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異世界の観察者  作者: 天霧翔
第十六章 サルマリア王国・王都リスルド
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3

「それでは協会についていくつか教えてください。」

「おう、いいぞ。」


 まずは冒険者協会の現状について確認しておきたい。メビウスがきっちり全てを把握しているのか、それとも怪しい動きをしている人物はいるのか等だ。さらには今アキが話した情報を知っていそうな人物がいるのであれば教えて欲しいとメビウスに頼む。


「把握しているぞ。俺は自分で見た物しか信じないのでな。」


 なんでもメビウスは報告書を読むのが大嫌いで、各国の協会支部を適宜回って支部長とは直接会議をしているらしい。その時に少しでも気に入らない事があれば問いただすし、怪しい人物がいれば締め上げるとのこと。


 何とも暴力的な協会長だ。


「どんな些細なことでも報告させている。支部長とは全員会ったことがある。俺が各国を訪れる際は必ずその国の支部長全員を集合させるからな。」


 協会の構成は一般的な会社のようなピラミッド型ではなく、支部長全員がメビウスの下についているような状態らしい。


「ということはレイアのババアのことも知ってます?」

「ふっ、そうだな。あのババアの事もよく知っているぞ。」


 アキがレイアの事をババア呼ばわりしたことが気に入ったのか、メビウスが楽しそうに笑う。


 口は悪いが真面目なやつだとメビウスは話す。アキもレイアに関しては同じ評価だ。メビウスの人を見る目は確かなようだ。まあエルミラが信じている人間なのだから、さすがにそのあたりの能力はあるのだろう。ただアキやエルミラのように理論的に人間性を見抜くのではなく、メビウスの場合は直感というか感覚だ。だが、時に勘は理論をも超える。研究者としては納得いかないが、そういう人間が実際にいるのも事実だ。


「もちろんレイアだけじゃなく他の支部長もだ。今の支部長は全員俺が信じられる人間だ。気に食わないやつは既に叩き出した。だから間違いない。」


 はっきりと断言するメビウス。


 メビウスには何故かついていきたくなるようなカリスマ性がある。暴力的で野蛮だが、上司として尊敬できる。厳しいが優しい。そんな人間なのだ。メビウスのカリスマ性に魅入られた支部長達が、彼の下についているのだとアキは推測した。


「さすがに受付嬢や職員までは把握してないがな。でもそれは支部長達が把握しているだろう。そして俺が信じる支部長がその指導をしているのだから問題ない。不穏なやつは支部長が叩き出しているはずだ。」


 アリステールの冒険者協会を見ても確かにそうだ。冒険者どもは屑が多かったが、協会の職員や支部長のレイアは全くそんな事はなかった。真面目で誠実な人間だった。セシルを見てもわかる。彼女からは一回も同僚や協会についての愚痴は聞いたことがない。前に興味本位で受付嬢時代に大変だった事を尋ねた事がある。その時は「職場としては最高でした、ただ冒険者が屑でゴミでした」と辛辣な事を言っていたのを覚えている。


「総括すると、立ち入り禁止エリア関連に関する情報を知っている者はいない。そして怪しい人物もいないということでいいですか?」

「ああ、そうだな。」


 あくまでメビウス主観の意見だが、信用しても問題ないだろう。末端の職員が重要な情報にアクセスできるとも思えない。だからもし末端の人間に不穏な人物がいてもたいした脅威にはならないと考えられる。そして支部長クラスに関してはメビウスが直接確認している。よって冒険者協会は魔獣政策に関しては無関係と言っていい。


 ただ、協会がシロという事になると、魔獣政策に関する新しい情報を得られる可能性はなくなった。メビウスを見てもそれは一目瞭然だ。オリハルコンの事など何も知らなかったのだから、支部長クラスでも知らないだろう。


「ではもう1つだけ教えてください。というよりお願いがあります。協会で冒険者が依頼を受ける際、冒険者証に処理を施す機械がありますよね?」

「ああ、あるな。」

「あれの仕組みわかります?」


 アキの質問にメビウスはまったくわからんと首を横に振る。まあそれは想定の範囲内だ。


「だからこそあれを調べさせて頂きたいのです。」


 新情報を得られないのであれば、自分で調べる方向に切り替える。協会に協力をしてもらえるのであれば、冒険者に関する事は調べたい放題だ。そこから新たな手掛かりを探っていくのがいいだろう。


「なるほど……アキ君なら何かわかるかもしれんな……。」


 ちなみにアキがオリハルコンを持っていて、召喚や転送に成功したことは、ミルナ達にしか言っていない。メビウスに対しては魔法印を調べて解析しているという事にしてある。さすがにオリハルコンを使って莫大な大気魔素を好き勝手利用できるなんて広めるわけにもいかない。今後ミルナ達以外で話すとしたら、王族だけだろう。


「いいだろう、適当な理由をつけてアキ君に貸し出そう。ただ冒険者協会から出すわけにはいかん。各支部に1つしかないので貸し出すと依頼処理ができなくなるのでな。」


 それは仕方ない。丸一日依頼を受ける事ができないとなったら冒険者達から反感を買うに決まっている。早朝や深夜の依頼処理が少ない時間にこっそり調べさせて貰う形になるだろう。


「勿論それで構いません。」

「では今から協会にいくか。」

「今からですか。」

「駄目か?」

「いえ、問題ありません。お願いします。」


 さすがに今からとは思わなかっただけだ。アキの予想は後日だったので、少し驚いた。多分メビウスの性格上、善は急げ、思い立ったが吉日なのだろう。


 まあメビウスが問題ないというのであればアキに異論はない。


「構いません。ただ1人同行させたい者がいるのですがいいでしょうか。」

「おう、構わんぞ。」


 冒険者協会に行くのであればセシルを連れて行きたい。彼女の受付嬢時代の経験が識別刻印装置の解析に役に立つ可能性がある。


「ベル、悪いけどセシルと交代だ。協会にはセシルを連れて行く。」

「はい。それが最善でしょう。構いません。」


 ベルは素直に頷く。


 てっきり拗ねるかと思ったので、珍しい事もあったものだと感心する。ただ次の瞬間、笑顔で脇腹を抓ってくるベル。やっぱり拗ねてはいるらしい。


「では俺の屋敷を経由してからでよろしいですか?」

「そうだな、馬車に同乗させてもらおうか。」


 さらにベルに無言で脇腹を殴られた。どうやらうちの王女様はアキとの時間を邪魔されるのが大層不満らしい。口には出さないが、さっきからアキへの仕打ちが酷い。後でちゃんとご機嫌とりをする必要がありそうだ。

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