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自室へと戻り別途に寝転がる。
アキはこの別館で一番大きな部屋にいる。おそらく主寝室だろう。ミルナ達が「アキさんはここです」と言って聞かなかった。アキとしては別にどこでもよかったので、ミルナ達に素直に従った。
「しかしやっと1人で考え事が出来る。」
ミレーに到着するまでも、してからも、ずっとバタバタしていた。移動中はずっとミルナ達と一緒だったし、着いてからも公爵の件や闘技大会があり、落ち着く暇がなかった。明日からも、魔法学校の講師依頼を確認したり、やらなければいけない事はまだまだ山積みだ。
だがやっと一息入れられる。アキは束の間の休息を楽しむ。
「どの国も魔獣制度を容認しているのはベルの言う通り変化が怖いだけなんだろうな。」
今日、闘技大会で観察した限りだと、ベルの言った通りの人達だった。真面目な統治者達だ。アキの観察眼を掻い潜って欺いていない限りは間違いない。当然欺かれていない自信はあるので、そうなると、アキが魔獣制度廃止に動いても敵対してくることはないだろう。むしろ支援して貰える可能性の方が高い。各国に、現行の魔獣制度のデメリットと代替案を説明すれば説得出来ると考えられる。もし敵に回る事があっても、その都度対応すればいいだろう。
「魔法組合についてもおそらく問題ない。」
多分アキに純粋に興味があって依頼したのだろう。魔法談義がしたいだけだ。それはアイリスへ依頼内容が伝わっている点から推測できる。あの真面目な女王が依頼に懸念を抱いていない。もし怪しい動きを組合がしているなら、何かしらの助言はしてくれただろう。勿論組合の人間がアキ並みに真っ黒で、アイリスすらも上手く利用している可能性もあるが。
ただベルも組合についてはそんなに心配してないように思える。優秀なうちの王女様の事だから、オリハルコンの役割や大気魔素の直接利用の話をアキから聞いた後、魔法組合を間違いなく調べているだろう。ベルがしない訳がない。その彼女がアキに何も報告して来ないのだから組合はシロと考えても大丈夫だ。
「依頼の打ち合わせをしに魔法学校へ行った時に一応探ってみるか。」
それより問題なのが、王家を狙っている人物がいる、という事だ。小柄で、剣を携えた外套の人物。イリアの可能性も十分にあるし、全く関係のない人物の可能性もある。ただベルだけでなく、ミレーの女王であるアイリスも狙ったという事を考慮すると、エスペラルドや特定の国に対する私怨ではないだろう。各国の王家を狙う理由となると:1.現行の犯罪制度に不満がある 2.各国を乗っ取り、大陸支配を狙っている。アキが思うに後者の可能性は低い。大陸支配を目論んでいるのなら、1国ずつ落としていくべきだ。ベルの暗殺を失敗したのにアイリスを暗殺するのはさすがに計画性が無さすぎる。
「多分、前者だな。魔獣制度をよく思ってない。」
もし本当にそうなら、是非その黒幕に接触したいと思っている。ベルやアイリスの性格を知らないから実力行使に出ているのだろう。ベルの考えを理解しているのなら、対話という手段を取っているはずだ。
だからアキはその人物に協力を仰ぎたい。実力行使に出る必要はない事を説明し、アキに協力するように説得したい。黒幕がイリアなら尚更最高なんだが、まあ……そう上手くはいかないだろう。とりあえずその黒幕と協力関係を結べれさえすれば、今まで以上に効率的に事を進められる。イリアや魔獣制度の事を解決するにあたり、裏の世界の人間と繋がっておいて損はない。
「ミルナ達やベルに気付かれずに接触する方法を考えるか。」
とりあえずエスタートの爺さんがもうすぐ到着するし、一度相談をしてみよう。黒幕への接触は最優先事項だ。交渉が決裂したとしても、何かしらの情報を得られる可能性は高い。
しかしこう考えるとやはりベルの存在は大きい。彼女のおかげで様々な情報が勝手に入ってくる。王女と交流を持てたのはかなり嬉しい誤算だ。完全に懐かれ慕われてしまったのも誤算だが……。
「ミルナ達には申し訳ないな。わかっているんだけどな……。」
最近はずっとベルと一緒にいるからミルナ達の事を全然構ってあげられてない。だがそれは仕方ない事ではある。ベルの護衛依頼を受けているし、王女の権力や情報力がやはり強大であるからどうしても彼女といる時間が増えてしまう。ミルナ達もわかってくれてはいるだろう。だが頭でわかっていても、納得はしてくれない。うちの子達はすぐに感情的になって我儘を言ってくる。
