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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第十章 ミレー王国闘技大会
151/1143

3

 女王の側仕えに案内され、アキは闘技場のステージへと向かう。ミルナ達は何が起こっているか分かっていないだろう。きっとアキがSランク戦に出てきたら驚いて、心配されるに違いない。うちの子達の過保護さは尋常じゃないからなと苦笑する。


 ベルの事はエアルとミリーが「私達が代わりにお守りします」と言ってくれたので問題ない。あの2人は真っ直ぐな目をしていた。言動にも不信感はない。ミルナ達のようにいい子だろう。安心してベルを任せられる。


 それに女王を観察した結論として、ミレーの女王は魔獣関連の情報を一切漏らしていないと言える。当然ミリーとエアルもその事は一切知らないだろう。つまりベル暗殺計画の裏にいる人物ではないと判断出来る。


 そんなことを考察していたら、いつの間にか闘技場の入り口に到着した。側仕えの人に少し待つように言われたので、待機する。おそらく実況が紹介でもするのだろう。目立つ予定は無かったが、こうなった以上、逆に目立ってやろうと覚悟を決める。有名になれば色んな情報収集の役にも立つ。それに魔法学校の生徒にもアキの魔法を見せつけられる。講師としていく際、なめられては癪だ。


「ではお待ちかねのSランク戦です!なんと!なんと!今年は特別!エスペラルド王国のSランクが王女殿下の護衛としてこられていて、我が国の女王陛下が参加するようにお願いしたらしいぞ!Sランクのミリーとエアルも同意したらしい!」


 実況が面白おかしく会場を盛り上げている。


「ではご紹介しましょう!エスペラルド王国Sランク、メルシアのアキさんです!情報によると魔法を得意とするSランクらしいので魔法学校の生徒は要注目だぞ!」


 側仕えに促され、闘技場へと出る。歓声が上がるが、歓迎されているのかどうかはわからない。まあこの雰囲気はエスペラルド闘技大会で経験しているので、特に緊張はしない。それよりもうちの子達がどうしているかが気になり、ミルナ達が座っている方へと目を向ける。


「なにやってるんですの!アキさん!」

「アキさん、怪我、怪我はだめですー!」

「やるからには殺すのよ!」

「アキ頑張ってー!」


 ミルナ、ソフィー、エレン、レオが何か叫んでいるのはわかる。だが当然聞こえるわけがない。ただあの子達の言葉は手に取るようにわかる。間違いなくそう叫んでいるだろう。隣にいるアリア、セシルとエリスは手を振って普通に応援してくれている。3人とも何も心配してないようだ。ベルの方にも視線を向けると少しだけ微笑んでくれた。きっと頑張れという事だろう。


「それでは準備はよろしいでしょうか!」


 アキは闘技場に上がり、対戦相手である闘技大会優勝者を観察する。男2人に女性1人。相も変わらず魔法職はいないようだ。抜刀して構えている得物を見るに、女性が短剣、男性2人が長剣の近接戦闘に特化したチーム。いつもならアキも抜刀して構えるのだが、今回はあくまでパフォーマンス重視で行くつもりだ。外套を取り、自分の得物である太刀の月時雨を見せる。抜刀はしない。納刀したまま、魔法のみで勝負を決める。


「おおっと、Sランクのアキさん、抜刀はしない様子……それでは行きますよ!」


 アキの様子を見た対戦相手の冒険者達は警戒する。怒り狂ったり、冷静さを失わないのはたいしたもんだ。さすが闘技大会優勝チーム。


「では、はじめ!」


 開始の合図と同時に3人はアキに向かって地面を蹴る。だが即座に転倒し、地面に転がる。


「3人同時に転びました!どういうことだ!アキさんが何かしたのか!」


 別に敬称なんてつけなくていいのにと苦笑する。一応他国のSランクなので気遣ってくれているのかもしれない。


「立ち上がった3人の足に無数の切り傷があるぞ!どういうことだ!」


 いつも通り視認性の低い氷刃を飛ばしただけだ。さすがに殺すのは不味いだろうから殺傷力の高い魔法は使えない。まあエスペラルド闘技大会の時と同じようにパフォーマンス重視で決着をつければいいだろう。


 アキは続けて氷矢を飛ばす。躱せる程度に速度は抑えた。


「矢だ!氷の矢です!しかし魔法の詠唱は聞こえません!まさか無詠唱でしょうか!」


 観客、特に魔法学校の生徒達からは騒めきが聞こえる。良い感じに驚いてくれているようだ。


 

「矢を躱したのに転倒!そしてまた傷が増えているぞ!まさか別の魔法を混ぜているのか!」


 対戦相手が氷矢を躱したところに氷刃を打ち込んでおいただけだ。


 次はその2つに加えて、火球も混ぜていく。アキのいつもの戦闘パターンだ。ただ火球は命中させると不味いので、当たらないように調整する。


「今度は炎だ!氷と炎、そして見えない魔法攻撃。イシュタルは防戦一方!アキさんに近づけすらしません!そしてその本人は開始位置から一歩も動いていない!」


 どうやら対戦相手のチームはイシュタルというらしい。


 そんなどうでもいい事を考えていたら、イシュタルの男性剣士が長剣を手放した。威力を見せつけると言う意味で、火球を武器に命中させるのもいいだろう。アキは早速火球を長剣めがけて放つ。


