8
翌日の朝、アキはデジャブに見舞われている。少し前と全く同じ光景が繰り返されていた。ミルナが床、アキがお話。面倒なので詳細は割愛するが、ミルナだけアキと添い寝してずるいとのこと。ソフィーは前科があるので強くは言ってこないが、エレンやレオが拗ねている。でも拗ねているだけで怒ってはいないようだ。
「アキ、聞いてるの?」
「どこ見てんのよ!こっち見なさい!」
レオとエレンが頬を膨らませている。
「エレン。リオナ。」
「なに?」
「な、なによ。」
「ずるいっていうなら今夜2人もおいで。」
もうこれが一番の打開策だと思うので、2人にも添い寝しに来いと提案する。どうせいつか来そうだし、それなら自分から呼んでおいた方が効率的だ。
「な、なにいってるの!ま、まだそういうの早いっていうか、なんていうか!」
「こ、この変態!私に何をする気なのよ!」
レオとエレンが激しく取り乱す。
「なんもしないけど?嫌なら別にいいよ?」
こう言えば2人は断らない、断れない。汚いやり方だとは思うけど、平等に皆を構うには必要な事だ。
「嫌じゃないけど……うぅ……じゃあいく。」
「わ、私も嫌じゃないわよ!覚悟しなさい!」
覚悟しなさいってアキが何かされるのだろうかと苦笑する。だがこれで2人も納得して機嫌を直してくれるだろう。
「あらあら、アキさん。着々と酒池肉林を作ってるんですね?」
ベルがにこにこしながらリビングに入ってくる。
「人聞き悪いこと言うな。作ってないわ。」
「うふふ、説得力皆無ですよ?」
「まあな。自分でもそう思う。ならベルも俺の酒池肉林に入る?そういう風に開き直ったほうがいいかな?それの方がいい気がしてきたよ。」
むしろその方が精神的にも大分楽ではないだろうか。
「わ、私に聞かないでください。ばかっ。」
何故か照れるベル。
「で、朝からどうしたの?」
真面目な話に切り替えると、ベルも表情を整え、アキの質問に答えてくれる。
「ええ、今後の予定をすり合わせておこうかと。」
確かに今日からの予定はまだ話してない。アキの事を気遣って、話は後日でいいから休むように、と昨日は言ってくれたのだ。
「じゃあ俺の予定から伝えるよ。」
「はい。」
「今日は魔法学校へ行って、依頼の確認。魔法組合の事をついでに調べてくる。その後、指定の日から1週間依頼を行う。同時に爺ちゃんやベルと連携して情報収集の予定だ。そして依頼完了後はみんなと観光かな。」
ミルナ達やベルにエスペラルドで話しておいた通りだ。特に変更はない。表面上はだが。切欠があれば、外套の人物に接触をする予定もあるが、それは内緒だ。
「問題ないと思います。私は予定通り国務でほぼ毎日王城の方へ行くことになります。」
少しだけつまらなさそうな顔をするベル。
「頑張れ。空き時間があったら言って。ベルの為にいつでも時間作るから。」
「は、はい!」
嬉しそうに返事をするベル。これで少しはやる気を出してくれるだろう。
「勿論ミルナ達、アリア、エリス、セシルもね。買い物にでも行こうね。」
皆も楽しみですと頷く。個人的にもミレーを早く散策したいので、さっさと依頼を片付けてしまいたい。
今日は魔法学校で打ち合わせをするだけだし、終わってから少し散策してみてもいいかもしれない。
「アリア、セシル、学校に同行してくれ。従者を連れていれば長く引き留められたりはしないだろう。あと2人の観察眼にも期待している。」
「「はい。」」
2人は喜んで頷くが、うちの子達が相変わらず拗ねている。
「ミルナ達は別の仕事があるからね。冒険者協会、街中に行って雰囲気を探ってきて欲しい。みんなエスペラルドのSランクだし、ミレーで女性のSランクともなれば色々聞けるだろう。男である俺よりもね。とりあえず4人で行動しろ、後イリアの事は聞くな。」
「なるほど……。」
ミルナは頷くが、イリアの事を調べるなと言ったのが気になっているようだ。
アキはその理由を彼女達に説明する。
ベルやアイリスの事があったので、立ち入り禁止エリアに繋がる事を調べているという事実を漏らしたくないのだ。自然と耳に入る情報を聞くだけにしろと伝える。調べていい事は女王の評判、ミレーのSランクについて、協会でよく依頼されている内容などだ。
「あと『エスペラルドの人はよく見ますか?』くらいは聞いていい。何か面白い情報が出て来るかもしれない。ミルナなら上手くやれるだろう。」
ソフィー、エレン、レオには街で質問をする前に、ミルナに確認してからするようにと指示をする。3人も、ミルナの事はちゃんと信頼しているようで、素直に同意してくれた。
「ポンコツお姉さんだけど、しっかりしているもんね。」
「ポンコツは余計ですわ!」
ミルナが口を尖らせる。