「まあそこがあの子達のいいところなんだけどな。」
アキは感情より理性を優先してしまう。研究者であるが所以なのかはわからないが、理論立てて物事を理解してしまう。どう動くのが一番効率的か、自分にメリットがあるか。ミルナ達のように感情の思うがままに振る舞う事が出来ない。だからこそうちの子達が羨ましい。そしてそんな彼女達がアキは好きだ。
きっとベルもミルナ達には似たような感情を抱いているだろう。王女であるが故、素の自分でいる事は許されない。エスペラルド王国第一王女として振る舞わなければならない。
「俺がミルナ達のようになれる日は来るんだろうか。」
多分来ないだろう。自分の柔軟性の無さに苦笑する。
コンコン。
扉がノックされ、思考を途絶させられる。こんな時間に誰だろうか。
ノックするという事はアリアか。いや、前回はそれでソフィーだったから先入観で判断するのはよくない。アキはベッドから起き上がり、ソファーへ移動しつつ返事をする。
「入っていいよ。」
「し、失礼しますわ。」
ミルナが扉を開けて入ってくる。
「だからエロい格好でくんな。」
アキは溜息を吐く。以前アキの部屋に来た時と同じ格好だ。つまりTシャツ1枚だ。相変わらずミルナがするとエロい。エレン達なら可愛いと思えるが、ミルナがするとただただエロい。
「い、いいんです!アキさんしかいないからいいんですの!」
よくわからない理論を展開するミルナ。
「ミルナがいいならいいけど。座る?」
「は、はい。失礼しますわ。」
緊張した面持ちでミルナはアキの隣に腰を下ろす。正面に座ったら丸見えになるとさすがに前回で理解してくれたようだ。しかし座ったのはいいが、ミルナは微妙な距離を開け、背筋をピンと伸ばしている。本当に何をそんなに緊張しているのだろうか。
「で、どうしたの。純白。」
「略さないで!呼ぶならせめて名前までつけてよ!」
これで少しは緊張が解けただろうか。後、否定しないところを見るとやはり今日も純白なのだろう。
「ア、アキさんー!」
ミルナが意を決して叫ぶ。
アキはとりあえず彼女の頬をおもいっきり抓る。
「いひなりひゃにー!」
「覚悟を決めて何かを言おうとしてたところ悪いが、俺から1つ重大な要件がある。」
一旦彼女の頬を抓るのを止め、はっきりと告げる。
「な、なんですの?」
「ソフィーもそうだったけど、ミルナもちゃんとノックできるんだな?」
再度頬をおもいっきり抓って説教する。
「何故お前はいつもいつもノックしないで入ってくるんだ。理由を簡潔に30文字以内で述べよ。」
「うぅ……だってぇ……アキさんの油断しているところが見たいからですわ……。」
やはり碌でもない理由だったので、ミルナの頭を引っ叩いておく。
「ひゃん……さっきから抓ったり殴ったり酷いですわ……。」
「自業自得だろうが。で、どうしたの?」
説教はとりあえずこれくらいでいいだろう。改めてミルナに本題を尋ねる。
「せっかく覚悟決めたのに……また30分くらいかかりそうですわ……。」
「よし、帰れ。」
30分も待ってられないので明日にしろと、彼女の腕を掴んで追い出そうとするが、必死に抵抗してくる。
「待って!待ってください!……こうなったらもう強硬手段ですわ!えい!」
ミルナが頬を染めながら抱き着いてくる。そして必死に豊満で柔らかい胸を顔に押し付けてくる。いきなりどうしたのだろう。
「胸がおもいっきり当たってるけど、恥ずかしくないの?」
アキは特に取り乱す事なく、平常心で尋ねる。正直こういうのはソフィーのおかげで免疫がついた。
「は、恥ずかしいですわ!死にそうですわ!」
「じゃあやめなよ。」
「ダメです。少しだけこのままお話を聞いてください。」
ミルナが優しく優しく抱きしめてくる。
「アキさん、貴方は大丈夫なんですの?」
ミルナが悲し気に囁く。
「なんで?」
「アキさんは最近人を殺し過ぎです。大丈夫なんですか?無理してないですか?辛くないんですか?私は心配なんですの。お願い、お願いだから無理しないで。」
アキは彼女達を構ってあげられてない事を心配していたが、どうやらミルナ達はそれに不満があるわけではないようだ。むしろ最近のアキの行動が心配で心配で仕方ないらしい。確かに彼女の言う通り、ここ数日でかなりの人数を殺めた。ミルナはアキが精神的に無理をしているのではないかと憂いてくれているのだ。
「そ、その女を抱かなくても大丈夫なんですの!ひ、必要なら、私を!」
心配してくれる気持ちは本当に嬉しいが、少し変な方向に暴走しているミルナ。
「なんでそうなる……一旦落ち着け。」