「炎が剣に命中……!なんと剣が一瞬で溶けました!あの炎はなんだー!」


 実況がいい感じに盛り上げてくれるのでやりやすい。観客にアキの印象を容易に植え付けられる。イシュタルも剣が一瞬で融解されたのを見てかなり怯えているようだ。


「もう終わらせてもいいかな。」


 小さい炎を3人に向かって飛ばす。


「なんでしょう、あの小さい火球は!何か意味があるのでしょうか!」


 エスペラルドSランク戦の時と同じように、金属粉を3人の周りに既に散らてある。腐ってもAランク、死にはしないはずだ。火球を避けようと3人は左右に飛ぶが、魔法の効果範囲的にその程度の回避では意味がない。


 火球が金属粉に熱源を与え、予定通り粉塵爆発を起こす。


「なんと!3人の周りがいきなり爆発した!無事かー!」


 暫くして爆発の煙が消え、膝をついた状態の3人が現れる。


「「「降参します。」」」


 無事死にはしなかったようで、棄権を宣言してくれた。


「ここで試合終了!アキさん、結局抜刀することなく終わらせました!噂通りのとんでもない魔法職!これがSランクなのか!」


 実況が恥ずかしいのでそろそろ本当に止めて欲しい。


 とりあえずいつもと同じで代わり映えのしない戦闘だったが、この国では見せた事はないのでちゃんと驚いてくれたようだ。


「それより俺これからどうすればいいんだ。」


 何も聞いてないからどこに行けばいいのか、何をすればいいのかわからない。こんな大観衆のど真ん中で馬鹿みたいにボーっと突っ立っているのも嫌だ。


 すると場内に女王の声が響く。


「エスペラルド王国Sランク冒険者アキ殿。私の頼みを聞いて下さり感謝いたします。見事な試合でした。それでは闘技大会優勝者であるイシュタルをSランクとして認めるかの審査を致します。」


 何時の間にか実況者が闘技場まで下りて来ていた。しかも耳をぴょこぴょこ動かしながらアキのほうに向かってきている。セシルと同じ兎の獣人だ。兎耳を引っ張らねばという使命感に駆られるが、観客席にいるセシルから殺意の波動を感じるのでやめておく。


「アキさん、お疲れ様です。女王陛下へのお返事はこちらに向かって言ってください。場内にアナウンスされます。」


 実況者がマイクのようなものを渡してくる。


「ありがとう、耳触っていい?」

「なななな、なにいきなり!だめだめ!」


 残念、と思いマイクを受け取る。


 こんな大観衆の前で話すのは恥ずかしいが、女王に返事をする必要がある。アキは意を決して声を出す。


「お褒めのお言葉ありがとうございます、イアイリス・ミレー女王陛下。さて、彼らをSランクとして認めるかどうかですが……他国の冒険者である私が判断するわけにはいきません。女王陛下でご判断いただけないでしょうか。」


 女王はアキに判断を委ねたいらしい。だがそれは正直遠慮したい。


「そうですね……私としてはアキ殿に判断して頂いて構わないのですが。」


 しかしアキとしてもここは譲れないので妥協案を提示する。


「それでしたら優勝者の彼ら自身に判断して頂くというのはどうでしょう。私の魔法にもしっかり警戒されていましたし、適切な判断が出来る優秀な冒険者かと思います。」

「わかりました、ではそうしましょう。」


 アキの妥協案で納得してくれたようで、女王はイシュタルにSランク(仮)になりたいかどうか尋ねる。だが彼らは丁重に辞退した。まだまだ自分達には実力は足りないので、再度腕を磨いて挑戦するそうだ。


「では今から表彰式を行います。参加者は全員ステージまでお願いします。」


 実況の兎がそうアナウンスすると、側仕えの人がアキに表彰式に参加するように声をかけてきた。女王やベルは了承済みらしい。ベルが了承しているのであればアキに言う事はないので、そのまま闘技場で待機する。


 すると闘技場の端から女王、ベル、そしてSランクの2人が現れる。まさかベルが来ると思わなかったので驚いたが、とりあえず彼女の元へと駆け寄る。本来の仕事はベルの護衛なのだから当然の行動だ。


「ベル、どうしてここに。」


 周りに聞こえないように小声で囁く。


「ふふ、アキさん、かっこよかったです。お疲れ様です。」

「ああ、ありがとう。それより……。」

「はい、実はミレーの表彰式の特徴なんです。全参加者を集めて女王が直々に声をかけるんですよ。今回はアキさんが闘技場にいたので私も来ました。」


 ベル曰く、何でも女王は民に絶大なる人気があるので、出来るだけ公共の場に姿を見せるようにしているらしい。そして闘技大会の表彰式もその一環だと言う。確かに女王直々に労いの言葉をかけられたら嬉しいだろう。


「ベル、絶対俺から離れるな。」


 アキは注意を促す。先日ベルは襲われたばかりだ。もしあれが王族を狙ったものであれば、この表彰式は女王とベルを狙う絶好の舞台。ただベルは予定外の参加者なので狙われるとしたら女王だろう。だがベルに万が一があってはいけない。


「はい、守ってくださいね?私は貴方の女なのでしょう?」


 ベルがくすくすと笑う。ちゃんと全部わかった上で来たらしい。まあいざとなればエアルとミリーも女王の側で待機しているのでなんとかなるだろう。何もないのが一番だが果たして。

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