でもなんだかんだアキに頼られて嬉しいのか、頑張りますと気合は十分だ。これなら問題ないだろうとアキも安心する。ミルナ達に情報収集を任せるのは、実は裏の理由がある。もし外套の人物がイリアなのであれば、ミルナ達の存在に気づいて何かしらの行動を起こすかもしれない。意識されると困るので彼女達には言わないが。
「夕方までには戻るように。ベルもそれくらいには戻れる?」
「はい、大丈夫です。」
「じゃあ戻ったら全員で情報を共有だな。これはどんなに忙しくても、遅くなったとしても毎晩やろう。理由は……言うまでもないね?」
「ええ、知っているといないとでは翌日の情報収集効率に影響がでます。」
ベルが当然わかってますと微笑む。他の子達もうんうんと頷いているので大丈夫だろう。
「ベル、王城まで護衛できなくてごめん。気を付けて。」
「はい、アキさんがいないので念には念をいれていつもの倍は護衛を付けます。」
それなら問題なさそうだ。
アキの予想では、数日は問題ないと思っている。何故ならベルに続いてアイリス女王の暗殺にも失敗している。この2国が確実に警戒を強めているのは誰の目から見ても明白だ。つまり今動くことはしない。もし次動くとしたら、暫く泳がせておいて油断したところを狙ってくるだろう。
「とりあえず力を抜いてミレーを楽しもう。気合入れ過ぎてもいい事ないしね。じゃあ各自今日もよろしく。俺も頑張ってくるよ。」
アキが朝礼のような打ち合わせを締め括る。
「アキさん!」
ソフィーが元気よく叫ぶ。何か言い忘れた事でもあっただろうか。
「どうした、ソフィー。」
「魔法学校で何人くらい落としてくる予定ですか?事前に教えておいてください。お話計画を練る必要がありますので。」
偉そうな顔をして胸を張り、アキの前で仁王立ちするソフィー。
「このバカエルフが。」
とりあえず頭を引っ叩く。
「うう……だってー!」
殴られたところを撫でながら、ソフィーが涙ながらに訴えてくる。
「アキさん、私もソフィアルナさんに同意です。何人くらい落としてくるご予定ですか?」
「ベルまで何言ってるんだ。」
うふふと妖艶に笑うベルを見て、呆れた表情を浮かべるアキ。
「では1人も落としてくる予定は無いということでよろしいですの?」
今度はミルナがベルの言葉を引き継ぐように問いかけてくる。不気味に笑っているのが少し怖い。
「当然ないけど。」
ミルナとベルが顔を見合わせ頷き合っている。そしてアリア達を含む全員がしてやったりと言った表情でアキを見つめてくる。
「え、なに?」
一体どうしたというのだろうか。彼女達は何か通じ合っているようだがアキにはさっぱりだ。
「アイリーンベル王女殿下、お聞きになりました?」
「ええ、ミナルミアさん、この耳でしかと。」
「私もはっきりと聞きました。」
嫌な予感しかしない。
「えへへ、アキさーん、つまり1人でも落として来たらものすごく長いお話をしてもいいってことですよねー?」
「覚悟しなさい!アキ!自分で言ったのよ!」
「僕も聞いたからね。お話させないでね?」
ソフィー、エレン、レオが満面の笑みだ。
なるほど、そういうことか。
「アキ、男が言ったことには責任をもつのだぞ!」
「破ったら耳禁止にしますからね?」
エリスとセシルもこの件に関してはどうやら完全にミルナ達サイドのようだ。
つまり彼女達は「女を落とさない」とアキから言質が取れた事に満足しているのだろう。だがアキはついつい苦笑してしまう。彼女達の自分に対する甘さに。
「あー、何笑ってるんですか!真剣なんですよー!」
ソフィーが頬を膨らませる。
「いや、お話だけでいいの?連れてきたら怒るとか、俺を嫌いになるとか、見捨てるとかくらい言えばいいのに。」
アキに言われて気付いたのか、皆がそっぽを向いてしまう。一切こっちを見てくれない。そして皆ぶつぶつと何かを呟いているようだ。
せっかくだし聴覚強化して聴いてみよう。
「それができたら苦労しないですわ。」
「惚れた弱みです……。」
「嫌うなんてできないもん……。」
ミルナ、ソフィーとセシルだ。そしてエレン、レオ、エリスも似たような事を言っていた。
「出来ないから困っているのに。アキさんのばかっ。」
これはベル。
「アキさん、今日の皆の下着の色は……。」
アリアには意味の分からない報告を聞かされた。どうやら彼女はアキが聴いている事に気づいている。そんな有能メイドとしての察知能力をこんなところで発揮しなくてもいいものを……。
まあ皆にばらさないでくれているから感謝しよう。アキはアリアに「ありがとう」と目で合図しておく。
「あら?アキさん、皆の下着の色をお伝えしたのに聞こえませんでした?魔法を使って皆の独り言聴いていましたよね?」
おいやめろ。余計な事言うな。この毒舌メイドは絶対わかってやっているだろ。主人を苛めるな。
その後ミルナ達にめちゃくちゃ怒られた。