「でもでも!」
駄々っ子のように首を振るミルナ。でもアキは彼女をそんな理由で抱きたくない。ミルナ達は特別で、大切な存在なのだから。
とりあえずミルナを落ち着かせ、隣に再度座るように促す。
「気持ちは嬉しい、それじゃダメか?」
「アキさんは私を抱きたいと思わないんですか?魅力ないですか?」
いつのものように、アキを誘惑する為に不敵な笑みを浮かべる彼女はそこにはいなかった。真剣な、そしてどこか悲しそうな表情だ。
「そりゃ思うよ。ミルナは可愛いからね。でも俺達は恋人じゃない。それにイリアの事も終わってない。ソフィーにも言った事じゃないか。」
アキはミルナを優しく撫でてやる。彼女は自分のやっている事の矛盾に気付いたのか、肩を落として俯く。
「そうです……よね。自分でもなんとなくわかってました。……でも!でも!気持ちが言う事を聞かないんです!アキさんに!アキさんと!」
理性ではわかっているけど、つい感情が暴走してしまうのだろう。でもそれがミルナのチャームポイントだ。彼女のように感情を優先する事が自分には決して出来ない。だから可愛いと思うし、羨ましい。ついさっき考えていた事だ。
「ア、アキさんは私の事、お嫌いなんですの……?」
アキが何も言わないから不安になったのか、ミルナが涙目で聞いてくる。
「なんでそうなる。なんて言おうか考えていただけだ。」
アキはミルナの両肩に手を置いて、見つめる。
「ミルナ。」
「は、はい。」
緊張した面持ちで返事をするミルナを優しく抱きしめる。彼女の綺麗なアクアブルーの髪から仄かなシャンプーの香りがした。そして彼女の柔肌はとても心地がよく、ついつい理性を忘れてしまいそうになる。
「ア、ア、アキさん?」
「1回しか言わないからな。相変わらずミルナはポンコツだよね。感情を抑えられない。誘惑も下手。それなのに無駄に積極的なんだよな。でもね……俺はそんなミルナが好き。いつも側にいてくれて、優しくて、それでいてどうしようもなく我儘でやきもち焼きのミルナが好き。」
アキはミルナを抱きしめたまま優しく撫でてやる。
「イリアの事が終わって、もしそれからも俺と一緒に居てくれるなら、ずっと居て欲しい。慕ってくれてありがとう。」
ミルナのおでこにそっと口付けする。今はこれで勘弁して欲しい。女性経験のない自分には未だこれが限界だ。そして本当に勉強しておかないと不味いと心の中で苦笑する。イリアの件が片付いたら襲われそうだ。特にソフィーあたりに。
「アキさん……好き。これからもずっとずっといてくれないとやだ。」
「ミルナがそう言ってくれるなら喜んで。」
「うん、やった。今日はここで寝てもいい?」
「そうだな、今日はミルナの番ってことで。」
ミルナが涙目だ。ただ嬉しそうに微笑んでいるから嬉し泣きだろう。
アキがベッドに移動すると、ミルナが隣に潜り込んで来て幸せそうに抱きしめてくる。抱き枕替わりだろう。まあ今日は彼女の好きにさせてあげよう。
「ねえ、1つ聞いていい?」
今日はもう素のミルナでいくらしい。アキとしてはこっちのミルナの方が好きなので大歓迎だ。
「なに?」
「ソフィー達は絶対アキさんから離れない。私と一緒だもん。でももし王女様、アリアさん、セシルさん、エリスさんもアキさんとずっと一緒にいたいって言ったらアキさんはどうするの?」
「うーん……。」
どうしようか。
実際にそうなりそうな気しかしない。多分アキが彼女達に交際を申し込んだら喜んで頷いてくれるだろう。彼女達の言動を見ていればさすがに慕ってくれている事くらいはわかる。それにベルやアリアあたりにはいつか本気で既成事実作られそうだ。別に慕われる様に行動したつもりはなかったのにどうしてこうなった。
勿論アキも彼女達の事は気に入っているので、慕って貰えるのは嬉しい。ただ女たらしの称号を与えると言われても仕方がないレベルだ。とりあえず今度こそは絶対にこれ以上増やさないように気を付けようと心に誓う。
「ふふ、答えなくていいよ。アキさんが彼女達を無下に出来ないのなんて知ってる。私はいいと思う。彼女達もそれを望むならみんなで仲良くすればいいんじゃないかな?」
「でも俺にそんな甲斐性があるかどうかが問題なわけだが。」
「大丈夫、なんなら皆でアキさんを養えばいいんだもん。」
ミルナがくすくすと可愛らしく笑っている。
ミルナの声を聴いていたら心が落ち着いたのか、心地よい眠気に襲われる。やはりここ数日は結構無茶をしたので精神的に疲れていたのかもしれない。ミルナの温もりに心地よさを感じながらアキは夢の世界へと旅立った。




