても面白くないし。」

「力入れるとこおかしいから!いいじゃないですか!」


 よくない。それになんか癪だ。これからセシルの耳を触る度、「アキさん頑張ってる、可愛い。」という目で見られるのがムカつく。あの子達にそんな目を向けられた日には片っ端から苛めたくなる。


 そして今はこの兎を苛めたくなった。


「でもセシルは帰ったら大変だな。頑張って捥がれろ。」


 アキの言葉を聞いてミルナ達の会話を思い出したらしいセシル。兎耳が不規則に慌ただしく揺れている。


「えっと……助けてくれるんですよね?」


 セシルが信じていますからねと見つめてくるので、はっきりと言ってやる。


「今回は一緒になって捥いでみようと思っている。」


 そしてセシルの兎耳をいつもより強めに引っ張る。


「強いから!いつもよりちょっとだけ強いからああああ!アキさああああん!」


 さすがに少し痛かったのか、涙目になって両手で兎耳をさすっている。


「お、おう……茶番はもういいか?もうつくぞ?」

「ええ、すいません。」


 メビウスが気まずそうに声をかけてきた。さすがに今の会話には入って来られなかったらしい。アキも途中からすっかり忘れていた。そういえばこのおっさんが一緒に乗ってたんだった。ついうちの兎が可愛いから団欒してしまった。


「俺、次からは馬車を別に用意するわ。その、色々邪魔して悪かった。」


 逆に謝られるとは思わなかった。これは反省だ。メビウスにとっては居心地の悪い事この上なかっただろう。この前うちの子達に客人をないがしろにするなと怒ったばっかりなのに、これでは人の事は言えない。まあメビウスは正確には客人ではないが。


「本当にすいません。」

「気にするな、構わん。」


 本気で謝るアキが面白いのか、セシルが隣でくすくすと笑っている。きっとアキのこんな姿を見るのが珍しいのだろう。

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